ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

第7話「別の世界から来たヒーロー マイティ・ブロウ」/荻野純 『γ-ガンマ-』

◎ (第6話感想はこちら) / ジャンプSQ.[γ-ガンマ-]荻野純

使命に焼かれ羨望に潰され――・・・ それでも彼らは世界を託される


 扉絵はライトブライトさん。もう完全にレギュラーキャラですね。ともあれディスチャージ前後編の後日談的でもあり、また先の話に尾を引くところでもあり……当初のオムニバスだか連作から、本格的に長編へ舵取った感。実際としては2話・4話から伏線が繋がり、3話の彼女が頻出してる時点で疾うに、あるいは最初からその積もりだったかも判らないけれど。


「ミユキさんは怒ってますか? 中佐の事・・・」
「……いえ・・・ 町を守るにはレドネフ隊長の判断は正しかったと思います
傍に居られなかった私には 何も言えません」

「中佐は不器用ですが 誰よりも部下思いなんです」「……」
「ユリさんを守る為だったという事は分かってあげてください」
「はい」

「ユ リ ちゃん」ガバッ
「あれ? お姉ちゃん何でこんなところに?」
(あれ? 外なのに嫌がらない・・・)
「えっと・・・隊長に呼ばれて基地まで行ってたから・・・ それでお仕事頼まれたんだけど・・・」
「仕事?」「ユリちゃん・・・ 出来る?」
(しまった・・・一人で動きすぎた お姉ちゃん心配してる・・・)
「ユリちゃん?」
「あ・・・うん 大丈夫 出来るよお姉ちゃん」
(明らかに作り笑いだけど・・・すごく可愛い・・・!)

―――嗚呼もう、シスコン姉ちゃんたら業深すぎそんな「カラ元気絞った」笑顔が痛々しいから……。

 ともかくも次の任務。別世界から来たと称する友好的異星人“モルトスキンス・ヒカクケマ”の地球案内兼ヒーロー勧誘。思えば世界観こそ初回に提示されたが、この手の「新人」ガイダンスは初……いや今回も実質そういう仕事では無かったか。最初は引退したヒーローで2・4人目は現役で3人目が復帰話、5人目ディスチャージこそ然程期間も経ってなかった筈だが「ヒーローになったばかりの頃の話」が主題でなかったし、多分に次回「最初のヒーロー Mr.ロストマン」もそれ以前な予断がある……元プレジデントマンが戸惑いと喜びについて少し話してくれたこともあったけど、あくまで制度及び組織的導入もしくは社会的認知。完全一般人が唐突に異能に目覚めた/与えられた時にどういう風に感じるか等、その辺を掘り下げて欲しい個人的欲求、すなわち著しい脱線。

 閑話休題。怪物と化したディスチャージの首を断ったレドネフ女史が、妹を慮る姉に「やらせてやってくれ」と口にする辺り、割り切りと思い遣りを併せ持つひとなんだろうかね。実際「姉の方が」珍しくも振り回されて睡眠不足も手伝って眠り込み、妹の悩みも直感で見抜かれて相談役なのに逆に相談する有り様で、結果的に気分転換は充分に果たされた事になるし。彼の特性波長に引き付けられた怪獣なんて、空気を呼んで出番見計らった挙句ついでのように一撃粉砕されて、ある意味劇中最も不憫な扱いじゃないかなと。

「共に戦う仲間を失ったのは初めてか?」
「ううん 二回目」「そうか・・・」
「でも・・・今回は悲しいとは少し違う気持ち・・・」

「ディスチャージはさ 誰よりも正しく在ろうとする誰よりも正しい人だった・・・正義だったんだよ
でも正義の為にヒーローになった結果 家族を悲しませる事になった・・・その正義は正しかったのかな?」

「俺は戦士だから正義についてはよくわからん 戦争は双方が自らの正義を振るった事で起こるからな・・・
だがこの地球には 正義と悪が確かに在るのだろう?」
「……うん・・・」
「ならば地球(ここ)で正義を行った者は正しいはずだろ」

