ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《信頼ある相談役/Trusted Advisor》/『極黒のブリュンヒルデ』第21話+α

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)

「おれが生きてるうちは……絶対お前らを死なせない」

 前回の肉じゃがオチから地続き。裏も無く平和な回が続く、だと……? かえって不安になるのは何故だ。岡本倫ドSが裏で危機窮地の仕込みをしてないわけがないという後向きな思い込みの所為か。
 もしも推定第3章が研究所サイドの視点を絡めずに進むのなら……良太が今回アポイントを取り付けた相手と共に鎮死剤を手に入れる過程の一方、寧子たち魔法使いの少女としての内心を掘り下げるのが主眼になるのかもしれない。そして薬の件が落ち着いたところに不意打ちで刺客の影が! エグいなさすが岡本倫エグい(被害妄想)
 他方で人の命を助ける「魔法使い」たらんとする寧子の、年相応の学校生活。他人を助ける為に自分の寿命を削る事も厭わず、限りある命を非業の死を防ぐ為だけに使おうとしていた彼女にどういう影響を与えるか、またその結果が注目点か。小鳥が敵だとミスリードされていた折は、もうこんな日常は来ないものと思っていたな……。


 4人の食費を良太の家庭教師バイトで賄う*1現状に、寧子は自分達も働かないとと言い出す。薬に余裕ができてからと止める良太は、「一ヵ月後には負担をかけることも無くなる」とあっさり言うカズミの諦観を退けるべく行動を開始。「薬を手に入れる為に協力を得られるかもしれない相手」に魔女のことを打ち明けたいと彼女達に相談し、了承を得て連絡を取る。火曜日*2に良太から会いに行くと約束。
 前回の話からするに、引き籠もりでいて優秀な人材である「小五郎」―――村上家にとって知己か縁戚だと思われる人物に話を持っていくと推量。良太曰く、性格に難はあるが信はおける相手だという。良太は面倒事難題のある時くらいしか連絡しない模様だが、「悪いな…あんたを巻き込んで…」、と信頼と後ろめたさを含む独りごちていた。
 良太が相手の性根を見誤っていない限り、また実は相手が研究所や高千穂に所属する人間でない限り……いささか以上に後者である事への恐れはあるが、次回登場する人物は力になってくれるのだろう。ただ村上母の第一印象がアレであり、小五郎さんはその兄弟かもしれんわけで……性格、キャラがどんなんかは不安ではあるが。


 さて一方、天文台に暮らす魔法少女達。一ヵ月後には寿命を支える薬が切れる「死」が緩慢に近づきつつあるが、小鳥への疑いも晴れて打ち解けている様子。良太が帰った後の会話は女子会というより人品評価……でもやっぱり女子会?
 まず注目すべきは、基本的に口の悪い佳奈が良太への信頼を表明したことである。天体観測道中での会話や、予知の相談などを通し、また行動でもって寧子達を助けてきた成果と言えよう。ヤンデレの疑いもあるが、まず寧子を第一にする行動指針において同志と認めている。それが好意に変じうるか、また態度に『言葉』*3に出すか、という所では寧子の存在が鎹でいて予防線か。多分にこの点では小鳥も近しい。良太も命の恩人*4であるし今後更にそうなりうるが、自分を信じてくれた寧子により心は傾いているようであるから。

 さてさて問題はメインヒロインさん&サブヒロインちゃん様である。性格も体型も、在り様も。また良太に対するアプローチも対照的な黒羽寧子とカズミ・シュリーレンツァウアー。記憶の虫食い故か単純に世を知る機会がなかったか卑猥な聞き間違いをする天然ボケと、どういう訳だか頑張って色仕掛けを図る処女。もげろもげろと言われつつ*5彼女らを生かすことに専心している良太は恋愛感情を超越し既に父親のような気がしなくもない。小遣い渡したり心配でカラオケに来たり*6……それにしてもなんというツンデレまあ明らかに気持ちは寧子寄りだろう。結花の想いに気づかず、カズミのアプローチを本気にしているのかいないのか。女子を苦手とした良太の心は未だに幼馴染の死に囚われ、しかしクロネコに似た寧子がクロネコでないと思いつつ、黒羽寧子に思いを寄せ始めているのかもしれない。

『あいつ 寧子のことが好きだから』

 佳奈がそう断言できるのは、良太が本当に寧子の為に死ねる人間だと知っているからかもしれない。だが寧子は良太が好きなのは自分ではないと否定する。事実として、良太が寧子に関わった理由は寧子がクロネコに似ているからだが、魔法の代償に記憶を喪ったクロネコが黒羽寧子なのだが。過去を断片的にしか覚えていない寧子はそれに気づけないし、一度真実に気づきそれを受け入れた良太はその記憶を置き去りに時間を巻き戻された……この複雑な問題は良太がホクロの位置に気づくだけで表出するのだが、それは何時とも知れない。つまり何時二人に爆弾が投じられるかもしれない。恐っ。

