ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《歩き回る夢/Walking Dream》、《目覚めの悪夢/Waking Nightmare》/『極黒のブリュンヒルデ』第50話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)


―――夢、夢を見ている……。

 50話記念、巻頭カラー扉絵! 豪華に天文部4魔女勢揃い。さて諸兄、急に重要ポジションに躍り出た非常食さんの髪や眼の色はイメージ通りだったかな? まんまルーシー/にゅうカラーかと思ってたらそんなこともなかった。というかカズミの紫髪も予想外だった
 さて置き、「結果」はどうしようもなく予定調和の範疇。過程がどうあろうとも、発動即ち必至……まるで彼女の能力そのままに。ただの1話分で沢山の表情側面を見せ、さらりと重要情報を流して駆け抜けて逝った……本当に? 少なくとも肉体は滅んだ。「本当に」それで「終わった」のかどうか……先例が為に断言は出来ず、その先例の如く救いが成るかと言えば楽観は出来ない。
 【予知夢】による居所探査(それも想定していた以上の情報収集力)、特殊部隊の「先読み」配置。先にヴィンガルフ側の凶悪な手札が開かれ、後は良太と小五郎が講じた策の子細や効果や如何にという按配。今回起きた事は起きた事として重大事ばかりだのに、まだ危機が去ったわけではないという事実。嗚呼、岡本倫は今週も見事にドSだ。


あした出逢った少女

「わはははははは!!」ダダダダダ「わはははははは!!」
「……なんや あいつ!?」ガッ
ゴロゴロゴロッ

ガ ツ ッ
「だっ 大丈夫か あんた!?」
「アイム フリーダム!!」「うわっ!!」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ!! ひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「……なんや こいつ・・・」

「初めまして カズミさん 私は瑞花っていいます
研究所では スカジ*1って呼ばれてますけども」

「カズミさん 村上って人と 子供を作りたいんですよね?」
「は・・・」カ――ッ「はぁ!? なんであんたそんなこと・・・」
「だから 調べてきたって言ったじゃないですか
と言っても 私は過去は見れないので 知ってるのはこれから起こることだけです

カズミさん あと5分後に「村上の子供が欲しい」ってつぶやきますから」*2「……」カ――ッ
「だから取引です 協力してくれれば 叶えてあげますよ あなたの夢」


「まだか!? 瑞花……一体いつまで未来を彷徨ってる!?
このままじゃ お前が戻ってくるまで 体がもたないぞ!!」

ジュワァアァアァアァ*3

「命は 本当に大切です 誰だって死にたくはありません
私だって そう長くは生きていられないから・・・」


 時系列は「未来」より遡り、多分に現在、天文台の外でカズミが涙していた頃。更に以前から来ている瑞花からすれば此処も「未来」なのだろうが……指定された時間(深夜2時)と人物(小鳥)に関する予知(小鳥捕縛)を確定させる為、またそれに伴う無駄死にを防ぐ為の「干渉」……予知能力の補助・余技としては余りに自在で、自由。不自由から解き放たれハイになった挙句すっ転がり大流血*4しても大笑いしてる瑞花も実にフリーダム。まあ年齢相応と言えるかもしれん。佳奈だって第2巻裏表紙を鑑みると、身体障害ゆえ本来の気質が抑制されてる面は否めまい。

 閑話休題。一転して目的遂行の為に取引で誘う「魔女」じみた気配。奈波にもそういう面が無くもなかったが、死ぬ一歩手前までいく過程で得た人の行動を誘導・脅迫する経験値はおそらく比べ物になるまい。視線誘導は自己流だった奈波と違い、その道の専門教育をされていた可能性だって無きにしも非ず。無駄な人死にを厭う性質であるとはいえ……それは誰にとっての幸か不幸となったか。
 瑞花からカズミに提示された三つの選択。一つは小鳥が山荘から出ないようにして、襲撃前にカズミが脱出すること。だが山荘へ行かずに逃げた場合、「今から」特殊部隊が天文台を襲う*5。「深夜2時の山荘/小鳥」を確認すればカズミがどう選択したかは判り、「過去」……瑞花にとっての現在に戻りそれを報告するだけで襲撃位置が確定してしまう。そして最後の選択肢……明日の夜12時に寧子を山荘へ行かせれば、彼女はそこで死ぬ*6。そうすればカズミは良太の子供が生めるだろう*7 、と。


「バッ……そんなこと・・・出来るわけがないやろ・・・!!」
「そうですね 私もおすすめしませんよ
ただ あなたが自分の願いを叶えたいなら そういう選択肢もあるということを伝えたかっただけです」

「だいたい 寧子が死んだかて 私が子供なんて生めるか 鎮死剤もないのに」
「鎮死剤? そんなもの・・・あなたたちは もう 手に入れてますよ?」*8「はぁ!?」
「あとは そのことに気づくか 気づかないかだけです」


