ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《頭蓋骨絞め/Skullclamp》/『極黒のブリュンヒルデ』第7話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)

 「脱走者を確実に処分してこい」
 「さもなくば 死ぬのは お前自身だ」
 「了解」

―――じわじわと不明だった点が補足されていく。明らかになるほどに絶望的な情報ばかりが。

【1】魔女、魔法使いのランク付け。【B/BB/BBB/A/AA/AAA】と6階層から成り、おそらく“開発技術”の発展と“素体の資質”に依ってより上位たりうる。この手のピラミッドの常として、後々規格外のSランクが登場したり、最下位Bランクから計算上ありえなかった筈の成長を遂げる者が現れる予感。
 そして主人公とクロネコの落下事故から10年後、定期的な処理だったのか、B〜BBBランクが処分場への護送車から脱走した事から物語が動き出した、と。寧子達の行動原理について何度か考察してきたけれど、生み出された目的、使命うんぬん以前の問題*1だった……それ故彼女らの目的・行動は彼女ら自身に添い、それ以上でも以下でもないものだと証明され、たか?


【2】魔女の証たるアジナーならぬ“ハーネスト”の3つのボタン。
 一つはハングアップ。一日魔法が使えなくなる。第2話の最後、かなで嬢が捕まっていた状態のことだろう。強力な魔法を使い過ぎると自動的になることもあるという。二重の意味でブレーカーの役割を果たす。もう一つはイジェクト。言わずもがなの処刑用機能。よほど強く押し込まねばならないとはいえ、致命的急所が剥き出しという実験台ゆえの人間側に都合のよい処置。
 しかし最後の一つは……誰も知らない。「死ぬより恐ろしい」事になるとだけ教えられたもの。皮膚が内臓が融け死ぬ事よりも恐ろしい状態とは何か? 死ぬより、という以上、それが押された状態で即死はしないと思われるが……そもそも、そんな機能が付けられている理由がわからない。研究所側の魔女を秘匿する姿勢は厳重にして苛烈。逃げた魔女を狩り、魔法を見た一般人を殺し、また魔女と人間の混成部隊を作らない。最後の一つはある意味で主人公には助かる点*2だが……一体これ以上、何が隠されているというのだろう。想像するだに、そう、恐ろしい。第1話からしアレなだけに。


【3】当面の障害となる「6001番」こと沙織は、「殺戮型」AAランク魔女、Aランク魔法2種のハイブリッド。射程6m圏内ならダイヤモンドも引き裂く斬撃に加え、もう一つ。寧子達は知っているが読者視点では不明。まあ主人公に情報が渡ったならそれで作戦に支障は出ない、きっと、たぶん。
 何千人と生み出されて、現在何人生き残っているのかはさておき、相手が知己であったのは幸か不幸か……敵の能力がわからないのはこの状況で致命的だが、同胞への感情が前線に立つ寧子を危険にする危惧がある……彼女の方は、脱走した同胞に対してどう思っているのだろうか。
 製薬メーカーに送り込まれるにあたってハーネストにビーコンが設置、一定距離離れるとイジェクトで即死。脱走してからの改良だろうけど……そういう事を気にしないほうがかえって怖いタイプだと憶測。怨みに思うよりも闘争の享楽に喜んでやしないかと。


【4】マジカル★ハッカーカズミちゃん……眼鏡じゃない(違
……既に手持ちの「鎮死剤」は無く、全身から出血していた。火事の時点で10時間から更に作戦時間までリミットが近づいた佳奈よりも、更に限界が近い。予定の時間よりも早く、薬を間に合わせなければ「退場候補筆頭」という所ではなくなる。暗躍とか危険とか以前で。
 ハッキングの為であろうか、寧子達とは使用が違うハーネストにコードを直結する様は魔女というよりサイボーグ、ロボット的である。しかし彼女には明確な情が見受けられる。共に逃げた同胞にも、死地に飛び込んだ一般人にも厳しい態度の裏返し……引き受けた仕事を遂行するまでは死ねないと気を張り、良太を小さく激励し、寧子に全てを託す。何某か彼女なりの生きる目的がある、というのに、自身の窮地を知らせることなく。
 彼女は生き残れるだろうか。良太と寧子は、助けられるだろうか。二人が直面する状況は、そんな遠くにまで手を伸ばす事を許してくれない……。


