ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《記憶殺し/Memoricide》/『極黒のブリュンヒルデ』第33話

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「……しかしおれ・・・ なんで城を見張りながら定時連絡を入れる仕事をしてるんだっけ?」

―――速攻反逆で状況が好転したかと思ったら、そんなことはなかったぜ! 岡本倫ドS本気で容赦ねぇな……野外で「ジョバー!」ってして許されるのは「君は淫らな僕の女王」昴様だけですぜ? ヒロインにお医者さんごっこを要求されるのは御褒美かもしれない()が……主人公♂が赤ちゃんプレイ(演技)、ではなくリアル幼児(出生直後)退行とか強烈過ぎる……要は、前回はつくづく都合の良い方向に想像してたのだなと思い知らされる話。ヒゲ五歳児ェ……。


「……良太……その……私の友達が良太に会いたいんだって」「は?」
「ちょっと一緒に来てくれる?」「……」

「何で私が良太に女の子を紹介しなくちゃいけないの!? 全然納得いかないんだけど・・・」
「……あれ? 私あの子と一体どこで知り合ったんだっけ・・・?」


 研究所第三の刺客、5210番ことツインテール2号・「奈波(ななみ)ツインテール1号・結花の家庭教師である良太―――軽井沢で目撃された眼鏡帽子の男、1107番の手がかりへ直行。監視役である黒服を一般人に襲わせ記憶操作までした理由は、良太という人間に何かしら思う所ありなのかと考えていたけれど……まさか普通に外界を満喫したいだけで、反逆の事実も消し去って研究所に戻るつもりだったとは。黒服兄さんも普通に(そうと思わされた)研究所の仕事してるし。前回から二度と登場しないよりも、かえって残酷かつ寂しく感じる不可思議。
 結花の記憶を操作し友人と認識させ、結花をメッセンジャーに良太を呼び出し、良太から寧子達脱走魔女の情報を得る。そこまでは予想を大きく外れない。むしろ反逆する必要あったのかとさえ思う。その場合、良太は確実に黒服に銃殺だったろうけども、それが不幸中の幸いと言ってよいかは疑問な事態。


「……ひょっとして お前は人の記憶が見えるのか?」
「いや 見るだけじゃなくて・・・書き換えたりもできるのか」

「なら おれがそのビーコンを取り外してやる」「えっ?」
「そのビーコンさえなければ お前はおれたちの敵じゃないんだろ?」「……」

「君とは友達になれそうだ だから助けたい」 「……友達……」


 初対面でガン見して記憶を覗かれてしまうものの、女子と話すのを見ただけで怒り出す俺の教え子が俺にこんな美少女を紹介するわけがない、という極めて合理的な推察から彼女の能力を看破する良太。相手の動揺を利用し、目を合わせなければならない制限まで引き出す手管。突発的危機に一人で、よくよく頭の回る男である。そして澱みなくナンパ説得に移る。寧子達の情報を持ち帰らせるわけにはいかないし、ビーコンと鎮死剤以外に縛るものが無いのなら、黒服から奪った銃で良太を殺せたのに殺さなかった彼女なら、と。良太の言葉に、奈波も少しは感じる所があったはず。


「……フフッ そんな目を逸らしながら信じろって言われてもね・・・」
「へぇ……あなたは自分を信じろといいながら……私のことを信じるつもりはないわけね」


 しかし、彼女自身の打算を越えられる程ではなかった。薬の手持ちも製法も貯蔵場所のあても無しに反逆したのは、一日自由に行動したのち無かった事にして黒服と研究所に戻り「御褒美」をもらうという心積もり故。研究所にも良太にもイジェクトされるリスクを負ってまでビーコンを弄らせたり、取っ掛かりも得てない鎮死剤製造に命を預ける気になれなかった……その打算は奈波の視点では当然とも言える。良太からすれば他に選択肢など無いに等しかったけれど、説得も、信用を得る為に目を合わせた事も、結局は彼女の手のひらの上。
 前回見せた甘い物好きな少女らしさはごくわずかで、周りに人が居なくとも、効果を悟られてさえ能力を受けるよう誘導する魔女らしさが強調される形。つくづくそういう手法だの話術を研究所で誰が仕込んだのか……いや、彼女に限ってはスキャンした人間の記憶から学び取ったのか?


「ごめんなさい ちょっと無茶しすぎたみたい」
「あなたは色々知りすぎて危険だから 記憶を全部消さしてもらったわ 生まれてから今までの記憶全部」

「あなたはもう 言葉もしゃべれない赤ちゃんよ」
フギャーフギャーフギャーフギャー!!

「……ごめんね 私はこうして・・・ 人の記憶から私を消し続けていかないと 生きていけないから・・・」


 村上良太は完全記憶能力、ないし写真記憶能力者である。幼馴染クロネコの記憶が曖昧という謎こそあれど、魔法で巻き戻され消えた記憶さえ気配を感じる程の。それは彼の天分でなく後天的改造改竄を受けた結果ではないかと憶測を生みつつ、記憶を操作する魔法使い即ち奈波が登場したことで接触がどうなるかと危惧と期待があり……はたしてこれは、最悪から何番目に悪い結果と言えるだろうか?
 奈波は黒服の記憶を戻すと言った。勿論【操憶】の真実は隠蔽するだろうが、どういう仕組みでか消去した記憶を復元できるという。そもそも消去の仕組みがどういうものかという疑問が残るが、データ削除というより其処へのアクセスを封鎖するような形式を想像し―――つまりは知性と機転が売りの主人公が赤子帰りなんて非常事態が可逆的である点にこそ、希望を見出す。どういう状況でか奈波が良太の記憶を復活させてくれるまでに、どうなってしまうか全然予想もつかない上に色々と不安で仕方ないけれど。

 あるいは。彼女が良太の提案にリスクを負えなかったのはひとえに研究所に帰る気だったからだが、既に彼女は研究所に危険視されるに足る要素を二つ備えている。一つは秘匿した能力による反逆、もう一つは黒服の記憶から組織的機密を得てしまった事。どちらか、両方かが悟られてしまえば彼女は帰る場所を無くす事になる。即座にイジェクトされるか、薬が切れて融け死ぬか―――そういう状況になって初めて、奈波の合流が現実味を帯びる。
 そんな風に希望的観測を抱いて今回見事カウンターを喰らったというのに、かくのごとく妄想に縋らざるを得ないほど状況は危機的。少なくとも奈波が自由を満喫する一日は猶予がありそうだが……うん? 小五郎さん……また2時間「歩いて」天文台に来るんだよな? 何時? そもそも今何時? 結花が良太に奈波を紹介させられたのは、魔法を見せるのに失敗した翌日の、放課後? すると、黒服と奈波が車で軽井沢から湖畔へ移動した時点で、日を跨いだのか……よくわからん。

 希望は、妙な言い方だが奈波自身のフラグの重さ。加えて小五郎の存在。MAD臭は十分ながら天才描写はそれほどでもなかった彼の、良太に変わっての活躍は……期待、できるかなあ……性格的に。受精卵に確信を得てるし、記憶を見られたら良太の二の舞―――嗚呼、希望を見出そうと考えを巡らすほどに不安要素が顔を出す極黒クオリティ。岡本倫ドSクオリティ。大事なことだから以下略。