ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

山田玲司『美大受験戦記 アリエネ』第10話――現世の「夢」への《無謀なる突撃/Reckless Assault》。《一枚岩の努力/Concerted Effort》と《緑柄の練習生/Greenhilt Trainee》

稲葉「お母さん、この家の教育は子供をアホにしますよ。」

(第9話の感想はこちら)
 第10話「素振りは大事です」(12月12日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。次回から始まる「努力奮闘編」とやらへの入り口エピソード。思えば最初が大増量だったので、一話毎が短めに思えてきたな……。


(あらすじ)美術館→芸大と濃密だった翌日。絵に描いたような夢オチから覚醒すると目の前にはリーゼントが「500円貸してくれ」と布団の上に乗っていた。なんたる落差。同級生で幼馴染の彼が言うには、有が予備校に通っていることは学校でも「痛すぎる」と噂になっているらしい。
吉越高校においては大学なんてみんな東大で、パチンコより余程ギャンブルだという幼馴染の言を有は気にしない。大丈夫、やれるさ。「やっていきたい」と思うのは動機を得たからであり、知れば知るほどに絵の世界や夢の事を好きになっているからだった*1
入り口で「昨日デッサンさぼったでしょ」と月岡弥生の抗議行動に付き合わされる。職員室で青木先生にデッサンなんて意味が無いとぶちあげた彼女は、カリキュラムを見せるよう要求。序盤にレクリエーションでバーベキューしたりカップルが出来たり……といった話に彼女は怒って去る。青木先生は頭も感性もよい弥生の事を心配しているようだった。
そんな先生に改めて有はデッサンが必要かと尋ねる。返った答えは”野球の素振りみたいなもので、一見地味だけどしてきた人ほど後が伸びる”というもので、「デッサンは素振りなんだ」*2と得心がいった有。夢からも今日からまた木炭で石膏デッサン頑張ろうと言われ、
「がんばりますとも! 素振りは大事です!!」とテンションを上げるのだった……。(あらすじ終了)


 第1話で登場してたけれどすっかり忘れて第3話感想に盛り込まなかったネームドキャラ。有と同級生で幼馴染、リーゼント頭でパチンコを好む稲葉*3君。新章突入という機会に再登場してくれて助かったかもしれない。
 あと何気に初登場かもしれない有の母・歌川夫人。「この子の将来が楽しみね」とかまさしく有の育った環境の構成人物であり、”何故そこまで自分を信じられる”と解せない稲葉も「これが原因か」と悟った模様。直後の台詞が上記のあれ*4だが、「あらそう?」と笑ってたりあなどれない。

 他には扉絵の「名画オマージュシリーズ」にも顔を出した月岡弥生。有の「脱走」をデッサンの無意味を悟ったものと早合点、講師への抗議に同道させたりとアクティブ。才能重視でアートへの意識が高く、それ故に迷いがあるという青木先生は彼女の態度を怒るでもなく心配する。乗り越えてほしいと。

青木「アートに正解はないけど受験には合否があるからさ…」

 ある意味ではこれが美大受験戦記』の核心であり、予備校講師としての青木の根本なのかもしれない。そういえば未だ一度も弥生がどういう絵を描くのか描写されていない*5が、彼女がどういうタイプであろうと(また有がいかに「巨匠」であろうと)青木先生は彼ら彼女らが合格するために必要な事を授けていくのだろう。その中で弥生がどういう変化を見せるか、あるいは変化せずに突き抜けてしまうのか。


 ともかくも、血ヘド吐きながら這い上がって芸大へ合格せんとするならば、ここからが早くも正念場。まだ春だから……とか言ってる余裕は、まったく、無い!
 僕はようやく登り始めたばかりだからな……このはてしなく遠い芸大受験坂をよ……。
 という最終回にならないように祈りつつ。

(後日付記;第11話感想はこちら)

*1:ここでようやく件の「夢の好きな人」が速水遼平ではないかと考えが及んだ様子。

*2:これを読んで「SSを書くのは筋トレに似ている」と言った人を思い出したり。どうかまたネットの海で逢えますように。

*3:一応wikiを当たってもこれといった芸術家候補は直ぐ見つからなかったが、稲葉幸夫という人物が賭け事絡みでありそうな気がしなくもなくもない。実は今回もう一人1話ネームドが居るんだけど、姓を忘れてしまったり。

*4:見た目に反して礼儀正しい部分もあるようだ。幼馴染とはいえ他所の家で朝飯食べてたりしてるが、容姿を気にせず受け入れるのが歌川家の器の広さだろうか。たびだび(有の脳内に)出てくる祖父も旅に出て行方不明というしな。

*5:否、そういう意味では歌川有と東山光河以外で誰の描いたデッサンと名前が出たことは無い。