【5】なにしろ佳奈の予知は、そのままなら100%の的中率。未来が変われば、視えてそれと分かるとはいえ……待ち伏せに備え作戦*3を立てても、視える未来は変わっていない。
 発動条件はまだ不明。現状直面した問題に関する予知ができていれば、前線と常時連絡を繋げられれば役立ちそうな能力であるが……それでも結果が提示されるだけでは余程の対応力が不可欠。
 加えて、カズミちゃんとの会話にあった「脱走仲間の中でBランクでない者」。それは佳奈自身の事か、それとも彼女が知る別の仲間? たった7話、されど7話、まだ7話で情報は出揃ったとは全く言えない。ただ前歴、“寧子以外の”魔女たちの、背景が関わっている可能性もあるか。カズミちゃんの理由も、そう。


【6】佳奈が漏らした大事。寧子は魔法を使うと「大切なものを失う」。第1話で良太を助けた際の「使いたくなかった」*4という言葉が想起される。そもそも現状、魔女狩りの側は魔法を使った痕跡やら魔女の存在自体を探知する術を持たない。魔法を見られたら目撃者が殺される、という事情の方も重いだろうが……今、彼女が今のような状態である要因はそれである可能性が大。要は、記憶なのかと。
 思い返せば前回もそんなことを匂わせていた―――研究所に10年間囚われていたから、という理由で学校で勉強する知識が無い、というのは殊にカズミちゃんの例を見るに魔女に普遍的なものではない。能力特性次第で教育課程が違うとも考えられるが、エピソード記憶だか知識記憶だか、もしくはその両方だかを魔法の代償として払っている。佳奈もそうだが……推量するに、魔女のランク高低にはこの代償の種類・程度が「運用側」に都合がよいかどうかも含まれるのではと。


―――で、そんな黒羽寧子が書いた手紙。作戦に臨むにあたり良太に渡した指示書。平仮名で書かれたそれは……きっと馬鹿なことが書いてあるんだろう。いやさ、普通の意味では、いかな天才でも一介の高校生が正体不明の魔女に関わる事の方が異常なのだ。そんな、頭が良いのに馬鹿かもしれない主人公の馬鹿っぷりを見誤った気遣い、彼女の優しさが其処には込められているに違いない。
 佳奈の予知では、主人公は「たぶん死なない」。つまり寧子は佳奈を助ける為に決死で挑み、自分が死んでも彼に奪った薬を託せば仲間を助けられる、自分の不始末で殺す所だった友達を生かすことが出来ると考えたのではないか。そりゃあ予知も変わらないわ。

 だからきっと、彼女の望みは叶わない。村上良太は、読者の予想より頭の回る*5少年だったが、同時に寧子の想像を超越した馬鹿である。それこそが最早、唯一無二の希望である*6

*1:研究所に残っている全員Aランク以上の魔女たちはどうなのだろう。さしあたって沙織は。

*2:これで自衛隊に襲撃されて銃撃とか拘束とかいう可能性は薄まった。たぶん。

*3:しかも、いくら人数と手数でそれくらいしかないと言ってもあまりにも大雑把で、捨て身だ。これで主人公の機転が功を奏するとすれば、予定外の状況への対応くらいしか思いつかない。

*4:その割に腕相撲に使ったりもしているが、出力の大小……いや制御があまりきかないんだったか。

*5:微妙に/致命的に鈍感な面もあるが……。

*6:そんな風に考えでもしないと『僕は今まで当然のように生きてきた。その“当然”が崩れたとき、僕はすべてを棄てて逃げ出した……』(FFT第1章末尾)みたいな嫌な想像が沸いて仕方ないのだ……岡本倫ドS。されど決めるときは決めさせてくれるよきっと!(希望的観測)