ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《生命を破滅させるもの/Bane of the Living》/『極黒のブリュンヒルデ』第76話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)


「わわわわわ 私が・・・ 人類滅亡のスイッチ?」

前回の粗筋

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―――区別も無く容赦も無く、一切合財を殺し尽くす……文字通りに「世界を滅ぼす猛毒」(廃棄王女)なるかな。いやさ、毒は最初から衆生に仕込まれていて、そのトリガーが小鳥に埋め込まれたというだけの話だが……ドラシルもまた宇宙人再生の一工程とすると、リセットは「ルーシーの中の人」じみて内なる宇宙人≒神の意向と捉えられなくもなく、やはり「魔女の人格はドラシルのもの」という言説は若干引っかかるかね。
 はたしてエルフェンリートが突然変異やら進化論寄りだったのに比べずとも、強烈に創造説ID論じみた世界設定がブチ撒けられたものだ。『レベルE』『天地無用!』『学園戦記ムリョウ』みたく人知れず宇宙人が地球に来訪入植してたという規模を、『鉄腕バーディー』みたく時間遡行した量子コンピューターの過去改変というレベルをも超え、「とっくに宇宙人に侵略されている」という言葉の、それが真意か。侵略という表現が役者不足ですらある。むしろ研究員でも魔女でもなかったクロネコが何故何処でそれに気付いたのか、寧子との同一性が不確かである以上確かめられないが……いずれ明らかになってくれねば腑に落ちない。現状がそれどころじゃない、というのも全くもっていつものことだが。


“初めに言葉ありき、言葉は神と共にありき、言葉は神であった”

「小五郎 前にシリンダーを預けただろ?」「ああ」
「受精卵かもしれない細胞が入っていると言っていたけど・・・その後何かわかったか?」

イヤ 友人の生化学の教授に調査を依頼したが詳しいことはまだわからない
「……そうか あれをヘクセンヤクトとの交渉に使いたいんだ 一旦引き上げたい」「……」
「かまわんよ 同じ大学の研究室だ すぐに用意出来る」

『……ちょっと なによ一体・・・気軽に連絡しないで欲しいんだけど』
「小鳥は見つかったのか?」
『……もうあんた達には関係ない事よ』
「詳しい話が聞きたいんだ もう一度会いたい」『バカ言わないで』
『何の義理があってあんたに情報を与えなきゃいけないわけ? こっちには何のメリットもないわ』
「……」
「シリンダーはおれが預かっている」
『は・・・?』
『え!? 何ですって!?』

「初めてあんたと通話した時 おれを別人と間違えてシリンダーの事を聞いたな
この端末と一緒にシリンダーもこっちの魔法使いから受け取ったんだ
中には受精卵らしき細胞が入っていた 液体窒素が抜けかけていたから保存器に移し替えてある」
『……』
「おれには必要ないし別に返してもいい その代わりおれの聞きたい情報を教えてくれ
GPSを伝ってここへ来ても無駄だぞ 別の場所に保管してあるし 聞きたいことを聞くまでは絶対に返さない」

『……はぁ・・・ 仕方ない いいわ
後でその端末に地図を送る そこへ持っていなさい』
「……わかった」
『死ね!! このクソガキ!!』ブツッ
「……」

「どうだった?」
「交渉成立 受け渡しの場所を連絡するってさ わ もう来た」
「どこだ?」「……東京の外れの方だな 電車で3時間ちょっとだ」
「もう時間も限られてる 早速行ってくるよ」
「村上!!」
「あんたアホか? せっかくあいつらから逃げたのに またのこのこ出て行くんか? あいつらうちらを殺す気満々やったで?」

「でも仕方ないだろ 小鳥を助け出す手がかりはヘクセンヤクト以外にない 目的は違うけど小鳥を探しているのは同じだ あいつらは小鳥を殺すために おれたちは助けるために
それにあいつらは研究所の研究員だ 鎮死剤も持っていないとは言わなかった 出来る限り情報を引き出したいんだ」

「村上くん だったら私も行く」「……黒羽・・・」
「私も行くよ 村上くん キミ危なっかしいから」
「はぁ・・・しゃあない私も行くわ 小鳥を放っとくわけにもいかんしな」
「……お前ら・・・ わかってるのか? お前達は魔法を使えないんだぞ?
ヴァルキュリアに場所がバレないようにハングアップしたままでいなくちゃいけないし 向こうにはイニシャライザーもいる
それに魔女狩り(ヘクセンヤクト)はその名の通り魔法使いを殺すと言ってるんだ また命を危険にさらすことになる」

「でも・・・ 村上君だけを危険な目に遭わせたくない」「……」

「そうだな 今 必要なのはみんなの力を合わせることかもしれない
一緒に行こう 協力してくれ」
「……村上くん・・・」
「あら意外 素直に言うこと聞くなんて」
「協力も何も 最初からうちらの問題やろ・・・」

