ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

山田玲司『美大受験戦記 アリエネ』第13話――《夢生まれの詩神/Dreamborn Muse》

有「きっと…自分を試される事が…怖かったんだと思う……」

(第12話の感想はこちら)

※以下の文章は実際のキャラクターと性格・口調が一致しない可能性が多々含まれています。

「はい皆さん、休載を挟んでしばらくぶりです。それでは第13話「かすかな光」(1月23日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)の感想をお届けします。なお、来週のスピリッツと同日30日にコミックス第1巻が発売予定なので、興味のある方はお手にとって見てはいかがかと」

「おや、月岡さんが居ませんねぇ……それではナレーターは私、青木の皮を被った何者かでお送りいたします」

「今回は展開として重要なところで、また重要な話もありました。それ故にあえて言わなければなりません。微妙であったと」

「どれくらい微妙かというと、『ココナッツピリオド』の最終回、ハリケーンが去り博士が逝った後に発表された「プランC」くらい微妙です」

「いえ、そもそも歌川君にしても葛飾君にしてもまだまだ若い。誰かを励ます事が上手にできなかったり、相手を賞賛したつもりで地雷を踏んでも何の不思議もありません。その意味では普通の顛末ではあるのです。物語の中であれ、我々は展開に添う為に生きているのではありませんから」

『一番…暗い所にきたら…向こうにかすかな光が見える……』

「粗筋を申しましょう。前回の終わりから雨に打たれていた歌川君に葛飾さんは傘を差し掛けました。相々傘で駅への道の途上、二人は昭和的な純喫茶へ入り……互いの親の話や未来は明るいという話をします。そして店を出た後、ついに歌川君は葛飾君に、かつて上記の言葉を贈った速水先生との関係を尋ねてしまうのでした」

葛飾君の父は彼女が絵を志し美大を目指す事に反対していました。現実を見ろ、世の中そんなに甘くない……ごく普通の考え方でしょう。親としてそう思う事には何の不自然もありません。けれど葛飾君が絵を志した動機*1にも親が無関係ではありません。勿論だからと言って認めなければならない訳でもないのですが」

「一方で歌川君の家族は、前々より語られていたように彼を天才と言って育みました。葛飾君はそれを「いいな」と羨んでいたようでした。これもまた彼女について推測されていた事の傍証となるでしょう」

「彼もまた自分が特別な人間だと思って育ちました。が、高校受験の折の持ち込み失敗以降、投稿をする事もしなかったのです。おそらく、自らを形作り自ら形作ってきたアイデンティティをこれ以上傷つける事が無いように。予備校に通うようになって、ようやく歌川君はそのことを自覚するに至りました」

「それでも試される覚悟を決めて美大受験に挑んでいるのですが……些か躁鬱が激しすぎやしませんか、この子は。諦めかけるのが早いというか。立ち直るのも早いのですが……まだ春季講習が始まったばかりで、中学時分の知識も不足してスタートは遅れているけれど、「今のままなら落ちる」という言葉の裏はこれから学ぶしかないということでしょう。「もうどうしたらいいか」とか言ってる場合じゃないんですよ! 時間はむしろ足りないくらいなのに……!」

「――はっ。ついエキサイトしてしまいました。そして葛飾さんの助言も、大筋では上に述べた通りです。足りないなら補えばよく、合わぬなら合わせればよろしい。歌川君は何をどうしたらいいのかという道筋をつける知識も無い為にああなっていたのですが――そもそも予備校とは、講師の役割とはそういう子をも導くことです」キリッ

「これまで美術を学び、美大受験に合わせて腕を磨いてきた予備校の同輩、その極みにある光河君と争うには甚だ不利である事は厳然たる事実。しかしそれでも芸大を目指すなら、やるしかありません」


閑話休題。今回の話の始まり方と終わり方は第6話第7話のそれに似ています。少し元気になって、恋愛関係を気にする余裕が出てきた。或いは気にせざるを得なかった。それほど彼にとって彼女の存在は大きくなっているということでしょうか」

「前回の時はその後に直面する問題が問題で想い人の「好きな人」を意識する暇もありませんでしたが、今回は本人に直接訊く以上(突然の闖入者でも無い限り)そうはならないでしょう。また答えが得られずとも、答えが望まぬものであろうとも、受験生であることを続けていかなければならない……」

「展開上望ましいことは、どういう形であれ歌川君のモチベーションが再度高まることです。しかし葛飾君にそうなるように取り計らう義務などありません。彼女は彼女の答えを出す権利があります。そして自分から訊いた以上は歌川君はそれを受け止める義務があるのです」

「またそうした問題がどうあろうと、私は私の場所で待っていますよ。歌川君……それでは皆さん、次回までごきげんようっ」

(〜幕〜)

(後日付記:第14話感想はこちら)

*1:親の仕事の都合で外国(フランスはエクス)で幼少期を過ごし、言葉が通じず孤立していたが絵を介して友達ができた事。