「どうして私 あなたに手を握られてもドキドキしないの?」

 混浴での一次的接触が切っ掛けか、小銭入れを渡す時に指が触れただけで動悸が激しくなる寧子は恋愛の概念について極めて無知だ。第1話で良太に話しかけた同級生こと柏木さんに誘われたカラオケで、男子にモーションかけられても完全にボケ封殺。これはもう、クラス内で良太と寧子の仲は公認と見た。この視点だと、「脇を見せろ」と迫って殴られたのが縁ということになるが……。

 対してラストカット、天文台の暗い室内で独り膝を抱えるカズミ。何故誘われなんだ*7。ぼっちか。イジメか? 転入後すぐに天文部入り浸りどころか泊り込みだし、本当に友人を作れてないのか……あえて作らないのか。初登場時(声だけ)の際は一般人の良太を巻き込んだ寧子佳奈に声を荒げていたし、魔女狩りに一般人が巻き込まれる可能性は局限したいと考えているのなら―――カズミにとって良太は唯一親しく交われる「人間」なのだ。その良太に想われる寧子への嫉妬があるとすれば、積極的アプローチは好意から来ることになる。ただ、カズミは脱走魔女の中でも殊更に「貸し借り」取引*8を重視する。人を信じられない理由があるかは定かでないが、損得勘定で動く方がわかりやすく……完全に保護者状態である良太を貞操を代価に縛ろうという考えがあったのかもしれない。しかし良太は寧子が好きかもしれず、本領のハッキングで金を稼げと要求もされない。ギブ&テイクでなく与えられるばかりの関係を受け入れられない、その善意を心底信じられない? そんな憶測が沸いて沸いて。


―――寧子とカズミ、ことによると佳奈と小鳥も含めた共通点。命懸けのお人好しなんかもそうだが……よしんば本気で良太を好きになってそれを自覚したとしても、それを本気なのだと表明することが各々の理由で出来ないかもしれないこと。
 遠からず寿命が尽きて死ぬ、誰かの為に犠牲になって死ぬ可能性が依然高い事もあるが、ひとえに人への想い故に、他人の想いを慮るが故に、自分の想いに蓋をする。そんな風な感情模様も第3章の軸となるのやもと。もげェ……主人公なんとかしてくれ!


閑話:【神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM)】

―――ところでちょいと、数ヶ月前の妄想考察の焼き直しをしてみたい。先日、面白げな種が投下されているのに気づいたので。

充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
アーサー・C・クラーク

充分に分析された魔法は、科学と見分けが付かない。
―米コミック『ガール・ジーニアス』のアガサ・ヘテロダイン(クラークをもじったSF作家ラリー・ニーヴンの言葉をさらにもじったもの)


―――私の物語体験上、「魔法」なるものとは大よそ『スレイヤーズ』からDQ・FFシリーズ、『CCさくら』に『マジック・ザ・ギャザリング』。ソード・ワールド式に型月式に魔砲少女式、近年に『とある』式を加える。ああ、間に『すてプリ』『ストレイト・ジャケット』『まかでみ』等の榊一郎式も入るか。多分他にもあれこれ。
 基本は等価交換とまでは言わぬまでも、一定の様式の沿って代償コストを支払って発動する超常現象でいて普遍化した*9特殊能力の一形態。中でもコンピューターRPGTRPG、『MTG』ではコストや効果は明文化・数値化される。そうでないとゲームの数値戦闘が成立しないからだ。それらはN・K・ジェミシン氏の言から敷衍するに、「魔法という名前を与えられたシステム」である。「レーゼルドーンの開拓者たち」辺りを視ていると、それでも充分に“神秘的で、馬鹿げていて、奇妙で、めちゃくちゃカッコいい魔法”は実現しているように思うのだが、システマティックで数値計算に統制されているのは事実。ゲーム上では他にどうしようもない気もするが……「魔法」という名前でいて科学的な作法で能力が行使される物語は私が知る分でも結構ある。それはそれで面白い作品も―――と宙ぶらりんが延々堂々巡りだから是非は一先ず置いておく。

