ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《激浪の複製機/Riptide Replicator》/『極黒のブリュンヒルデ』第78話

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―――大願妄執大義目論見。見え隠れ、錯綜


前回の粗筋



               __‐`’´””‘マ          ____\   ー‐┐    |一
                Z.    __`ゝ          \      ノ´   ⊂冖
 ∧      /|   ゙仆斗┘リート=┬-、_      \    ー‐┐   ,/
/   ∨\/   |    `L,.っ,ノ u }ノ ノ   \      ,>   ノ´   \
         |__    兀.!_// i |     l、     く.   ー‐┐ ー|ー
ー‐┐ ー|一ヽヽ /  u’ \ヽ‐’´  !|     ト、     \   ,ノ´   ̄匚ノ
 ノ´   ノ こ  /_____,  }j  ハ、  ヽ ヽ,___/    /  ー‐┐  ┼‐ヽヽ
ー‐┐  ニ|ニ.     / ___ノ /\_,≧/ u 人.   /     ,ノ´   ノ こ
 ノ´   ⊂冖   く  {上rン´  ,厶../ / ヽヽ   \    ||  ニ|ニ
ー‐┐  |     /    ̄   ノ{こ, /,〃   !|    \   ・・   ⊂冖
 ノ´   l.__ノ   \     ,.イ !l`T´ | /     |:|     /       |
ー‐┐ ー‐;:‐    \   //    l  |     |_|   ∠.、       l.__ノ
 ノ´   (_,     /   ヒ_ー–、_|ー、____,ノj┘    /        ┼‐
ー‐┐   /     /     \ ̄\ー`トー-<    /          ノ こ
 ノ´   \     \      \  ヽ  \  ヽ    ̄ ̄|
 | |   」z.___    >       \. ヽ.  ヽ   l      |/l   /|  ∧  /\
 ・・   /| (_,  /           ) lヽ   ‘,  l、      |/   | /   V
       ┼‐   \       , イ、_,上ハ   }  小          |/
      ノ こ     \     (乙≧=”’”´ ,∠,__ノ/
      ┼‐ヽ    /           厶乙iフ/
      ノ ⊂ト  く               `¨¨¨´
                \

―――と思わせ手の平スクリュー、とも易々といかせてくれない、優しくない。時に真綿で締めつけるように、時にのらりくらりと。また情報の奔流のち、行動に出ながらも意思を表明したわけではない……小五郎のやり口って、イチジクのそれと似てる気がするな。あるいは魔女狩りの男女も、ひいては極黒という物語全体が「嘘はついてない」が「真実全てを語ってもいない」、その故に良太も読者も早合点を覆され翻弄され続ける由。下手に嘘とわかる嘘は……読者から見た小五郎はついてるけど、敵意悪意により良太を見捨てたという確証もない。尻尾は掴ませない……片時も侮れず気が抜けず。思えば海水浴の頃は、不安に思いつつもなんと平和だったことか!


「meaning of birth」

「……受精卵が入ってないですって?」「えっ?」
「……まさか そんな・・・」
「あんた・・・」
「私たちを騙して・・・タダで済むとは思ってないでしょうね・・・」

「……小五郎の野郎・・・!」

「敵にシリンダーを渡すのは情報を聞いてからにしろ それまで引き伸ばすんだ」

(あの時・・・なんだか引っかかる言い方だと思ったんだ・・・!!)
「……すまない・・・知らなかったんだ・・・ まさか何も入れていなかったなんて・・・」

「そんな言い訳が通用するとでも・・・」

「そいつは本当に知らなかったみてぇだな」「は?」
「受精卵が入っていないとは言ったが カラだとは言ってねーから」

「受精卵じゃなく 成長した胎芽が入ってたんだ」「え!?」
「……それじゃまさかあんた・・・あれを培養したの!?」
「……」
「なんだよ驚いた 何も入っていないのならともかく・・・中身もわからずまともに保管出来るわけないだろ だから知り合いの教授にそれを調べてもらったんだ それをあんた達にケチを付けられる謂われはない
ただ預かっただけのおれたちが受精卵を死なせずに保管していただけでも感謝するべきなんじゃないのか?」

「胚は生きているのね」
「解凍しなきゃわかんねーよ まぁ見た目は大丈夫そうだけど」
「だったらいいわ あんたはもう帰りなさい」「はぁ!?」
「まだ質問は終わってない!」
「バカ言わないで」
「質問にいくつでも答えるなんて言ってないでしょ? 答えるのは1つだけよ」

「なっ・・・」「わかったら もうさっさと帰りなさい」
「……そんな言い分が通るわけないだろ もし1つだけなら最初に言うべきだ そうでなければフェアじゃない」
「ごちゃごちゃうるさいなぁ・・・ 従わないなら殺すだけよ」
黙れ 何としても答えてもらう」「……何言ってんのあんた?」

