ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《謎めいた命令/Cryptic Command》/『極黒のブリュンヒルデ』第25話

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(第2巻は8月17日発売予定)

絶望と隣り合わせの青春

 ひゃっはーっ!! 良太とカズミの秋葉原デートじゃぁーーっ!!!

 冒頭から研究所サイド。高千穂との会合を終えたイチジク所長とキカコ担当官の黒服の間で5210番なる刺客の派遣が決まってヤバイが、まあ居るだろうなと思われたSランク戦乙女の存在も示唆されたが……なんだっていい、青春を満喫するチャンスだ! 今を楽しまずになんとする!


「ごめんごめん!! 遅くなってもうたわ!!」
「10分遅刻だ」「細かいこと言うなや」
「女の子がデートの時間に遅れるのはな 相手のために何度も悩みながらおめかししてるからなんやで」
「だから責めたらあかんのや」

「……そもそもデートじゃないだろ・・・」

「お―――!! ここが秋葉原か!!」「声が大きい!!」
「なぁ!! エロゲー買いたい!!」「は!?」

「おまえだって処女だろ」
「やっやかましわ! 処女の方は値打ちがあるんや!」

メイド喫茶行きたい!!」
「……いい加減にしろよお前・・・」


―――ふう……。


『今すぐ魔女どもを殺せ ならば真実を伝えよう』


―――なん……だと……。


“それでも彼はいなくならないか?”

 かくして遂に例の端末から情報を手に得られたかと思ったら、其処に記されていたのは『魔女を殺せ』という非情な言葉。あと地図。一見、海辺埠頭のような。
 今は亡き茜女史……脱走場面の回想において勿論カズミはその場に居たが、能力訓練実験担当の違い等からか、面識が無かった模様。さておき、研究者でいて魔女達を気遣うメンタルを持った女史が寧子に「信頼できる相手に預けろ」と渡した情報源から、何故そんな言葉が出てくるのか? 解せぬ。
 文面がドイツ語だったのは、医学関係で用いられる言語であるし、この物語も北欧神話からキーワードを持ってきている事から不思議とは思わないのだが……もしくは、これは一つの『試し』なのか? 寧子の選んだ良太が、本当に何某かの真実を告げるに足る相手かを……それとも端末の中身は女史自身が用意したものではなく、「殺せ」という言葉は地図が示す場所に関わる何者かの意志かもしれない。

 どちらにせよどちらでもなくとも、其処に何が誰が待つとしても―――いち早く文面を読み取ったカズミが「私は行かない方がいい」と言ったように、寧子達を連れてはいけず、良太だけで赴かねばならないのだろうか。
 此処から来る懸念は二つ。一つは如何に軍師参謀の才があろうと唯の高校生に過ぎず、4人の命を背負い込んで苦闘する良太がまた独り立ち向かわねばならない事。もう一つは、よしんば今回の秋葉原デートから帰るまでに良太カズミ/寧子佳奈小鳥に刺客が訪れなかったとしても……良太がその場所に行っている間に魔女達だけで5210番を撃退しなければならなくなる……どころか、寧子のハーネストの中身と思しき*1「グラーネ」回収を目的として戦場となった湖の近郊に捜索なり魔法的探査なり、ヤサが割れて襲撃された日にはたとえ勝てても逃亡生活一直線。これまでも何度となく懸念されてきたのだが、この推定第3章で仮初めの平穏を謳歌できていたからこそ、より終わりの予感が、重い。

 もしも地図が示す先に鎮死剤量産の鍵ないし寧子達を救う手立てがあるとしても、良太が願った普通の生活は最早風前の灯火かもしれない……そして始まるのはあてど無い放浪、ダーク魔法少女としての宿命に順ずる日々か? いざその時、良太はどうする事になるか―――彼自身の覚悟に疑いの余地は無いが、寧子は時々すごい馬鹿だからな……。


“『極黒のブリュンヒルデ』は彼女なのか?”

