ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《痛ましい記憶/Painful Memories》/岡本倫『極黒のブリュンヒルデ』第4巻

ねぇ 私のこと 忘れない?


 直近の連載展開と相俟って、読者の涙腺を決壊させんばかりの……!
 シリアスと天然ボケ、変態とアホの子と、絆と涙と。


 第3章のタイトル「うち捨てられし記憶」が明確に奈波を示していながら、3巻の主役はカズミちゃん様であった。本巻は第3章後半にして奈波の登場から……別れまでを収録。うぐぐ……ッ。
 公式ツイートは確認せなんだが、書き下ろしは5頁前後。また細々とした台詞の修正や、話と合間を調整した形跡も。章の締めということもあり、長編の途上でありながら一巻分の構成が実にまとまった印象を受ける。


「ここからの眺め すごくいいですね!」
「えっ? まぁ展望台だから・・・」
「写真が撮りたいです みんなと一緒に」
「……」(思い出作りなんてまだ早い……でも……)
「そうだな」


 ところで、本巻カバー下の「きまぐれキャラ紹介」も占める所の鷹鳥小鳥。保存食とか豚とか*1カズミに散々弄られ倒されてる彼女だが、刺客相手に一撃必殺になりうる魔法以外にも、存外に重要な役割を果たしているのだなと。連載時に無い、単行本限定の伏線張りと速攻消化。36話で記憶操作を受けた自覚も無く敵に回った寧子に、仲間であることを証明する封筒の中身……良太と魔女4人が映る「奈波を信じるな」という急拵えのメッセージから、良太救出作戦直後に県境の展望台で撮られた3人の写真に。小鳥がピースしつつ片手撮りで寧子を挟み……おい良太の顔見切れてんぞ()。本人ニコニコながら、少なからず抜けているのが個性というかなんというか。ボケ所が一つ違えば奈波を助けられたかもしれない、というのは結果論見方であり、あの結末に至る過程には4者4様にミスがあったとも言える*2


「街には・・・沢山の人がいるのに・・・
私を知ってる人は 1人もいない
私はまだ ずっと 死んだままだ」


 また記憶操作対策に封筒を寧子小鳥に渡す場面に連続して、ケーキ求めて街を歩く奈波が女子学生の友人グループ5人と擦れ違う場面が挿入。研究所にあって同胞からも隔離され、交流を重ねる事を許されず「友達」というものに憧れを抱く心象を強調する。
 例えば学校やら甘味やら、魔女達にわりかし通底している「普通の少女らしいもの」への純粋素朴な憧れが……彼女は強すぎたのかもしれない。そのおかげで、また記憶を弄られても変わらなかった寧子の人徳力により良太達は危機を逃れる事が出来たが、同時にそれが最期の魔法に繋がったわけで。

―――ずっと求めていたものを手に入れ、しかしそれを大切に想う余りに消し去った*3。肉体は滅び、しかし唯一人の心の内に“生きている”。


“たぶん・・・ また 出てくるから”


 いつかまた 何処かで 逢えるというなら
 幸せを感じ合えるように 私はただ 前を見つめて
 生きてゆこう 心に羽を 広げて


【第5巻】収録分頭・推定第4章〜【単行本派ネタバレ注意】

*1:「実際は脂身ばかりなので無人島へ行っても食べられる部位はなく本当ははランタンの燃料にしかならないなと思われている」……余計酷いって。

*2:一方でこういうフラグ管理的な部分が当方にマルチエンディング式エロゲー化への期待を捨てさせない。

*3:ただ29話のイチジク所長と黒服の会話部分で、課長らへの口止めが「ちょうどいいので5210番に始末させましょうか」から「ちょうどいいので5210番に時間かせぎさせましょうか」に変更されている。結花の記憶操作も次章で綻びを見せているし……記憶操作の深度と効果時間の相関次第では、課長ら6名の再登場及び、寧子達の記憶に奈波の存在が戻るのも遠い未来ではないのかもしれない。現状それ以前にカズミの明後日が……更にその前に瑞花の命が危ういのだけれどもっ。