ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《絶望の天使/Angel of Despair》/『極黒のブリュンヒルデ』第8話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)

“ダメだ!! みんな殺される!!”

――甘かった。何もかもが。作戦が、見通しが。主人公の予想に違わぬ馬鹿さ加減が。
何より、「それでもなんとかなるだろう」という読者の楽観が。
そのすべてを叩き潰すが如く、当然の帰結として黒羽寧子は……クロネコは真っ二つになった。


“おれは また・・・クロネコを失ってしまった・・・!!!”


―――かつて失って、もう取り戻せなくて、また新しく作っていこうとして、目の前で再び喪った。

  • 「随一の力」を持つが「人を殺せない出来損ない」として処分されそうになり脱走した黒羽寧子
  • 己が囮になり命を捨てれば、仲間の命は繋がり自分の命は二倍になると考えた黒羽寧子
  • 強力な魔法を使う度に記憶を失っていき、過去を忘れてしまったクロネコだった黒羽寧子
  • 小学生レベルの知識も無いのに高校に偽装転入してきて大ボケぶっこいた黒羽寧子
  • 「どんな物でもすぐ破壊〜♪」と御機嫌で歌いながら洗濯物を干していた黒羽寧子
  • 海に行く約束の為に自分の命を支える薬を節約して、血塗れになった黒羽寧子
  • 割った薪の山に「もうそんなに使い切れないよ……」と寂しげにする黒羽寧子
  • 火の不始末で薬を焼失させ、仲間を死なせてしまったと慟哭する黒羽寧子
  • 限られた寿命で尚、人助けの為に自分の命を切り売りしてきた黒羽寧子
  • 電車の中、席に膝立ちで最後の手紙を平仮名で書いていた黒羽寧子
  • 海への遠足を楽しみに、浮き輪を抱えたまま天体観測するクロネコ
  • 地球はもう宇宙人に侵略されている、と言い張っていたクロネコ
  • 体の成長に伴い、脇のホクロの位置が変わっていたクロネコ


―――黒羽寧子。クロネコ


 当方を含めブログ数件、コメント諸氏の設定予想に大幅な間違いは無かった。
……ただ、結果だけがそうではなかった。寧子が“死ぬ”としたらあの冒頭のビジョンであろうと、それが予知であるとしたら実現させまいと未来を変えられるだろう、と。先入観が何処かにあった。
 確かに予知は、未来は変わった。より、悪い方向にだ。
 寧子が切断され、下手人の前で良太は茫然自失。薬を奪い戻れなければ佳奈とカズミも融け死ぬ。

―――どう見ても詰んでいる。いかに天才だろうと「賢い選択」*1を実行できなかった村上良太。彼が手に入れられる情報、彼が動かせる駒ではどうあっても現状を打破できるようには思えない。沙織は背後で棒立ちになった少年を瞬く間に肉塊に変えるだろう。最初から無理があった。はっきりと、無理だった。良太にできたのは佳奈とカズミを*2生かす事までで、寧子を死なせない事などは、到底。
 最初の動機が動機ゆえ、彼の行動はそれ以外にありえなかったかもしれない。しかしそのことで佳奈の予知は「みんな殺される」というものに変わった。放っておいても全滅なのに、もう動けない二人に魔女狩りの手が伸びるのかもしれない。 どう あがいても 絶 望 。


―――だから、ならば。もし、もしもだ。ここから状況を打開するとしたら、それは村上良太が知らない、知り得なかったナニカだ。それは魔女生態の更なる秘奥かもしれんし、禁断の第3スイッチかもしれんし、「随一」と言われた寧子の潜在能力*3かもしれんし、思いもよらない援軍かもしれない。これ以上は直ぐに思いつかない。そもそも寧子が即死かも定かでないが、もう彼にはどうしようもない。なくなった。最初から、無かった?


 珍しくも少年主人公が男を見せて活躍するかと思いきや、そんなことはなかった。完全に予想外。今週の岡本倫は、マルキ・ド・サドをも凌駕する存在だ! とは言い過ぎかもしれないが……本当にこれからどうしようというのだろう――嗚呼、ちょっと嫌な事を考えた。実現しないで欲しい可能性を思いついた。

 英雄は果たせず、殉教者は堕つ。時間は捻れ、運命は入れ替わる。

 しかし来週は休載、だと……やはり岡本倫ドSなのか。

*1:本来彼にとって一番「賢い選択」とは、「再会」の折、また天文台での事故予知はともかくとして、その後は彼女に関わらないで生きることだった。それが出来ないまま、過去の後悔か現在の思慕かにより行動を決めていた以上、「予知が変わる」事すら必然と言えた。そうでなくて彼はこの物語の主人公たりえない、というのもまた事実であろうが。

*2:前回の時点では、カズミを生かすには手が足りない、届かないと考えていた。逆だった。そもそも彼一人で薬を確保して逃走まで実現可能なのかと疑っていたが、寧子は予知から確信していたのだろう。

*3:よしんば八つ裂きにされた寧子が未だ生きていても、ハーネストはハングアップして魔法は使えない、筈なのだが。