 他方、少し先の回想まで持ち越されるかもと思っていた小鳥の「宇宙人に会ったことある」発言の真相があっさりと。天体観測の最中に初出の折は、彼女が機密に触れ得る特別な魔女かと考えたものだが、佳奈も多分カズミも覚えていないが寧子も「反応を見る実験」として引き合わされていた模様―――合成に失敗した内臓と筋肉だけのヒトガタの肉塊に。即ちハーネストの中身こと百目アメーバ「ドラシル」は宇宙人ではなかった。話に出た肉塊は研究所で組成されているソーサリアンとやらかもしれないが……それが宇宙人を復活させる過程での失敗ならば、組織における「宇宙人」の扱いが高いの低いのか掴めない話だ。だいたい「ドラシル」が何なのか*2も逆にわからない。補完計画ではなかったのか。

 『鋼の錬金術師』の人造人間ホムンクルス、恐竜の遺伝子を復活させる『ジュラシック・パーク』。ラノベイコノクラスト』では神の遺体を力の源として魔法を使ったり巨大ロボを動かしたり。百年前発見された遺跡からかつて地球を支配していた種族を復活させようと目論むとすれば、それを大願とし主導する者たちは一体どういった存在であり心算であるか。身体か中身か背景かが尋常では無いのだろうと思うがやはり判然としない。ただ「受精卵」が宇宙人×宇宙人でなく宇宙人×地球人のそれならば、高千穂はそういった混血の末裔なのやも。
 はたして小鳥の聞いた噂によれば、彼らの目的を阻止するにはSランク魔女『ヴァルキュリア……人類を何度も滅ぼす程の魔法使いを殺すしかないという。直ぐに思いつくところでは、核兵器的な大規模破壊能力を備えているとか『ARMS』のジャバウォックのように反物質を生成できるとか……ただそういう意味合いでは、既に地球を何度も滅ぼしてお釣りが来る量の核弾頭が存在している以上、そのスイッチにクラッキングをかけられる高位【操網】魔法使いが居れば十分の様に思う。またそういった手段を是とするか否かで、大願成就以後の展望がどういうものか推量できるかもと思ったが……思い出してみれば本作は第1話からアレな未来を暗示し、その原因が寧子の力にあるのではと思わされていたのだった。


「おれにとって重要なのは人類の未来なんかよりお前たちの1ヵ月後だ」
「他のことは忘れてもいい…でもこれだけは忘れるな……
この世を破滅から救えるのは…お前しかいないんだ…」

「でも ひょっとしたら…… 私が そのヴァルキュリアを 倒さなくちゃいけないのかも・・・」


……だが、此処に来て犯人()候補がもう一人。刺客に出てはこないだろうとの事だから、研究所サイドで登場する機会が待たれる、か? 茜女史の遺言を思い出した寧子に“人類規模の人助けスイッチ”が入り、来たる日の対決フラグが立ったようだが……岡本倫ドSがそう易々と、寧子がヴァルキュリアを倒して世界の危機は去ったよかったね、とする筈が無い()。どういった手で来るかと恐々とするが……良太が言う通りまずは1ヶ月後に生き残れなければ始まるまい。

 端末の中身もそれ以外もそうだが、新情報が出るほどに謎が逆に深まる。いつものことだが。それ故に想像妄想果てしなく、気づけばデートイベントより長くなっていたのだった。
 いや違うから、今回のメインは嗚呼カズミかわいいよカズミってことだから!! 彼女の夢を叶える為なら良太もげなくていいよってことだから!?

*1:あるいは彼女に託された「宇宙人の受精卵」の可能性もあるが、その場合は何故高千穂と研究所が寧子がそれを持っていると知り得るのかという疑問が残る。

*2:界隈によれば語源は「馬」であり「グラーネ」もまた戦乙女ブリュンヒルデの愛馬を指すらしい。器の魔女が「馬」ならわかるが、また同一性を失っても曲がりなりにもヒトであるなら、中身の方が馬というのは反対に思われて解せない。名付けた側、初期開発者の意図が気になるところ。