ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《選別の秤/Culling Scales》/『極黒のブリュンヒルデ』第69話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)


置き去りにされていた真実との直面

前回の粗筋

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―――まあわかってた(震え声)。エロバカシリアス混沌著し過ぎる「きみだら」同時掲載の合併号、次回が2週先という状況で読者泣かせの引きが来るだろうという事は。つまりは予想可能回避不可能。あるいは来ると思ったら来ない、来ないと思ったら来る。良太が二度も機会を逃し、これはもう当分先だろうなと予断を抱いてた巻き戻された時間に隠された事実にカズミが気づいた傍から、彼女が良太へ伝える前にときた。つくづく岡本倫ドSはカズミを屋外で煩悶させるのが大好きだな! いいぞもっとやれ

 はたして次回次々週、ことによっては村上良太という個人の弱く情けない部分を曝け出すことになるのじゃないかと思っているが、そちらに専心させてもくれない……というより迷う時間を与えない展開があるかもしれないとも。具体的には最凶コンビの来襲だか魔女狩りに見つかるとか誰かの「孵卵」が始まってしまうとか―――このところ恋愛面に描写が集中しつつ影も見せない危機に恐々としつつ、1話冒頭をはじめとするロクでもない破滅的未来への階段降りを無意識に想像しないようにしていたなと。それは仮初の平穏を少しでも長く享受していたい・していてほしいという願望であり、こと此処に至っては「何かある方がそっちに思考を向けられて楽になれる」という後ろ向きだか目逸らしだか……要するに「限界」「終わりの始まり」「終わりの始まりの終わり」とは劇的に訪れるものでなく、真綿で首を絞めるように迫ってきていたという事。

 そして終わりを受け容れられぬならば、自分から大きく動いてみせる他にないのではないか。それは真に命を背負いリスクとリターンを秤にかけて、決断し行動するということではないか。話し合いに口を挟めなかった良太が“クロネコであった”寧子を含む彼女らを、「自分が生きている限り死なせない」という誓いを守る為には。


彼女たちの見解

「今すぐ4人を死なせて1人だけ命を助けるか それとも1週間後に全員死なせるか どちらか好きな方を選べばいい」

「ただハッキリしているのは・・・ 悩んでいる時間はもうないということだ」

「無理だ・・・命を選べるわけがない・・・
けど・・・黙っている訳にもいかない・・・
あいつらに・・・どんな顔をして伝えればいいんだ・・・」


「お 村上!! あのおっさんの研究はどうやったんや?」
「……」(黒羽・・・)プイッ「……」

「薬の開発期間は大分短縮できるようだ」「えっ!?」「本当ですか!?」
「それでも あと1ヶ月かかるんだけど・・・」
「……はぁ? そんなん全然意味ないやんか!!」「私たち死んじゃってますね・・・」『……』
『そうでもないでしょ?』
「えっ?」

『この中の誰か1人だけ 助かることが出来るわよ』「!?」

「あっ……」「え!? どういうことですかどういうことですか!?」
『だから 今残ってる鎮死剤を1人だけが使えば 1ヵ月後まで生き残れるって事 他の4人は死んじゃうけど』
「1人だけ・・・ 生き残れる・・・」

「はぁ・・・ ちょっと外で頭冷やしてくるわ 寧子 薬はあんたが管理してんのやな?」「うん」
「しっかり見張っとき 初菜が盗んで逃げるかもしれへんで」
「失礼ね 別にそんなことする必要ないよ」


「ついに生き延びる方法が見つかった・・・ 他の4人が・・・すぐ死ねば・・・
薬を管理してるんは寧子や・・・正直いくらでも薬は奪える・・・」

「アホか そんなことしたら命よりも大事なもんを失ってまうわ」

「あっ・・・」

「でも・・・もしクロネコが生きていたら おれは彼女のためになんでもするよ どんな汚名をかぶったっていい」

「そうや・・・ もし村上が・・・寧子がクロネコだって気付いたら・・・
あいつはうちらを見殺しにしてでも 寧子を生かせようとするかもしれん・・・」

「22・・・23・・・24・・・ 私の手持ち分は24日分・・・ちょっと足りないなぁ・・・
寧子達には10日分しか残ってないって言ったけど 私はバカ正直に薬の持ち数を教えるほどお人好しじゃないんだよね

「さて・・・次に私がするべき事は・・・」


「よし くじ引きで決めよか くじ引きにすれば5分の1は生き残れる可能性がある
せやけどこのままやったら 生き残る可能性0や」

「でもくじで負けたら明日には死ぬ その覚悟はあるの? 私は反対 急に明日死ねって言われても困るんだけど」『……』
『でも決めるなら明日までには決めないと 薬を無駄に消化することになる』

