ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

「東方決闘鉄〜ブロントさんのMTG戦記」感想(ニコニコ動画リンク張り練習記事)

東方project』×『Magic:the Gathering』×『Final Fantasy XI』(「ネ実」/「ブロントさん」)

 はじめに言っておく。本動画シリーズは一見さんに優しくない要素の三重クロスオーバーで構成されているが、そのいずれについて良く知らない人間が見ても問題ないレベルで面白い、はず。1話と2話が前後編で合わせて2時間くらいというとんでもない長さだが、物語の質は、間違いなく良い。
(以下若干ネタバレ含む超長文)

前置き

――例えばある種の「力」、または「ルール」により支配されている世界観がある。持つ者と持たざる者の間に圧倒的なまでのアドバンテージをあける程の。
 この場合、物語として主人公はどういったアプローチを行うか。ルールに従って能力者同士で力比べ技比べを行うか、尋常の手段を用いながら知恵と工夫を凝らして異能に対抗するか、はたまたルールの穴をついた裏技を使って奇襲するのか。そういった選択肢の広さは「力」や「ルール」がどれだけ隙ないし抜け道を含んでいるか、という点によって大きく変化する。

 漫画『ARMS』においては超生命体ARMSが強大で理不尽な破壊力を見せ付けつつも、それを移植された少年達とその仲間は人間として物理的にも精神的にもARMSに負けまいとする姿勢を貫く。
 またゲーム『fate/stay night』(また前日譚『fate/zero』)劇中で魔術師や英霊はなるほど極めて強力な力を保有してはいるが、元が人間であることに違いは無い。人間が死ぬ程度の致命傷を与えられれば死ぬ(かもしれない、と断言できないのが恐ろしい)。そして魔術飛び交う戦場で、魔術師殺しと呼ばれる男は銃をメインウェポンとしている。
 あるいはアニメ『魔法少女リリカルなのは』の二次創作小説で”御神流”という剣術が活躍するもののように――本来なら作品世界の主軸となる能力*1保有者同士がぶつかりあうことで決着をつけるバトル物ストーリーで、あえて普通(能力者が特殊という意味で)の人間が介入する、という展開は少なからぬ数ある。絶対多数の一般人が極少数の特殊能力者に世界を差配されることに抗う(他方で特別な存在が社会で排斥される事もままある)、というと昨今現実に発生している事態を重ね見ることができるだろうか? そう単純に同一視もできないが。

本編

……前置きが長くなったが、ひるがえって本作「東方決闘鉄」はこういった中でもとりわけ強固なルールが設定されており、それに添わない武力・戦闘力がほとんど役に立たないという有り様である*2「Magic:the Gathering」(以下MTG)つまりカードゲームの腕前がそのまま世界(幻想郷)における実力とされているのだ。
 わけもわからず幻想郷に迷い込んだ(呼び込まれた?)騎士・ブロントもその例にもれず、元の世界で超一流と認められた冒険者としての実力がまったく通用せず敗北を経験する。カード自体を持っていなかった為である*3
 そして二度目の敗北。護ると定めた相手を背にしながら、自身がこの世界において無力であると痛感したブロントは一つの決断をする。すなわち、この世界における「力」を手に入れることを。そのために彼が何をしたかと言うと、道具屋で愛剣を質にMTGのカード*4を買ったのである。

 賢明な選択とは言えない。幸いにしてその場には凄腕の助太刀*5が現れており、彼女に任せれば自身が改めて敵にカードを使った決闘を挑む必要は多分になかった。またイレギュラーな来訪者であるブロントは幻想郷の管理者に帰還方法の模索を依頼しており、長居するつもりがないのに無二の相棒を質に入れる(その後買い戻すために働く)事は道理に合わない。
 それにそもそも、彼が敵から助けようとしたのは最初の敗北の相手であり彼を(殺して)食べようとした妖怪少女ルーミアである。どうして彼女の為にそこまでするのか……その理由、彼のバックボーンは本編にて確かめてほしい。

 ヒーローのヒーローたらしめるもの少なくとも2つは、隔絶性と唯一性(希少性)ではなかろうか。
 初代『機動戦士ガンダム』。また『SEED』、『ダブルオー』、更には最新作『AGE』にて描かれる強力無比な、兵器というよりスーパーロボット(もしくはウルトラマン)的なそれを想像してほしい。一般的な既存武力が通用しない強大な敵の侵攻に対抗しうるただ一つの希望であるということ。
 ガンダムには帰るべき場所、護るべき母艦があり、ウルトラマンは比較的非力であるが誇りを持って戦う地球防衛の戦士に度々助けられる。ルーミアを助けるためにただ一人でカード使いに立ち向かって打ちのめされ、剣の代わりにカードを使い戦うと決める。騎士を騎士たらしめるもの。盾を盾たらしめるもの。その矜持がための行動は、彼の人格的な希少性を端的に現している。
 結果として彼が得た「力」は「ルール」の中で同等同条件の相手とぶつかり合う部類のものだが、それを振るう理由がレアなのである。ブロントMTGのルールに支配された幻想郷で無力な存在だったが、その瞬間に彼はルーミアのヒーローとなった。
 付け加えると、出自として「ブロントさん」とは現代ネット社会におけるひとつの「偶像」である。

 視聴者から”次元の混乱”と呼ばれる事象により、幻想郷のありようや一部登場人物たちの現状は原作のそれと大きく様変わりしている様子なので、事前知識がある者に対し先入観を打ちのめす展開が今後も待ち受ける可能性が高い。だがそれ故に、逆に一見さんにも東方projectファンにも平等に新鮮な物語が贈られる可能性がある。主人公がMTG初心者ということもあり、ルール説明の導入も簡潔にされるのでMTGを知らない人間にも”たぶん”わかりやすい。
 ただし「ブロント語」と呼ばれるネットスラングが本編でもコメントでも始終流れるので、それはそういうものとして受け止めてほしい。

「俺はブロント、謙虚だからさん付けで良い」
「守りたくて守るんじゃない、守ってしまうのがナイト」

(参考記事:ニコニコ動画の再生プレーヤーを表示する(niconico記法)pタグの挿入を止める(pタグ停止記法))
(後記;何故だかgoogleで調べても、ニコニコ動画サムネイルをニコニコ大百科記事のように横並びにすることができず一晩かかってしまった。デフォルトらしい改行タグを限定停止させることで解決。
あと作成開始が22日だと、23日に削除したり記事を新しくしても22日の記事として記録される模様)
(追記;伝えたいことを余さず詰め込んだら分量がすごいことになった上、要点が絞られてない……)

*1:JOJO』の”スタンド”、『ハンター×ハンター』の”念能力”、『ネギま』の”魔法”、『エヴァ』の”ATフィールド”、『龍騎』の”カードデッキ”等

*2:具体的に言うと強力な妖怪である筈の風見幽香がモブを自称し人里で花屋を営むくらい。もしくは空中の相手に不意打ちで殴りかかっても無効化されるくらい。

*3:およそカードゲーム題材の作品においてそのルールから逸脱する現象(もしくはゲーム外のリアルファイト)が頻発したらその物語は佳境かネタ回といってよいだろう。

*4:しかも第5版「スターターパック」が一つだけ。直後にデュエルを控えた状況で、TCG経験者にはどれだけ無茶かわかってもらえるものと思う。

*5:最新7話にて如実に描かれるが彼女は本当に強い。