ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《残酷な布告/Cruel Edict》/『極黒のブリュンヒルデ』第23話

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(……おれは・・・本当にこいつを守れるのだろうか)


 諦めんなよ、諦めんなよお前! どうしてそこでやめるんだそこで! もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメダメ諦めたら。周りの事思えよ、応援してくれる人達の事思ってみろって。あともうちょっとのところなんだから。俺だってこの−10℃のところ、シジミがトゥルルって頑張ってんだよ! ずっとやってみろ! 必ず目標を達成できる! だからこそNever give Up!!
頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る! 北京だって頑張ってるんだから!
もっと熱くなれよ……熱い血燃やしてけよ! 人間熱くなったときが……本当の自分に出会えるんだ! だからこそ……もっと、熱くなれよおおおおおおおおおおおお!!!


―――取り乱した。失礼。でもまだ手詰まりじゃないだろう村上良太。寧子が茜女史から預けられたもうひとつ、例の端末が残ってるだろう? 都合よく薬の製法がなんて事は無いかもしれないが、まだ試してない事があるだろう? 鎮死剤の解析・合成の作業過程にカズミの力を借りるとか! その辺、約束された小五郎と魔女達の接触を機に提案されることを切に願うものである。あと調査依頼した「受精卵」の中身と取引的活用法についてとか。


「……そうだな 半年で出来ればラッキー 構造が複雑なら数年だな」

 確かに状況は良くない。小五郎に第1章の経緯をダイジェストで説明*1して鎮死剤のコピーを依頼するも、出来なくはないというその過程……成分の抽出に分離・有効成分の分子構造解析、合成方法の試行錯誤は、残り一ヶ月分の薬しかない寧子達にとっては長過ぎる。一度倒産してから一般的な薬を作っておらずほぼ情報の無いドレスデン製薬の、リアルの文献にも資料の無い【DR623G】……現物のコピーといえど臨床が必要ない程度で新薬を作るのと同等の手間がかかってしまうのだ。
 
『つまり・・・1ヶ月で合成するのはもう100%不可能だ』

 小五郎が挙げた可能性。有効成分が結晶性の化合物であれば、すぐに分子構造が割り出せて合成の手順も複雑でない為、研究室の学生を総動員して1ヶ月で出来るかもしれない……しかしそんな希望も、その日の内に小五郎*2の電話で打ち砕かれた。
 だからと言って村上良太。もう手詰まりなんて挫けるには早過ぎるぞ……ッ!? お前さんが独り自分を追い詰めて背負っているものは、お前さんの賢い頭でも八方塞がれているようにしか見えない未来は、お前さんを助けてお前さんが守ってきた彼女達の願いがかかっているんだ。今は無くても、これから生まれるかもしれないんだ。

「鎮死剤がいくらでも作れるようになったら・・・私の夢もかなえられるかもしれへん・・・」
『あんたの夢なんて どうせエロい事でしょ?』
「はあ!? 大きなお世話やほっとけ!!」

 今回どうにも寧子さんはボヤっとして、何時か訪れる寿命を恐れが感じられず、もしかしなくても疾うに諦めているのかもしれない。必死に寿命を延ばそうとする良太に、自分の命なのに怪訝に思っているのかもしれない。佳奈にしても生き長らえるに越したことは無くとも寧子と命運を共にする気満々であろうし―――現状最も学校生活を謳歌している*3寧子でさえ、友達との交流に未練を感じたり生への執着心を見せるというには程遠い。それが過酷な運命を背負わされた魔女の死生観……だが生きていれば希望はある。生きていれば希望は生まれ得る。
 

 あと1ヶ月。しかない、もあるかは私には到底判らぬ。カズミはもう持っているもの*4、小鳥が千絵から貰ったもの*5。生きる願い、生きて叶えたい願いを寧子佳奈に持たせられるのか。そして命を繋げさせることが出来るのか……両方やらないといけないのが辛い所だ。具体的な策は思いつかないというか、ここは本来に村上良太が頭を働かせる場面であろうに。
 あるいは、此処まで何度も良太に助けられてきた魔女達が、一人で考え煮詰まった彼を助ける場面か? 小五郎は前回の顔芸からすれば意外なほど常識的見地から鎮死剤複製の難しさを指摘したが、状況打開の相談相手としては微妙なものがあった。まだ魔女なるものを良く知らない為かもだが―――なればこそ、当初は薬の完成後の予定だったが探求心を満たす約束故に早まるだろう小五郎と魔女の接触は好転の契機となりえはしないかと。

 絶望的報せを受けた良太。薬が作れないと知れば魔女達はどう思うだろうか、どう伝えればよいだろうか、どう接すればよいだろうか? あと1ヶ月を希望も無くどう過ごさせれば……完全に親保護者の心境だな。誰か一人で抱え過ぎの彼にツッコミを入れてくれ。
 かくして「まだ大丈夫だ」―――そんな絶望を打ち破る閃き再びを想像し、妄想し、願い、祈る。

*1:此処でさりげに、(後述によれば良太の親戚である)小五郎が良太の幼馴染=クロネコの存在と死を知っていた事が示されたり、寧子の破壊魔法に【破撃】という名前がある事が明らかにされたり。

*2:金や情では動かないと言いつつ、魔女の寿命に思い悩み自分を追い詰めてる良太の重荷を、親戚として減らしてやりたいと独語する姿に裏切りの可能性は減ったんじゃないかと思った。逆に裏切って見せて情報を流したりするかもとも思った。ただ極端で最悪な話、4人をイジェクトさせれば良太は発狂するかもしれないが荷は下りるのだ……

*3:佳奈は通えずカズミはぼっち疑惑、小鳥は未だ描写が無い。

*4:佳奈にはああ返したものの、やはりエロいことなのではないかとは思う。生殖的な意味で。刺客の問題は残るが、確かに寿命が確保できれば実現可能な願いだ。そして相手は……

*5:ただ、もう満足し切っている可能性は否めない。少なくとも薬が確保できないとなれば、推定第二章ラスト説得の半分が意味を成さないので先んじて死のうとするかも。