「佳奈ちゃんはお留守番してて」
『しゃーない・・・私が行ってもお荷物感が半端ないし・・・』
「おっさん・・・佳奈が動けやんからって変なことすんなや?」
「バカ言え 私は女に興味はない まして小娘など」

「ミヤコ!」

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「はい お呼びですか?」

「留守の間 この子の世話を頼む 体が動かないんだ」「あらあら」
「誰?」「うちの家政婦だ」「美人だな・・・」「……」

『みんな 気をつけてね』「……ああ」


「これだ 中の液体窒素も充填してある」

「敵にシリンダーを渡すのは情報を聞いてからにしろ それまで引き伸ばすんだ わかったな」「……ああ」


「待ち合わせは この廃工場だ・・・」「うわ・・・不気味やな・・・」カタカタカタ
「黒羽・・・なんでそんなに怯えてるんだ?」
「だだだ・・・ だって・・・」ブルブル
「別にお化けとか出ないぞ」「えっ? 出ないの?」
「ホントにお化けの心配してたのかよ・・・ 先におれが1人で入る 何かあったら頼む」「わかった」

「あんた 他人事によくここまで首を突っ込めるもんね」
「シリンダーを返して」
「今は持っていない ここへ来る途中に隠した」
「はぁ?」「こっちの質問が先だ 教えてもらったらシリンダーの隠し場所を教える」
「ダメ シリンダーが先よ 約束は守ってあげる でも魔法も使えないあんたたちが私と交渉できるなんて思わないで
こっちはいつでもあんたを殺せんのよ なんなら腕を一本ずつもいでいってもいいけど」

「……全く・・・ ほら」
「小賢しいマネを!! 確認して 言っとくけど私たちを騙したら 即殺すからね」「騙さないよ」
「で 何?」「聞きたいことはいくつもある」
「なぜみんな・・・小鳥を殺したがるんだ? なぜ小鳥だけが特別なんだ?」
「……」
「昨日も話したでしょ? 魔女たちの「ドラシル」が孵卵すると宿主である素体をまず捕食し
その後 他の人間も捕食し始める
でも鷹取小鳥に入っているドラシルは「グラーネ」と呼ばれる特別製なの もし孵卵すると・・・」

「その瞬間 地球上の全生命体の細胞が融解し 地球は一気に無生物の星になる」「……は?」

「そんな訳あるか!!」「でも そういう仕組みになってるのよこの惑星の生物は 誰かの都合でね

「それだけじゃない 鷹取小鳥のハーネストの一番上にあるボタン それを押すとグラーネの孵卵が強制的に始まる
つまり鷹取小鳥のボタンひとつで全人類が滅んでしまうのよ
そんな核のスイッチよりも危険なモノを野ざらしにしておくことがどんな異常事態なのか理解出来るでしょ?
だからグラーネが孵卵する前に鎮死剤切れかイジェクトでグラーネごと小鳥を殺すしかないの」
「……」

「……研究所はね グラーネを埋め込まれた魔女は最低でもヴァルキュリアレベルの力を持つことを想定していたの
でも宿主である「鷹取小鳥」の素体が出来損ないだった そのためにろくな魔法が発現しない
だから(いちじく)は小鳥を処分してグラーネを取り出し もっと強力な宿主に入れ替えようとしている
そうなって手が付けられなくなる前に私たちはグラーネを・・・鷹取小鳥を殺さなければならない」

「悪いけど 鷹取小鳥はどっちにしろ死ぬしかないのよ」


Apoptosis / Necrosis

―――「女は馬鹿だから嫌い」だと言いながら豪邸に和服美人の家政婦雇ってる……だと……? いや家政夫だと佳奈が困ったろうし小五郎と二人きりも、それはそれで見たかったかもしれない。あと単行本表紙とかカラー扉絵に登場するまでは確定でないけど、以前から似て非なる個性だと思っていたが、カズミと初菜が並ぶとすごい姉妹っぽいな(脱線)

 閑話休題。久々に焦点当たった受精卵と引き換えに、前々回からのヘクセンヤクト見解補足。彼女らは彼女らでそれが真実だと考え行動し、幾分か本当の事を含んでもいるのだろうけど、やはり「セクションの壁」を意識せざるを得ない。またイチジク所長があくまでヴィンガルフ及び高千穂の意向に沿って小鳥を処分するだろう、という予測と亡き妹の復活の為に完全な宇宙人再生という意図とが微妙に噛み合わず擦れ違い……片方のみしか見聞きできない良太達が人類存続的な意味でも小鳥を助けるという意味でも「最も冴えたやり方」を見出せるか否か、とタダでさえ無理ゲーなところに途方も無いハードル無茶振りを期待/危惧する。よしんば魔女狩りとの一時共闘を取り付けられたとて、探索から奪還から可能なのか間に合うのか具体的なイメージ見通しもないけれど……そこはOHANASHIするまでもなく力を借り危機を分かち合う姿勢に回帰した良太に丸投げということで()。

