『美大受験戦記 アリエネ』第38話――《無垢への回帰/Seeds of Innocence》
―――曇り無く見つめる世界、その光と美。
(第37話の感想はこちら)
第38話「Open your eyes」(8月6日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。最後の一押しに最後の鍵。此処まで長かったコンクール編の、クライマックスや近し。ただし今週合併号につき次回は2週間後。
また今回、箴言が身につまされた。平素雑念だらけで、為すべきに集中できない事が多いので。青木先生が師匠師範どころか導師の域。なんというマインドセット。あるいは有の素直さか。
「それだよ、お前の「目隠し」は・・・それが問題なんだ」
「お前の頭の中には色々な邪念雲がグルグル回ってて・・・
「目を閉じたら・・・好きな女のことも・・・画材のことも・・・コンクールのことも・・・受験のことも・・・何もかも頭から追い出すんだ・・・」
「そこでイメージしろ・・・ お前は 今生まれた、赤ん坊で 生まれて初めて、
「イメージに入ったら・・・ゆっくり目を開けるんだ・・・
その光・・・空気・・・色を・・・ただ・・・感じるんだ……考えずに・・・ありのままに・・・」
(すっごいキレイだ・・・やばい・・・)
(僕の描いてたこの絵は……見えたものとあまりに違う・・・
こんなんじゃない……こんなんじゃ……)
「……青木先生・・・」「何だ?」
「ありがとうございます!」「ふっ・・・精々あがけ」
「はいっ」
(よし・・・ちゃんと見えてる・・・
あとは・・・自分に見えるこの感じを描くんだ・・・)
(このモヤモヤした画面から…… モデルさんを浮かび上がらせることができれば・・・僕が感じたままの美しさで・・・)
(よーし・・・漫画描きのプライドにかけて、ここは・・・面相筆で勝負だっ!!)
(10分もあれば描ける!! それこそ量産が宿命の「漫画描き」ってもんだぜっ!!)
―――ようやく真に迷いの霧を払い、此処に至るまでの全ての努力助力を束ねて結実せしめんとす。
それすなわち、現時点での歌川有に出来る最高最善。これで勝てなかったらどうしようもあるまい。まあそもそも勝ち目の薄い勝負ではあるのだが……今回戸谷にも、東山にさえも成長を認める目を向けられて勝敗が全てなどとは言うまい。第一動機としては、己の成長でもって葛飾夢を3位以内に引っ張ろうというものだったし。
はたして居並ぶライバルを押しのけ彼女がトップ3に入る事は叶うのか。いざという時に失速する悪癖を克服できたか。そして予備校の前に現れた、夢の父。絵を諦めさせようという親の思いを、彼女は覆すことができるのか。歌川有は自分に出来る全力で己の絵を成し遂げようとしている。ならば残るは、葛飾夢が如何にするかなのだ。
(後日付記:39話感想はこちら)