【奇跡も、魔法も、あるんだよ】

 さて、『極黒』における「魔法」とは……1人1種類、稀種だろうハイブリッドで漸く2種類扱える個人固有の超能力異能力。使い手たる「魔女」は改造手術で埋め込まれたハーネストの中に謎の寄生生物を宿し、多分にそれを「魔力」なる力の源とする。要は関係者にそうと呼ばれているだけであって、「それ魔法じゃねぇよ!」という面が大である。しかして岡本倫は、本作を魔法少女物として構築しているという。
 また現状本作の雰囲気はサイキック且つホラーである。魔女達は元人間で年頃の少女らしいメンタルを持つ反面、その身体は「得体が知れず」殊にハーネストの第3スイッチを押した日には「何が起こるか判らない」。岩を割り、未来を予知し、素因数分解してのハッキングや山を削る砲撃、果ては時間を移動する……それらは確かに社会を揺るがす異能であるが、それ自体は世の物語においてありふれているとも言える。問題はその力の根源と背景であり、彼女達が何者であるかが謎に包まれている点であり、それ故に理不尽で恐ろしい*10。その点で「魔女」は魔女らしい正体不詳でいて、しかし少女である。 

 ところでバトル物として『極黒』を考えるに、私は『金色のガッシュ*11を念頭に置く。サバイバル的であり、知恵と勇気で不利を覆す型であり、使い手と常人の相棒が主軸であるからだ。あの作品における「呪文」とは「魔物」が持ち得る「魔術」を地上で使う為の鍵であり、相棒の「心の力」を量的に消費する事で発動するシステムである……ただ劇中、「魔法」と呼べる不可思議は二度三度*12あった。それは物語の御都合とも取れるが、【顕在能力+戦術+潜在能力+運】の枠外、一人の能力を逸脱する奇跡を登場人物が引き寄せ呼び起こしたとも言える。

 『極黒』の「魔女」には生きる為、魔法を使う為のルールがあり、能力をランク付けされてもいる。ただ物語の冒頭に世界の破滅を背に主人公がヒロインを刺殺するという強烈なシーンがあり、一方でヒロインにしか世界を救えないと言い遺した女性が居る。如何に「魔女」がやりようによっては容易に社会に混乱を巻き起こす存在であるとはいえ、世界を滅ぼし、逆に救うというのは規格外に過ぎる、過ぎるのだが―――本当にそんな事象を引き起こし、また収められるというのならば、法則やルールを飛び越えた、ジェミシン氏の文脈での「魔法」を使う本当の「魔法使い」、「魔法少女」となりうる可能性をヒロイン・黒羽寧子は備えていることになる。
 黒羽寧子は破壊魔法で「随一の力」を持つと言われながら、物を壊すことしかできない。射程範囲内の何もかもを切断したり、山を削る砲撃を放つような魔法に比べて脅威度は低いと言わざるを得ない。また子細不明ながら、「地球は疾うに宇宙人に侵略されている」……魔女を生み出した研究所が宇宙人の手先という情報もある。それでいて、研究所内で宇宙人への反抗が企てられている可能性も憶測の範囲内では有る。真実が如何にあり、よしんば組織的反攻計画が存在しなくとも、どうして研究所から脱走して追われる寧子に世界を救う役が回るというのか。一ヵ月後に生きていられるかも怪しいのに。
 黒羽寧子のパーソナリティーは、鎮死錠に縛られた限りある寿命を使って他人を助ける事により、自分の命に意味を持たせるということに集約されていると思われる。もし自分に世界を救うことが出来るなら、どんな代償を払ってもそれを行ってしまいかねない。だがしかし、たった一人の魔女の何処にそんな力があるというのか。「魔法使い」を名乗り人助けを信条としても、万能には程遠いのが『極黒』の現実。参謀役の主人公が智恵を尽くし仲間と力を合わせても、取りこぼしてしまう命がある。

 でも、思うんですよ。道理なんて、覆してこそ「魔法」ってもんじゃありませんか?
 “我々”が望むなら、ホームズをライヘンバッハの滝から引き戻し、ゴジラを正義の大怪獣にすることなんて容易いはずなのですよ。

 魔法少女というのはマスコットキャラのみの支援を得て(作品によってはお兄さんお姉さんキャラの手助けが許される)、己自身の思いを掲げて戦うモノです。命令や階級制度なんてもってのほか。組織の一員として戦うヒロイン・ヒーローというのは、戦隊モノや特撮モノという別のジャンルの範疇なのです。

……なぜ、魔法はあるの? ……なぜ、変身するの? ……なぜ、大人になるの? ……なぜ、少女なの?