「俺は今まで多くの仲間の死を見てきた それで最近解った事がある
死んでいった者の正しさや意味は 残された者たちの行動で決まる」

「ディスチャージだったか・・・その男がこの世に残したモノが 何かあるだろ?」
「ディスチャージが残したモノ・・・ うん・・・あるよ」
「それがどういう意味を持っているか・・・或いはそれにどういう意味を持たせるか・・・
それは生きている者達が決めるんだ」

 洋画では『ハンコック』、他にも何かあった気もするが思い出せない……あるいは逆トリップ系やらサイボーグアンドロイド話でよくあるカルチャーギャップと力加減の効かなさでトラブル連発。ただ星ひとつを世界ひとつと認識するのみが「別世界」の故ではなく、死生観というか身を置く環境が文字通り別世界の住人とも言える。劇中地球における軍隊とは地球防衛軍を指し、エイリアン技術を装備に導入したりヒーローを誘致したりしているものの、地球人同士で戦争している描写が毛ほども見当たらないのは確かだからだ。スパロボ(OG)世界でさえ「人類に逃げ場無し」状態にあって尚、対立構造がややこしくて独立愚連隊が「大活躍」する破目に陥るというのに。対してマイティ・ブロウ氏は帝国騎士団副団長、団長昇格の為に別世界で経験を積めというのが慣習的なものか実は厄介払いorほとぼり冷まし的な処置かどうかはさておき、国と国同士の戦争に参加し、敵を殺し仲間を喪う経験を持つ。それに基づいた哲学と異文化コミュニケーション、最後は強烈無比の鉄拳が謎の説得力を与えるという大雑把かつ直裁な構造。まさしく一人で抱え込んで悩み過ぎるなって事か(何か違う)。

「いいか? 人はな 人に頼られるのが 何より嬉しいんだぜ」

「自分でもどうにもならん時は 周りの人間に進んで堂々と助けてもらえ」

「お姉ちゃんはさ・・・私に頼られたら嬉しいのかな?」
「! ……当たり前だよ お姉ちゃんはユリちゃんの役に立つ為に先に生まれてきたんだよ
頼ってくれないと 悲しいよ・・・」

「それとねユリちゃん ユリちゃんが眠る時以外 お姉ちゃんの前でも泣くのを我慢してるのも すっごく悲しいよ」

「……お姉ちゃん・・・」「なぁに? ユリちゃん」
「私……悔しい・・・」「……うん」
「ディスチャージ 助けられなかった・・・」「うん」
「悔しいよぉ・・・」

 かくして漸くちゃんと泣けた妹と、それを受け止められた姉。しかしめでたくも元気を取り戻せた後日、基地食堂でカレー食ってる所に話題に上り、目の前に現れたその男―――ディスチャージから奪った血により“戦闘員”を完成させ動くと宣言した白髪―――ヒーロー無しで事件解決する凄腕エリート第一部隊長“榊境弼”……! かつ最前、ディスチャージの足跡を辿り、実験が原因との確証は無いものの誰も知らない計画に彼を誘った人物候補にユリは白髪を見出している。彼が何時から何処に居る何者で何をどうするつもりだろうと、ただ只管に不穏である。少なくとも魔法少女ミカとか、現宇宙最強クラスが出張れば速攻解決とか容易くいかせてはくれない気がしてならず。能力も頭脳も立ち位置も厄介だが、単純な力の大小で測れない脅威度。

「心配されない様に強く生きなくちゃね あの人が強く在ろうとしたみたいに」

……たぶん北鹿姉妹は生まれた赤ん坊に会いに行けないだろう。そう考えていたから尚の事、微かなれども救いに思う。力も無い弱い人間同士の助け合い、生まれたばかりの未熟な子を愛し育むということ。生物として弱い部類にある人間の生きる術にして強み。かつてヒーローとしての極限の高みに達した最強であり、現在は力の残滓を残すのみでありながら呪縛に囚われる少女。軍に入って以降数多の人間と思いに触れ、その強さを思い知らされる。これから何が彼女を待ち受け、それを越えた先に何を見出すのか。そんな着地点は3巻くらいで結実するのかまだまだ先か、今はただちっちゃ可愛い彼女が「元気になった」事を喜ばしく言祝いで。