「……そうですか カズミさん・・・そういう未来を選びましたか・・・」
「……もう 戻らなくちゃ」

「!?」ジュワァアァアァアァアァ
「瑞花!! 戻ってきたか!!
明日の2時に1107番はどこにいる!?」

「……山荘・・・どんべぇ……」
「……良くやった」

(それだけ? 私 もう 死んじゃうの・・・?
やだよ・・・やだよ・・・死にたくない・・・!! 死にたくない・・・!!
言うことを聞いて・・・がんばれば きっと生かしてもらえると思ったのに・・・
本当に私のことなんてどうでもよかったんだ・・・私の魔法だけが大切だったんだ・・・)

(また もう一度・・・夢の世界に 戻りた・・・)

「やっぱり あんた・・・大バカよ・・・みぃちゃん・・・」


―――必死は、必至で必然。「未来」で僅かな自由を楽しみ、カズミや良太達の命運を支配していた魔女は、しかし「自分の未来」を知ることはできなかった。自分があと一度の予知で死ぬ状態にあることも。それを承知の上で予知を命じられていた事も。今わの際まで。
 判りきっていた筈だった。瑞花という少女より【スカジ】の魔法、それにより得られる情報こそが重要視されていたのは。自分の体がボロボロなのは強力な魔法の代償であり、それを続ける限り何時かは死んでしまう事も。だが、彼女に他の選択肢など無かった。鎮死剤を与えられなければ死ぬ、役に立てると証明し続けなければ殺される、研究所の人間に世話をしてもらわなければ生きていけない……だから、信じるしかなかった。だから、考えたくなかったのだ。頑張ろうが頑張るまいが、自分の末路は変わらないなどと。

 土屋邑貴との短い交流も、黒服のあるかなきかの感傷も、彼女の命を救いはしなかった。高千穂がイチジク所長に【スカジ】使用許可を出した時点でこの死は確定していた。瑞花が予知を安定させようと、また無駄死にを出すまいとカズミを「説得」する為に情報を集めた時間が彼女の命を縮めた向きはあるけれど。
 はたして、何時か来るとわかっていた「死」に瀕して少女は当然の如く恐怖し、願った。ある意味では現実からの逃避とも言える。ただ、彼女は極めて特殊な魔女だった。魂だか精神だかを未来へ飛ばすその魔法が、最期に何を成し得たか、それとも願いは虚しく溶けたか……今は続報を待つ他無い。実体無き亡霊か、はたまた拠り所無き時間の迷子か。ややもすると、地球上の生命全てにとって厄災となるという1107番よりも、世界の時間線を乱す「存在」が―――なんて、予断で妄想。


After 5 Minutes?

「あの子 消えたもた・・・ホンマに過去から来たんやな・・・」
「相手は未来を監視してるんや・・・余計なことをしたら ホンマにみんな殺されてまう・・・
せやけど なんで小鳥なんやろ・・・そういえば元々 私 小鳥のこと何も知らへんわ・・・」

「あの子は誰も殺したくない 言うてた・・・小鳥が死ぬとはあの子も佳奈も言うてない・・・
だったら みんな死ぬよりは 小鳥だけ捕まる分にはええんちゃうやろか・・・」


“駅前で 深夜1時に待ってる 朝まで 一緒にいよう”
「……村上・・・ 私・・・やっぱり 村上の子が欲しい・・・」


……

…………

………………


     \   ∩─ー、    ====
       \/ ● 、_ `ヽ   ======
       / \( ●  ● |つ
       |   X_入__ノ   ミ   そんな餌で俺様が釣られクマ――
         、 (_/   ノ /⌒l
        /\___ノ゙_/  /  =====
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―――なんかもう、すまんかった。筆が進まずカッとなってやった。自分でも余韻ぶち壊しで反省している。
 駄菓子菓子。村上良太という男がこの場面で本気で雄(≠男)の甲斐性を見せられるやつかどうかは、極めて疑問に思わざるを得ない。彼の男気と甲斐性自体には疑いの余地は無いが、手紙の内容自体はカズミに危機回避を促すための「釣り」なのではないかと。よしんば本当に駅前で良太が待ってるとしても、カズミが期待する通りの意図ではなく、あくまで彼女をしなせまいとする意思に基づく行動ではないかと。実際その時間に山荘に居なければ、瑞花が予知した通りに小鳥は捕まるがカズミは銃殺されずに済む。小鳥救出の難易度は正直高いだろうが、そこまで読み切っての事ならその先への布石も打ってあるだろう。それはまず信じられる。例えば小鳥への手紙にも何某か仕掛けがあるのやもしれない。
 あるいはカズミが冷静さを取り戻せば、手紙の意図がそういうものでない事も判ってしまうかもしれない。それでも手紙を読んだ時に生まれた感情に嘘偽りはないだろうし……判った上であっても、彼女の選択は瑞花が確認している。提示された一番目、襲撃時の山荘で小鳥の傍にカズミは居ない。小鳥が捕まる事を見過ごしてしまう形になるが……拷問されても口を割らないカズミが、小鳥を見捨てただ良太と懇ろになろうとすることが出来るか? 何が、彼女を突き動かしたのか。