 ところで魔女狩りが想定する小鳥グラーネの行く末は、脳内彼女曰くの寧子の強力なドラシルを別素体に移そうという話と符合する。また第3スイッチが(真子除く)魔女共通の強制孵卵機構だとして、イジェクトで融け「死ぬより恐ろしい」というのは魔女への警告というより人間への脅威と見えるが……そもそも何故そんな機構が必要なのか、そしてグラーネを埋め込んだ小鳥のハーネストを真子と同じ仕様にしなかったのは何故か。あるいは奈波が“万に一つの可能性で寧子が融け死なずに状況を打開できる”と言った根拠は何か。ここら辺を混ぜこぜにすると、小鳥の(もしくは次にグラーネを埋め込まれた魔女の)孵卵=全ての終わりではなく「その先」が何かあり得るのではないかと邪推してしまう。あるいは全生命融解なんてカタストロフを押し留める何某か。
 しっかし、人のみならず全生命の細胞と来たか。世界の時間が巻き戻るなんて話は無かった。ミミズだってオケラだってアメンボだって……殊にミミズが居なくなると土壌がヤバイな。いやヤバくなって困る生物も軒並み居なくなっているのだろうけど。あと菌類・細菌だって細胞性生物で……非細胞性生物というとウイルスくらいなのか。本件に関してはウイルスプログラムというより最初からそのように創られたか、それとも後から改変させられたか……ウイルス、ベクター……脱線脱線。生き延びるにはより高次に昇るか実体を喪うか、細菌未満かとは、つくづく「人類に逃げ場無し」。

 カタストロフという意味では常に念頭にあるのが第1話冒頭のアレだ。当初の候補は単純に破壊魔法を暴走させた寧子であり、小鳥ショックを経て元ヴァルキュリアと最強破壊魔法が開示された事で今尚危惧される。次いで「地球を何度も滅ぼす力を持つ」というヴァルキュリア真子も、ジャバウォックじみた反物質生成は全力でなくとも山一つ爆発させる凄まじさを見せ付けた……が今の所は放って置かれている感(そして忘れかけた頃に再浮上する懸念)。そして前々から危険性を仄めかされ前回今回と一気にクローズアップされたのが小鳥、の内なるグラーネ。嘘か真か、地球上全生命をイジェクト死させるというのは前二者とは桁というかタガが外れている次元違いであり、いかにも人間(主に大義に従う研究所員)が魔女にしてきたような被造物扱いとも言える。
 ただ仮に、これが件の破滅をもたらすとすると解せない点が一つ。その時点で良太が、彼に刺殺される寧子?が、またもう一人の影が人の形を保っているということである。もしも村上良太が既に人間を逸脱しており、あと二人が孵卵後も生き延びた超魔女的存在だとして、それはそれで何かがおかしい。瑞花曰く良太とカズミは子供を作ることができ、また佳奈は何度も二人の死を予知している。次代に生を繋げうる、死すべき命。それは高千穂が謳いイチジクが妹を蘇らせる為に求める“完全な生命体”とは喰い違うし、つまり現時点では良太も寧子もグラーネ孵卵のカタストロフを生き抜ける存在ではない……これから先はわからないが。


 さてさてさて。怒涛が如くに衝撃の事実に曝され続ける良太が平静を保って、ともかく現状聞くべきことを必要な情報を得られるや否や。何故かくも危険なグラーネが、ひいてはドラシルが存在し、それを埋め込まれた魔女を作っているのか。その辺も大層気になる次第ではあるが、小鳥&イチジク所長サイドはまだしも魔女狩りが全部知ってるとは限るまいね。
 そういや彼女らの装束というか扮装というか、様式的に天地創造を是認する立場なのだろうか。米国では天地創造博物館なんて代物があり進化論と並行して授業で教える云々で裁判するくらいのイデオロギーだが……まあ小鳥の危険性の前提であるところのアポトーシスを真だとすれば否定し難くもあろう。それとも高千穂やイチジクのようにその頚木から脱しようとするか。良太はどう思おうとやる事は変わらないだろうけど、小五郎はどうだろう? それとも、もう知っている? いや良太に情報収集を念押ししてもいたよな。だが受精卵への確信を隠匿して、それでいてあっさり良太に引き渡させ……何を考えているのやら。今の良太に身内を警戒する余裕なんて到底残ってないだろうに、あな面倒臭し厄介極まれり。かくして乱文徒然、それでも良太はおっぱいを諦めない。