「だったら・・・ そのくじ引きには参加しないから私の薬返して 残り5錠」
「あんた・・・」
「別にいいでしょ? それでも残り37個あるんだから 1ヶ月生きられることには変わりないよ」ギリ

「ああそれから村上くん その薬・・・もし私達が死んでも開発を続けてよ」「えっ?」
他にも魔法使いが脱走してきたとき 助けられるようにさ*1 よろしくね」
(……前に黒羽も同じ事を言っていたな こいつも本当はいい奴なのかも知れないけど・・・)
「それじゃ話し合いがんばってね 私はもう下で寝てるわ おやすみ」

「なんやあいつ・・・協調性ないなぁ・・・」
『そりゃ命がかかってるし色んな考えがあるわよ 責めても仕方がない』「……」
「私もくじ引きはいい 薬もいらない」
「えっ?」

「それで誰かがおばあさんになるまで長生き出来るなら・・・その方がいい」

「……あんた何言うてんのや!? 自分の命が懸かってんのにそんなキレイ事・・・」
(黒羽なら 絶対そういうと思った・・・)
「私も・・・ くじ引きはいいです 本当はひと月前には死んでるはずだったんですから 今生きてるのはおまけみたいなものですし・・・」
『私も別にいいわ どっちにしろ1人じゃ生きていけないし』*2
「いいよ カズミちゃん生き残って」「どうぞどうぞ」「……」

「ななななな!! なんやそら!! 私だけが死ぬのがイヤで必死に命乞いしてるみたいやないか!!
そりゃ 生きたいけど・・・そんなこと言われて みんなの命削って・・・自分だけ生き残れるかいや・・・」「カズミ・・・」

「……そりゃ…… 生きたいけど・・・ だったらあと1週間・・・ 最後の夏休みをみんなで楽しみたいわ・・・
「……」「カズミちゃん・・・」


(それが……こいつらの出した答えか 命の懸かった話なのに 本当にそれでいいのか?
選択を恐がって 思考停止してるだけなんじゃないのか?
いや・・・命だからこそ 選択なんて出来るはずがないんだ・・・)
バシャ
「あっ!! 寧子さんごめんなさい!! お水こぼしちゃいました!!」

「冷たい・・・」「私タオル持ってきます!!」

(黒羽・・・ノーブラかよ・・・)ゴクリ     「えっ!?」

「黒羽・・・ そのホクロ・・・」「えっ?」


「僕達は天使だった」

 かつては人間であり人間でない者に変えられて、しかし人間が出来過ぎ人間らし過ぎ、逆に人間らしからぬ悟りの境地。逆ダ○ョウ倶楽部と笑えない直後引きの重さよ。魔女達の意志はそれぞれに定まり、あとは今回傍観者だった良太にぶち込まれた真実がどういう波紋を及ぼすかということ。彼の起こりうる変化に対し、魔女達がどういう受け止め方をするかということ。
 一方、現時点では最後の平穏満喫に費やされる予定の37÷4≒残り9日でもって瑞花の言葉通り何処かに存在する「かもしれない」鎮死剤を探索模索、あるいは他に貯蔵施設を割り出しカチコミ、最後の手段で真子へ特攻……という選択肢実行への「猶予」を作ったとも言える。逆に言えば「待ち」に入っていると思しきイチジク所長&真子にとっては都合が良い……そうなると「知っていた」のか天才的頭脳で「読み切った」のかは未だ定かではないけれど。

 また他方ある意味意外、ある意味意外でもなんでもなかったのは、件の「選択」について誰も良太に意見を求めたり誰を生かしたいかを委ねたりしなかったということ。寧子≒クロネコを知ったばかりのカズミはあえて聞きたくない心情も含まれていただろうし、初菜はまた別の意図があったろうが……「どんな顔をして伝えればいい」と悩む良太がそれを自分達に伝えたことを、その内心を慮ってのことでもあったのかもしれない。極言すれば寿命問題に良太は関係ないのも事実だけれど、庇護者兼参謀としての実績積み重ねへの信頼感謝と心配させまいとが混ぜ交ぜて、結果的には蚊帳の外。良太の視点からすれば、仮に寧子(クロネコ)“だけでも”を死なせたくないと思い至ったとして、しかし“こと”の直後に発露を抑え且つ冷静さを取り戻せたならば……あかん、魔女達には夏休みを愉しんで貰ってる間に単独行動で“手段を問わず何がなんでも”薬を手に入れようと突っ走りそうな悪寒。他を全員死なせて寧子だけ生き残らせようとするより健全かもしれないが、危険度段違い。一度見たものを忘れない男のクセに3巻末の寧子説教もかなぐり捨てそうで甚だ不安。何かしらの要因で全員集合するよりかは、最初から一致協力した方が成功率も生存率も高い、かなあ……? 全体から見て良太が知ってる情報って微々たるものだから、予想外の要素には予定外の介入があった方が、実際警官に射殺されずに済んだわけだし……と3巻の焼き直しで終わるとも思えず。