―――カズミ・シュリーレンツァウアーは脱走魔女で、何時死んでもおかしくない事を覚悟している。

―――処女なのによく下ネタに走る。薬にガメつく生に執着するが、仲間想いでもある。

―――彼女はきっと、自分がいつしか惚れた男のことを信じている。


 私は「良太を信じるカズミ」を信じ、「カズミを信じる良太」を、信じよう。

*1:魔女番号でないコードネームはAAAランク以上の魔女に与えられる。Sランク「ヴァルキュリア」の名が出た時点では明確でなく、徐々に類推される他なかったもののようやく確定。残る不確定項は「グラーネ」か。あと、ベクタークラフト系大型生体兵器登場の目は大分薄まったかもと。

*2:そこはかとなくジョセフ・ジョースター臭。能力はラスボス的時間系統なのに。

*3:神経細胞が破壊とか心臓が止まるとか生易しいレベルで融解。鎮死剤は魔女の肉体維持に不可欠であり、同時に魔力の補充でもある≒肉体は魔力で維持されているという推察。転じて、魔力を使い過ぎると肉体の崩壊を招く可能性。ハングアップは反抗防止と同時に肉体を保全するリミッター機構であると。もし【予知夢】の途上でハングした場合、情報収集が不十分に終わる可能性があるため、【スカジ】瑞花のハーネストはリミッターを解除させられていた? 現段階では妄想の範疇だが、今後【転位】を用いた無効化戦術が通じない=死ぬまで魔法使い放題=殺すしかない相手の登場前兆。

*4:此処だけ見るとちゃんと実体があるように見えるのだが、カズミが貸して血みどろになったハンカチが瑞花消失後に真っ白に戻り、まったく痕跡を残していない。「干渉」はあくまで話術誘導に依り、物を動かしたりは出来なかった模様。だったら何故石に転げて木に激突するのか、という疑問はあるが……ひとえに彼女の気の持ちよう、彼女の望む通りの在り方だったのではと憶測。触れたのではなく、触れたのと同じようにしてみせただけで。其処に生きているかのように。

*5:佳奈が100%予知の強大さを語るときに例示した状況と似ている。良太は「それは無いな」と否定したが、それは佳奈の予知対象がカズミの生死であるのに対し瑞花の実現すべき未来はそうでなかった為であろう。前回の予知変更時点で良太はおそらくそれを確認している。

*6:遺体は胴体に大穴。スラグ弾とか? 若干解せない。ディクロニウス相手ならまだしも7620番の【破撃】相手に拳銃弾も砲弾も変わりないとすれば、弾幕飽和攻撃でハングアップ、また死角から防御を抜き「当てれば勝ち」のところを敢えて弾速遅く威力過剰を用いるだろうか。また小鳥をその場で殺せない以上、あまり派手な攻撃は出来ない……寧子を殺すのはヴィンガルフではないかもしれない? ヘクセンヤクトか、それか脱走魔女の生き残りでも?

*7:「今現在」カズミの所に現れたり、そうしなかった場合のカズミの言動を把握している事もそうだが、ことにこの点で瑞花の予知が可能性未来の何処までに及ぶのかが計り知れない。単純に、寧子がそのままなら山荘へ行って死亡する運命にあったとしても、元は深夜2時の小鳥を対象にしていたのにそれ以外の生き死にをも?と。また「カズミが良太の子供を生める」と断言できるのは予知情報からか単に「条件を満たした」ということなのか。一言「調べた」の含意が掴みきれない

*8:瑞花「最期の」?爆弾発言。まさかの青い鳥。小五郎が解説した所の科学的薬品精製法。受精卵と【ドラシル】遺骸、宇宙人ソーサリアンに含まれる地球上に無い塩基配列。また先述の鎮死剤=魔力補充薬説と……「寧子が死ねば」「子供が生める」? まさか同胞同士で喰い合えという展開じゃなかろうな。最序盤に妄想した鎮死剤をかけ同胞と「戦わなければ生き残れない」がにわかに想起。いっそ型月式「体液に魔力が宿る」に則りエロス展開すればいいものを! 地球は「疾うに宇宙人に侵略されて」いて一般人に、ひいては良太に宇宙人の血が流れているのなら?