ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《涙の雨/Rain of Tears》/『極黒のブリュンヒルデ』第46話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)


………………………

 センターカラー扉絵はカズミちゃん様 しかしこの構図、随分前に見た覚えがあるな。これが4巻表紙に、なるのか?
 はたしてしかして、やはり構成的に奈波編と近いものを感じる。予想外どんでん返しの連続、緊張感と裏腹に下ネタで幕切る緩急とか。まあ、さておき―――


少女はまた独りで泣く

「大丈夫や もうそんなに深刻に考えとらんわ 心配すんなや
村上がなんとかしてくれるやろ」

「………」
「大丈夫や 何も心配いらへん」

「こんな・・・のんびり学校におってえぇんやろか・・・
どこか遠くに逃げた方がえぇんとちゃうかな・・・
……もう わからん・・・どうすればえぇんやろ・・・

助けてくれや……村上・・・」


 早く、早く彼女の涙を拭くんだ良太……ッ!! しかし早退して佳奈と作戦会議中だったっ!! 何故、奴は体が二つ無いのだ。もげなくていいから分裂しろ!(暴言)
 気遣わしげな寧子に平気を装うも授業は上の空で、トイレで膝を抱えて不安に怯える姿に、想起する。カラオケ回の天文台といい鎮死剤が複製不可能と知った時といい、更に遡れば鎮死剤奪取作戦前に自分の窮地を隠した事といい……どうして彼女は独りで泣かねばならないのだろう。彼女を死なせぬように作戦を立てる事と、彼女の心を安らげる事、両方やらなくちゃいけないのが辛、いわけがあるかっ!() 見せろよ主人公の本懐ッ。

……強いて彼女の生存可否とそのバリエーションのついて想像を巡らせぬ限り、此処はここまで、見たまんまな感。単行本5巻で直結すれば前回から続き涙に次ぐ涙で、高千穂ヴィンガルフの思惑が為に死の迫る魔女双方、その悲哀ぶりったら無いだろう。
 嗚呼それにしても―――ほぼ奈波で占められる4巻の発売が近いのに、良太の記憶領域にDLされた脳内彼女がなかなか再登場しないな。実際として何の因果でもなく、4巻読後に「だけど今は“元気にやってる”」と思いたかっただけなのだが。つまり思わせない気なのか……やはり岡本倫ドS(約束)。


あちらでもこちらでも、涙

「……100%確実な予知?」
『そう たぶん瑞花(みずか)だ AAAの魔法使い
私とは違う エリートよ』

「……予知を変えられない?  そんなわけがあるか」


……何時だったか、良太と小五郎が差し向かいで情報を分析している回をして、犬良氏が「俺ら」と称したことがある。今回の問答はそれに近く―――予知の実現可能性、殊に予知能力者が複数介在する場合についての問題に推論を立てている。
 100%当たる予知は、他の予知能力者とその予知を実現しよう/させまいとする第三者が居ない事が前提となると主張する良太。対し、スカジこと瑞花嬢*1が「未来に干渉」すれば、例えば良太がカズミを殺す事で実現を防ごうとしても、先んじて良太が「誰か」に殺されると言う佳奈。その通りなら如何にも完璧無比な能力で、対処しようもない詰みだが、良太は「それはないな」と言下に否定する。なんとなれば、予知実現の妨害を排除するのなら、まず良太に予知情報を伝える佳奈が殺されて然るべきで、そうなっていない以上は無謬の予知は成立し得ないと。


『…………でも・・・やっぱり無理 瑞花ちゃんには勝てない』
「らしくないな どうしてそんなに弱気なんだ?」
『弱気とか気分の問題じゃない 現実よ』
「………同じ予知魔法なのに向こうはAAA お前はB 間にいくつあるかもわからないレベルの差で不安になるのもわかる
でも・・・お前が予知してくれなければ おれは岩に潰されてとっくに死んでいた
寧子やカズミや小鳥だって確実に死んでいる」

「お前がいなかったらおれたちはとっくに全滅してるんだ
お前がいてくれたから お前の魔法があったからおれたちはまだ生きてるんだ
もっと自分の力に自信を持て」

「それになにより お前にはおれがいるだろ
敵がAAAだろうが向こうにはおれがいない これはすごいアドバンテージだぞ」

『………なにその自信 気持悪い』
「だから・・・そのくらい自分に自信を持てって話だ
おれとお前がいれば絶対に勝てる カズミを助けられる

信じろ」

『……やっぱり 私の選択は間違ってなかった』「は?」
「………なんの選択をしたんだ?」

『教えない』
「じゃあ言うなよ」


 具体的な対抗策は別として、理論的に可能とされても尚、自分の予知で瑞花(スカジ)に対抗できる自信が持てない佳奈。ある面では寧子以上に正体やら能力強度に関して憶測を重ねられている彼女だが、一旦その辺を取っ払って考えてみるとだ……実際問題、Bクラス魔女として処分される寸前の状況にあった脱走魔女達は自分たちより上位*2のAクラス魔女、彼女らに己が劣っていた為に殺される所だったということが身に染みてわかっている。だからもし研究所から刺客が来たなら、生き残るためには仲間と力を合わせねばならない。キカコとの遭遇戦における寧子の言は、反乱防止で単騎の刺客に対する連携協力の不可欠を説き、同時に個々の能力が刺客に劣るという前提からなる。良くも悪くも。それは佳奈も例外ではない……まあ同系統能力者が敵味方でかち合うのは、実は今回が初めてだが。

