ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

山田玲司『美大受験戦記 アリエネ』第18話――《実物提示教育/Show and Tell》、《魂の交感/Soul Channeling》


月岡「それで……ポーズはどうする? 服は・・・脱ぐ?」

(第17話の感想はこちら)
 第18話「君を描くことは…」(2月27日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。まだ続く月岡弥生のターン。


―――ヌードで色っぽい展開になるかと思いきや、そうはならなかった。正確には有の度量次第で直ぐにでも可能だったかもしれないが、未だ無理だった。むしろ有としてはならない方が安全だろう。なにしろ父親の帰宅が近づいていたし、そもそも自分/受験/恋愛の三色で既に一杯一杯であるのに。

 また彼女の意図は自棄ではなく意趣返しというか……父親がモデルを裸にして描く台の上で、父の知らない男に自分を描かせる、という行為自体を面白いと考え、一度やってみたかったとのこと。それにしても、有の返答次第であっさり脱ぎかねなかったのには驚き。流石にいざとなれば羞恥心も沸くかもしれないが、それを口にする事への躊躇がない。内面外面の全て、「全存在」を描くのだから当たり前、と言うところに軽蔑する筈の父の薫陶を感じさせる。
 前回も複雑な感情が推量されたが……どちらが本心かといえばきっと両方とも本心なのだろう。


「なんか楽しくなってきちゃって・・・」


 はたしてヌード発言に魂消た有の尻込みと初心者加減の故に、“素猫”……ならぬ素描クロッキーから弥生をモデルにした初めての人物画は始まった。ある意味では男女の逢引、別の意味では夜間補習授業と言えなくもない。
 初めて見せた笑顔とか、意外な漫画好きとか距離を近づけつつ―――前者を問題視しそうな保護者が戻りそうな気配。しかも酒に酔っている。速水遼平の時とはベクトルの異なる危険状態。またしても後ろから足蹴にされるのか、それが運命なのか……?


―――付け加えると今回は、弥生が人物画の本質を教授する上で父のコレクションからベルト・モリゾ、ジャクリーヌ・ロック、ジャンヌ・エビュテルヌ……現物を提示して見せている。まあ人物画家のアトリエにそういうものがあっても何もおかしくはないし、むしろ手本は山と転がっているのだが、父の描いた愛人の絵を娘が教材に使う理由もそうはないかとも。蛇足であった。

(後日付記:第19話感想はこちら)