 堂々巡る前に話題を移そう。カズミが先んじてクジ引きを提案したのは良太が黒羽=クロネコに気づく前にケリをつけたいという焦りもあったかもしれないが、根底には良太への不信というより村上良太という男の有言実行を信じるが故の恐れでもあったとも捉えうる。否それも良太を信じていないと言えばいえるのか。しかしクジを仕込んだか真っ向運勝負だったかに関わらず命を譲られてしまい、それを受け取れなかった。普通に小賢しく普通に死にたくなく普通に仲間想い、メンバーで一等普通な娘。初菜合流時に良太が口にしたように出会ったばかりの頃ならば、躊躇無く未来を受け取っていたか、若干躊躇いながらも甘受したか……その線においてやはり、初菜はカズミの、カズミは初菜のあり得た鏡像と言えなくもない。前歴経過次第ではまた印象は変わってくるのだろうけど、今のところは。
 その初菜は狡猾と賢しさの境界線上、「私のするべきことは」というあたり生存戦略に忠実に「見せて」敢えて自分自身を「そう振舞わせている」ように感じる。それは元からずっとそうなのか、一ヶ月余りを共に過ごしてないという事への遠慮というか自分から線引きからか。皆が精一杯生きるよう唆す一方、他から助けを受けずとも良い・手を差し伸べられないように遠ざけ遠ざかる……傷つかず傷つかないように、ある意味彼女の魔法特性・個性そのまま……腹の底を打ち明けられない、という意味では佳奈だって結構隠し事が残っているが。

 薬の所持量を偽り、預けた分を回収してギリギリ一ヶ月間に合うかどうか。他の娘らがカズミ含め「一人だけ生き残る(良太と二人で生きる)」より「同胞を犠牲にしたくない」が上回ったのと違い、初菜がそう選べたのは彼女だけの時間経過が故か。カズミが躊躇い結局は拒んだ選択肢に近いものを選べたのは、それだけ良太“のみ”を欲し、且つ同胞と距離を置いているということなのか。「良太と二人きり」じゃなくて三人の可能性だって一応あったが、このまま「何も無い」と初菜一人が残る苦いEND、BADだかEASYだかNORMALだか……まあ本編中では可能性未来を逐一観測できる【予知】魔法使いでも居ないことには描写されまいね。そこはかとなくD.C.臭、要はギャルゲエロゲー化をしつこく推していくよという話。いくらなんでも『電波女と青春男』第7巻*3みたいな異次元殺法は漫画では採択できまい……なんて言っておけば、一応タイムリープ乃至ループ物に入った場合への予防線になるかな。

 まあ感想記事なんて予想を当てる為のみに書くものに非ず、起こり得て欲しい妄想起こって欲しくない懸念を書き散らして両方外した斜め上に落胆と安堵と驚嘆がごた混ぜになるのが一番楽しく、本作は実にそういう風に愉しませてくれている。異論は認める。さてさて恐れも痛みも丸ごと呑み込んで織り込んで、ゆるりと22日を待つとしよう。そんな茶の濁し方で我慢できるか? 大丈夫だ、問題ない。

*1:文脈的には一ヵ月後にしれっと現れて薬を貰い受けそうな仕込みに見えるけれど、もしかすると本当に別の脱走者が出てくるかもわからんね。それも発端である輸送事故とは別口の、これから起こる事件で……実際本当に5人(小鳥が別枠だとすると4人)だけしか残ってないのかもしれんし、真子が初菜以降脱走魔女を襲った描写は無い。逆に薬を得る目的なら初菜から奪った分だけで充分で、他にも生き残ってるけど放置の可能性も無くはないが。

*2:何度繰り返したか知れない秘匿要件、「動けば寧子が死ぬ」なら寧子が死ねば自由を取り戻せる・麻痺を擬装?する必要が無くなる……同時に生きる動機も喪われてしまうというなら、やはり2巻裏表紙は幻に終わりかねないか。

*3:長編の中にあって各章が各ヒロイン個別√後の物語というメタな代物でかつ、最終巻と劇場版?に繋ぐ。