 カズミが拷問惨殺されるという予知ビジョンから、如何にして佳奈が瑞花の介在を察知したのか、前回彼女の口から語られた事とますます齟齬*3が出ているような気もする【予知夢】の内実について等、前回からの疑問点は据え置き……良太は佳奈の実績を説き、その意味を説いた。それは役に立たないと思われていた*4小鳥の【転位】の活用法を提示したことに似て、また瑞花という少女より【スカジ】の予知能力が大切にされるという境遇と非なる。要はカズミちゃん様が泣いてる時になに他の娘の前で男気発揮しとんじゃおらーーーっ!! という話である(違

 勘違いしちゃ駄目だ……「選択」云々はさておき、頁最後の駒で彼女が赤面してるのはフラグ立ったとかじゃなく、単に尿意を催しただけなんだ……まったくもってなんつータイミングで持ってきやがりますかこの作者は(呆)


「ひょっとしてお前 トイレに行きたいんじゃないのか?」ドキッ
『うっさいうっさいうっさい!! なんなのこのデリカシーのない男は!!』
「図星かよ・・・」
「………なんなら・・・おれが連れて行ってやろうか?」

『ふっざけんなーーーー!!』

『あんたにそんなことされるくらいなら死んだ方がマシだ!! あたしにだって尊厳があんのよ!!
ホントは見たいんでしょ死ねこの変態!! だったら漏らした方が全然いいわ!!』

「あー わかったわかった お前が漏らしたらそのソファの掃除 結局寧子がするんだろ?」『!?』
「それも気の毒だと思ったから声をかけただけだ 別にお前のお漏らしなんてどうだっていいよ」
『………』
「それじゃ 学校に戻ってるから 心置きなく漏らしてくれ」
『村上』「ん?」

『トイレに連れてって』
「わかった」


……カッカッ

…………カッカッ

………………ウッ;;


「うっ・・・ううっ・・・うぐっ・・・」
『ちょ・・・ちょっとあんた!! なんであんたが泣いてんの!?』ウッ・・・
『泣きたいのはこっちなのに・・・うっ・・・』ウグッ・・・
『うわーーーん!! うわーーーーん!!』


―――なんかね……ラスト数頁を費やしてナニを粛々と描いてらっしゃるのかと。蔵間マリコ氏の記事で、作者ツイートから「漏らしネタ」が来るかもとは聞いてたものの、てっきりスカジこと瑞花と土屋女史の介護シーンかと先入観ができてた。そうだね、トイレ介添えが必要な人はこっちにも居たね。寧子が今回の良太と同じようにトイレに連れてくシーンは描かれてたね。カズミに見たいのかとからかわれてたね。アレが伏線だなんて誰も思わないよっ! ……なにやら今回、力一杯突っ込んでばかりのような。

 良太が先んじて号泣した理由はあんまり想像したくない……ヴィンガルフの施術以降全身麻痺で長く過ごしている佳奈の下半身〜股間が筆舌に尽くせない状態で衝撃を受けたとか、『エルフェン』のノゾミみたくオムツが装着されていたとか―――これまで当方、謎に次ぐ謎が提起され新情報が混沌を深める度に、詳報が早く明らかになるように願ってきたが……はじめてかもしれない。ナニを見たか、ナニがあったか*5なんて知らなくてもいいと思うなんて……。

 読んでる時、一瞬ながら現在進行形の事態を忘れた。二日後の成否と、もっと先の不穏な予見をも。これもある意味、妙手と言えるのかな。魂消(たまげ)て呆けて、放心に至らしめるほどの。

*1:同系統能力、ヴィンガルフ的に言えば「セクションが同じ」で知己だったのか。同系統以外でも研究所内で知己になれる事はこれまでの例で明らかで、逆にカズミ・千絵姉さん(【操網】同士)の親交度合は描かれなかったものの……同系統であれば“はじめは”親しくなりうるだろう。ただA/Bでクラス分けされた上に処分となるとな……前回瑞花の口にした「殺された沢山の友達」には佳奈も含まれていると推量。あるいはそれが何か鍵となり得るか? つくづく、研究所内での魔女の生活回想はよ。

*2:憶測ながら、運用上の使い勝手という観点も一応含む。

*3:思うに、奈波が【操憶】を【視憶】だと偽装していたのと反対に、瑞花は自分の能力が何処までの代物かを把握してない/教えられていないのではないか。病気やら何やらへの嘘へは気づいていても、能力の本当の意味を知らないとしたら……土屋女史、もしくは夢で逢う良太か佳奈に気づかされる事で、「未来への干渉」を自覚的に行うことでヴィンガルフの作戦を頓挫させられたり? ただそこまで逆転できても、【予知夢】を使った時点で瑞花の死は確定しているという救い難さ。

*4:彼女のその自己認識およびBクラス判定は同系魔女に比べた魔力量・使用回数の少なさが理由なのか、高位魔女相手に一撃必殺できる可能性を教えたくなかったためか。単に運用上、そういった発想が出てこなかった=脱走者対刺客という観点で初めて出る考えだったせいかもしれない。今後の【転位】使い次第か。

*5:佳奈が実は○○○○なんて想像は基本的にしないでよかった。いや本当に。