ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《騙し討ち/Sneak Attack》/『極黒のブリュンヒルデ』第14話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)
((コミックス第1巻は5月18日発売)

―――声には、腹には短剣。かくて安穏の日々が終わる。


 二週間と待つ間に蔵間さんとこで新入部員「鷹鳥小鳥」……あからさまに二面性を示唆する偽名だか本名だか、彼女の正体を刺客以外で予想していたし、当方も朝○奈みく●似の見た目から転時系魔法による時間移動能力者*1の可能性を考えていたのだけれど、普通に刺客だったという話。それにしても笑顔怖っ。第一印象を裏切らない反転属性、安定の急展開。


―――なんかもう、詰んでるなあ。と思わずにはいられないわけで。なにしろ天体観測に繰り出した山中で、その場に居るのは魔女と協力者と刺客だけ。敵はAランクで、佳奈が寧子の死を予知してしまう程の相手……遠距離放出系か近接強化系か知らないが、戦闘型の魔女に間違いないだろう。
 対してこちらは、人を殺せない破壊魔法使いと凶器の用意も無い参謀系一般人、野外でネットに繋げないハッカーと……身体を動かせないことになっている予知能力者。


「だって私 宇宙人見たことありますから」*2


 また、彼女が正体を顕した時点で確定している身元バレのこともある。彼女が天文部に入部してきた時点で寧子達の居所は特定されていた筈だが、翌日の夜まで手出しを控えている。天体観測をしたいと言い出したのは刺客自身であるが、良太がカズミにからかわれるのを見て寧子が魔法を暴発させるのを“良太が”目撃し尚且つ誤魔化した……ハーネストにビーコンこそ付けてなくても服の中にレコーダーやらを隠すのは容易だろうし、一度「帰宅した」彼女が研究所に見聞きしたものを報告すれば「沙織を破って鎮死剤を奪った魔女とその協力者」が何処に居る誰なのか悟られない筈も無い。
 「薬に余裕のある今しか遊べない」どころじゃなく終わっとる。例の端末から情報を引き出す暇が本当に無いとは思わなんだ。やはり岡本倫ドSか。

……ただまあ、どう考えても詰んだ、と思ったのは今回が初めてでもないわけで。一方でこの状況を打破する為に今度は何を犠牲にしてしまうのか、という危惧があるので到底楽観はできぬのだが……未来を悲観する前に情報を整理しておこう。


 まず、寧子の失われゆく記憶の事。力を使う毎に、運が良ければ些事で済んでも悪ければ大切な事も忘れてしまう。研究所でも長く実験を繰り返した為に余りの多くを喪っている*3、というカズミの言から良太は黒羽寧子=クロネコという事実に辿りつけただろうか。表面上気づいた様子は無いが、彼の頭と得た情報から時間をかければ類推できなくもない筈……気づいた上でどうするかという答えは既に出て、彼自身忘れてしまっているのだが。
 またクロネコとして彼女を想うのと黒羽寧子に恋をするのとでは何かが大きく食い違うのでは、という懸念がある。その意味で今回寧子が無自覚な嫉妬心を魔法の暴走として現わしたのはクロネコの記憶がそうさせるのか、記憶を喪った後に再構成されていく寧子の少女性なのか……と問題は男の側に限った話でもない。薬だの寿命だのあんまりに切迫してその辺を掘り下げる余裕が無くちょっとまったりした隙をついて今度は刺客が、という現状では何時この問題が顕在化するか遠く感じるが。多分に、薬の補給や安全確保という切実な問題解決*4以後か? 早く何とかと思う一方でそれ故に恐ろしくもある。平穏が危急、嵐の前触れに過ぎぬとすれば。


―――ここで少し、佳奈の予知能力の「射程」の事を考察してみようと思う。現在劇中で明言されているのは「予見した情報はそのままなら100%実現」、「予見した事象の未来が変わればそれも感知できる」の二つ。これによって市井の人命危機を知り寧子が急行し、忠告するなり原因を破壊するなりでこれを助けるのが彼女達の魔法使いスタイルであった。また鎮死剤奪取作戦の折や今回のような寧子の命が危険に晒された時も佳奈の予知が役立っている。
……何故佳奈は寧子の危機を予知できるのか? 寧子の生死は全ての予知能力者ないし世界の未来にとり重要なファクターであるから、というのも此処までの展開上納得がいく説ではあろう。しかし当方が此度考えたのは、佳奈が己の予知能力をあくまで「寧子の為に」使っている、“予知で観測すべき中心焦点を寧子に置いている”というものである。能力の行使がどういう構造になっているのか、未だ描かれていない以上は憶測に過ぎないのだが。
 全身が麻痺している佳奈が、実は動こうと思えば動けるらしいという情報が出た段に、『極黒』感想界隈で佳奈ヤンデレがにわかに巻き起こった。発信源はアカネさんとこ。文字通りのヤンデレとは言わぬまでも、親友にして恩人の「魔法使い」としての活動を支援するにあたり情報を取捨選択し、彼女が望む在り方を体現できるよう誘導してきたのではないかと。寧子に救える命を救わせてきたのではないかと。

 だが事現在に至って、寧子と佳奈は二人きりではない。佳奈の世話をするのは寧子一人ではない。良太は本気で物扱いしてもお荷物とは言わない。そして佳奈は彼に背負われるのが普通になっていて……寧子が鷹鳥小鳥に殺されると予知した瞬間に寧子でもカズミでもなく良太を呼んだ。寧子が「受精卵」を託したように、それは信用、信頼と呼ぶのかもしれない。彼女の身体が自分の意思で動くその時が間近か否か知れぬが、護られている様で護ってもいた彼女がそれを選ぶ時、あるいは「選びたくない理由」が増えた時……当方は良太もげろと叫ぶかもしれない。設定上懸念せざるを得ない死亡フラグが折れる事を、切に祈るばかりだ。


 あとエロい話題でイニシアチブをとろうと頑張るカズミ(処女)かわいい。やっぱ良太もげろ
 単行本第1巻の発売まであと一週間ちょい。表紙は寧子さん一人舞台、さて何処まで収録されるやら。

*1:コメント欄にて犬良さんの意見とレスとで考察。

*2:イチジク所長により単身送り込まれた彼女がそういった発言をするということは、実験台である魔女でありながら寧子たち脱走者より上位の機密を知らされている……Aクラス魔女は皆そうであるのか、組織大義への忠誠で以って小鳥嬢が格別の信用を勝ち得ているのか。後者であれば薬を条件にとか情に訴えるとかの説得や取り込みは通じそうに無い。他方でそれほどの彼女が持つ情報は、例の「受精卵」の謎を解く手がかりになりえるかもしれないと憶測。

*3:というより、幼少期の想い出の中にある良太の顔形が「塗り潰されて」(ここが少し怪しいと邪推しなくもない)いるように、記憶が虫食いのようになっていると見受けられる。今回の天体観測で昔おそらく良太と共に見た夏の大三角を記憶していながら、それを知った過程が抜けているように。

*4:佳奈が動かないままでいる理由が予想通りであるなら、薬の安定供給により寧子の寿命を削ることなくその縛りから脱することもできる。