「黒羽!! 来てくれ!!」

「他にも外に魔法使いが2人いる」「……だから なに? どうせハングアップしてるんでしょ?」
「だいたいこっちにはイニシャライザーがいるのよ? あんた達には何も出来ないわ」

「そうだな でも3人のうちの誰かが もうすぐハングアップから回復する」
「それが何よ? だから こっちにはイニシャライザーがいるのよ?」
「わからないのか?」

「ハングアップから回復したら この場所がヴァルキュリアに探知されるんだぞ」「!?」

「研究所も今回はイニシャライザーが居ることを知ってるから 今度は通常兵器を携えた連中が沢山押し寄せるだろう」
「だったらハングアップから回復する前に外の魔女含め殺してやるわ」
「こっちだってバカじゃない 当然逃げるし隠れる どう考えてもおれの質問に答えるほうが楽だと思うけどな それでもリスクを冒すのか?」
「……このクソガキ・・・」

「いいだろう 質問に答えてやんよ」「ちょっと!!」
「ただし コレが最後な いいか?」「……ああ」
「その代わり・・・本当のことを答えると約束してくれ」

「………いいぜ だが 答えられない質問には答えねぇよ」「それでいい」

「あんた達は 鎮死剤を持っているのか?」

「持ってないわ」

「本当よ だって必要がないもの」
「……わかった・・・ 行こう」「うん」
「本当にハングアップから回復しそうなんだったら スイッチを押した状態で中央方向にスライドしとけ それで時間が来てもハングアップしたままになっから」

「あの答えでいいのか?」
「いいのよ だって 本当に持ってないんだから」


「これから どうすんのや村上・・・」「……」
「もう これ以上は魔女狩り(ヘクセンヤクト)の協力は見込めないだろうな だったら無理にでもあいつらの情報を奪うしかない」
「えっ?」

「あの工場には地下がある ひょっとしたらそこがヘクセンヤクトのアジトかもしれない だから奴らの出方を探るためにここで工場を見張る」

魔女狩りとおれたちの目先の目標は同じだ 小鳥を見つけ出すこと だから もし あいつらが小鳥を見つければ何らかの動きがあるはずだ その時 後を追いかければいい (いちじく)研究所(ヴィンガルフ)にいるならそれで研究所の場所もわかる そしてそこには間違いなく鎮死剤もある」「……」
「追いかけるったって あいつらが徒歩や電車で移動するとは思えないけど こないだ天文台に来た速さを考えればヘリとかを持ってても不思議じゃないよ」
「……」
「その時は・・・無理にでもヘリにしがみついてやるさ」


美樹さん!! 諜報員から連絡がありました!! 九もヴァルキュリアも研究所には帰投していないようです
「……なんですって?」

「まさかあいつ・・・ソーサリアンを自分1人で生成して独占するつもりじゃないでしょうね・・・?」
「ならかえって都合がいいぜ 研究所へ戻られるよりは 1107番を奪いやすいんじゃねーの?」
ソーサリアンを作るにはそれなりの設備が必要よ 九の個人資産を洗って怪しい不動産関係を探ってみて 何も出てこなければ三親等くらいまで対象を広げて」
わかりました

美樹さん ちょっと見てください さっきの彼ら・・・こっちを見張ってますよ やっぱり この近くまで呼んだのはまずかったんじゃないですか?
「仕方ないでしょ? シリンダーの中身をすぐに確認できる設備はここにしかないんだから たかが高校生とハングアップした魔女に何が出来るわけでもなし放っておいていい これ以上近づくようなことがあったら始末するわ」

「この受精卵は宇宙人がこの世に実在する これ以上ない証拠なのよ こんなものを見知らぬ誰かの手に預けておく訳にはいかないの」

「万が一 これが外に出て培養されたりしたら・・・
確実に歴史に残るほどの大変な騒ぎに世界中がなるところだったんだから・・・」


「受精卵の多胚化は影響ないのか?」
「全く問題ないね 4細胞期までの割球は全能性*1をもつ」

「つまり人為的な一卵性双生児だ 今日返したのはその片割れってことさ」
「……宇宙人の受精卵ね・・・ 一体 何が育つのやら・・・」

「少なくとも ホモサピエンスではないようだが・・・」


「カルマ」

 作者ツイートに曰く、「落ち着く」とは何だったのか。新規情報による混沌が治まったという意味か、一癖二癖もある「大人」が急増したという意味か。不良神父に小五郎類友MADに予想以上に大勢の魔女狩り達。まあ実際、一歩間違えれば即死亡なんて窮地からは脱したものの……現状で「落ち着いて」しまうデメリット……小鳥救出に関しては足踏みを強いられている。一両日中、と期限切ったからにはきっとギリギリになるのだろうな(メタ)、間に合うにせよ間に合わぬにせよ。