……なぜ、「魔女」は生み出されたのか? なぜ、その能力は「魔法」と呼ばれるのか? なぜ、改造されるのは少女なのか? それらは何の意味を持つのか。

 未だわからないことは多く、新しい情報が出るたび更にわからないことが増える有り様。ただ、ある意味において、劇中における真実がどんな姿をしていたとしても、私が本作に勝手に期待することがある。
 それはつまるところ、本作が「魔法少女」物であるということだ。『エルフェンリート』を描いた岡本倫の、序盤から血だの汁だのがドバドバ流れる、それでも「魔法少女」―――私の願望、希望的観測といって差し支えない。結末への恐れも依然ある。それでも、その概念が持つ何かをうっすらと信じている。
 岡本倫がそれをどう解釈し、描くかについての予想は全く立たないが……論理的でない御都合な奇跡(デウス・エクス・マキナ)の降臨よりも速く、「これ以上は無い」結末を魅せつけてほしいと願う。なんとなれば、魔法ゆえに。魔法少女ゆえに。


 奇しくも当方が応援する「東方決闘鉄」の第一部最終戦は、狂気の魔神操る「かつて神であったもの」、形ある世界の終末と対峙する。しかし「生きているのなら、神様だって殺してみせる」―――どんな相手であろうとも、「データがあれば倒せる」。それはかの修道会の専売特許ではなく、かくて『D&D』に回帰する。
 あるいは緻密な計算式の帰結として、あるいは思いの丈をぶつけた果てに、絶対の不可能は無いという希望だか、神さえ同じ土俵に立たせる身もフタも無いもの。
 されど、間接的にでも《甲鱗のワーム》と《極楽鳥》が世界の危機を救い、母と娘を再会させ得たことは……“神秘的で、馬鹿げていて、奇妙で、めちゃくちゃカッコいい”と、私はそう思うのだ。うん? グダグダと書き散らしたが主題は何処だったかな。

 寧子の魔法が天を衝き、無理を通して道理を蹴っ飛ばすという話だったかな? お前それ魔法じゃねぇよ!! どっとはらい

*1:登場当初から想像されていた、カズミがハッキング能力を使って口座を操作するという手法は良太により禁止された模様。それ以前にやったことがあるかないかは不明。法を犯さずとも「操網」魔法を応用できる仕事で稼ぐ事は出来るかもしれないが……魔法の使用で鎮死剤の消耗が早まるかもという懸念はまだ否定されていないな。

*2:この時点で劇中においては推定土日。学校のある月曜に誘われた寧子が出かけて、その翌日になると思われる。

*3:「本当は動ける」の真実が明らかになった暁には、肉声の可能性もある。

*4:また身代わりくらいにしか役立てないと考えていた「転位」魔法の活用法を教え、寧子を助けさせてくれた。

*5:言っているのは主に当方であるが。

*6:パルコが「人の多い街中」に建つならば、実はこの裏で例の端末の電源を入れたのかもしれない。情報取得にカズミを帯同しなかったのか/そもそも端末・受精卵について寧子以外に相談してないのかという疑問は残るが。

*7:ドイツ語で「Elfen Lied」はカラオケに入ってないかも知らんが、「LILIUM」(アニメOP)はラテン語か……いずれにしろ寧子の「荒城の月」よりある意味強烈かも。

*8:今では同胞に「情報操作の代価に鎮死剤を要求する」仕事はやってない様子……まあ脱走魔女も残り少なく、薬は更に少ない筈で、製薬メーカーから3桁の錠剤を奪ってこれた事こそ例外なのだろうが。

*9:代償A⇒効果Bという流れが実質確立している状況。また日常にはありえない特別な超能力があるとしても、同じ類の異能を持つ存在が複数居る集団(技術として学問化、それを学ぶ学園等が最たるもの)に入れば余程突出していない限りワンオブゼムとなる、という論理。

*10:読者や良太、己の実態を知らぬ魔女たちの視点に限ればの話だが。そこで気になるのは、魔女を生み出した研究所側にとり、魔女という存在がどう捉えられているのかである。

*11:世に異能バトル物は数多あれど、『とある』シリーズや『HUNTER×HUNTER』とかだと使い手が多様すぎて、また当初から「システム」や法則が明示されすぎてもいる。妄想の土台と余地を確保済で面白いのだが、使い手自身すら手探りな未知をという点では『ガッシュ』の「呪文」と「魔本」の関係の方が近しいと独断。別軸に『仮面ライダー龍騎』など。戦わなければ生き残れない!

*12:相棒が「心の力」を使い果たして呪文を使えず、ボロボロの状態でありながら全身からエネルギーを放出し、敵の自爆から仲間を守った武人ウォンレイ。また「魔物」達の故郷「魔界」を消し去ろうとする敵が完全に手に負えなくなった絶望的状況で、魔本が放つ黄金の光の下、それまでの戦いで敗れた魔物たちが力を貸してくれるクライマックス展開。