 はたして、良太にしろミニスカシスターこと美樹女史にしろ早合点しかけた小五郎の裏切り、のようなそうでないような。甥をはっきり見捨てるわけでもなく、知的好奇心の満足を諦めるわけでもなく(かつ目論見を関係者に悟らせず)両立させるのが実に巧妙。前々回、またもっと以前にも情報を秘匿していたがこの場合、受精卵の状態変化をも秘匿どころでなく培養⇒分裂(卵割)した細胞を半分手元に残すとは……当時界隈方々で予想されたのが珍しくも的中した形?
 小五郎が受精卵丸々ガメるなんて事もせず、不良神父の証言のお陰か騙した訳でないと判った時点で即殺からは逃れたものの、質問を継続できたのは良太の機転というか脅迫ありき。警察に連絡すれば拠点の位置が、とまでは考えられたがそこは盲点だった。ただ最後の質問はあれでよかったのか、良太が得られた情報からあれ以上の問いはなかったのか、若干モヤモヤする。確実に端的に、無駄にならないように考えた結果だと思うけれど。
……もしも薬を持っているのなら、それを消費する魔女が居る、もしくはイニシャライザーもまた魔女同様に寿命が切られた存在ということになる。逆に美樹女史の発言によりイニシャライザーは鎮死剤に依存した生命ではなく、益々どのように誕生ないし改造された何者だという疑問が残る、のはさておき。鎮死剤の製法ないし鎮死剤とは何であるのか、「もう手に入れている」という言葉の真相に……これは論文の事だと結論してしまって質問できないか。思ってもみないほど身近な物質だとしても、すぐさま鎮死剤の現物を得られる確証も無い。小五郎が一ヶ月かかると言った時点でそちらを一旦見切り、またイチジクや魔女狩りとの邂逅を経て小鳥が攫われたことで、どんなに危険であっても現物のある場所へ乗り込まざるを得ない、と。美樹女史と不良神父のやり取りからまだ何か隠し・含みがあるようだけれど、彼らにそれを教えてやる義理はなかったし……イチジクの隠れ家の前に魔女狩りアジト潜入、どちらもできるか否か、所長を追うのと情報を探るのが同時進行できない(別行動が必要?)危惧。後手に回らざるを得ないために、成り行きへ受身でやり難し。カズミに拠点内で【操網】を使わせられれば、色々捗りそうなものの諸事情が障害となるか。ラブコメする余裕なく、現場で活躍できない娘の見せ場ェ……。


 他方、かくして高千穂・ヴィンガルフ/イチジク/魔女狩り/小五郎の四者にソーサリアン・宇宙人・完全なる生命体……の階が配されたことになる。目的策動それぞれ、入り混じりどう転ぶのか。その最中で良太は寧子はどういう役割を果たす事になるか。予想し難し平常運転。また所長のみ、【小鳥(グラーネ)⇒新素体(グラーネ)】から【受精卵⇒ソーサリアン】へ繋がる経路が不明確(魔女を宇宙人?と接触させる実験はあったらしいが)なのも気になるところか。彼の場合、妹を不死の存在たらしめるという目的ゆえに脳を喰わせたグラーネを介する必要があるのだが……何故危険視されるグラーネを用いたのか、他のドラシルとは違い目的に近づける要素を含んでいるのか。小鳥が魔女としての適性が低く(グラーネに宿る妹の精神が発現せず)、それでいて逃走に適した魔法を持つことはイチジクがグラーネを確保する為の仕込みではない偶発的事態のようで……脱走事件が魔女狩りの襲撃だと明言されてなお、何処の誰が意図した何が仕組まれていたか錯綜の感が強い。当分放置されるだろう茜女史の遺言の真意とかも含め。

……そもそもの話。「完全なる生命体」と「受精卵」は微妙にズレを感じる組み合わせである。長命種であればあるほど出生率は下がり、もし本当に完全無欠なら事によると次代を産み出したり群れを成す必要さえない……それはそれで種族として「終わって」いるような気もする。精神衛生上、肉体が不老不死であるだけでは完全な存在と思えないし、現人類にその階梯を昇らせるのは無理があるとも思える。「死とは能力である」とは、生物学でも言われているようで。
 となると現段階で生成しうるソーサリアン、またかつて存在し地球上生命を創造した神の如き宇宙人は「完全なる生命体」ではなかった、少なくとも不死ではなかった? そうでなければ遺跡なぞ発見されまい。もしかすると神代上代から生き残っている個体が何処かに潜んでいる可能性もあるが……関係者が主に用語を引く日本神話北欧神話において神とは、イザナミの焼死やバルドルの死⇒ラグナロクからして「死ぬ」存在である。死後も存在し得るかもしれないが……「死ぬ」と「死ねる」、「死なない」と「死ねない」の間には狭くて深い溝がある……かつて「宇宙人」が滅んだのはその辺が鍵か? いや滅んでないのか? 高千穂の「神を滅ぼす」という題目は、今のところグラーネの孵卵一発で絶滅する支配下から脱するという意味合いで受け止めているのだけど……ううむ。想像を巡らすほどに何がなにやら頭、グルグル。徒然、遅筆。