ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《予見者の幻視/Seer's Vision》/『極黒のブリュンヒルデ』第49話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)


――― 夢 の 中 へ

……来るべきときが来た。幾重にもそう言って差し支えないと思われる。不明瞭が早く解消されてほしいと願いながら、どこかでそれが来ない事を望んでもいた。彼女達が短いながら時間を積み重ねるほどに、知るほどに―――しかし避けようも無く。
 前回の所謂“小鳥ショック”までを推定第4章の前半・単行本第5巻収録分とすれば、此処からが後半かつ本番。界隈に曰く「謎解きの解答編」であろう、と。今から見て五里霧中の第6巻発売時の連載状況など計り知れないにも程があるが、収録範囲すなわち10週前後でケリがついているや否やはさて置き―――願わくばカズミが、心底から笑顔になれるようにと。

 だ け ど も 早 速


夏色の砂時計


『あっ!!』「!?」
「佳奈ちゃん? どうしたの?」
「ひよっとして・・・」
『予知が変わった・・・!!』「えっ!?」
「どう変わったんや!? 私は助かるんか!?」

『死に方が変わった』「はっ!?」
『カズミは・・・銃で頭を撃ち抜かれて死ぬ・・・』

『拷問はされなくなったけど・・・』
「……なんやそら? 結局 死ぬんかいな」
「小鳥は?」『わからない・・・殺されてはいないみたいだけど・・・』
「小鳥・・・逃げ出したんか・・・」
「そそそっそそそ!! そんなことしません!!」
「場所は?」『山荘っぽい部屋』
「小鳥の山荘か さすが100%の予知だな 計画を変えても追いかけてくる」
『それと・・・殺されるのは やっぱり明日の夜だ』「よし」

「今の予知変更で すごくたくさんわかったことがある」『えっ?』

「よくやった 佳奈」『……』

「ふぅ・・・ちょっと夜風に当たってくるわ」
「……カズミ・・・」

「なんや・・・ずっと村上が付いていてくれるもんやと思ってたのに・・・
村上は寧子と一緒かいな・・・やっぱ あいつは寧子が心配なんやな・・・」

「別にもう・・・死んだってかまへんねや・・・
ただずっと・・・村上と一緒におって欲しかったのに・・・
村上のアホ・・・」


―――村上良太の、のののノノノノ、超ド級馬鹿野郎め……またカズミを一人で泣かしやがったか!(憤激)

……わからなくもないよ? 界隈で予想された幾つかの案とは違いそうだし作戦がどんなんかは判らんけども、全力でカズミを死なせまいとしているのだよな? 現状カズミは自分が生き残れると思っておらず、何を願うにもそれが前提になってしまう。それで満足して逝ってもらうわけにはいかない。
 良太はカズミの最期を看取るのではなく一緒に生き抜くことに一点全賭けしているだけだ。最悪の可能性から目を背けるのではなく、しかと見据えた上でそれを覆そうとしているだけなのだ。
 カズミだって死にたいわけでは当然無い。予知の変化に狼狽しがっかりした様子からもそれは明らかだ。しかしながら生き残るという最善を諦め、如何に死ぬか、死ぬまでをどう過ごすかという次善?を求めていただけだ。脱走魔女の境遇感性においてそれはとても自然な選択である。それは良太にとって最も我慢ならない事の一つである。だから今のカズミが望むようにはしてやらない、やれない……そんな風に憶測する、わけ、だが。カズミは今泣いているんだっ!

 今後明らかになるだろう作戦詳細から、それが必須だったと判るだろう。そうに違いない。そうでなくては困る……【予知夢】で居所を探られて一網打尽を避ける為に二手に分かれるのはいい、天文台ではなく廃村と山荘に移動するのも、今暫く学校生活を続けられる可能性と見れば悪くない。組み分けが良太/寧子/佳奈とカズミ/小鳥なのも合理的なのだろうさ……わかってる。でもこういうのってロジックじゃないだろ……? 良太のことは信頼してる。寧子が心配だからというだけでカズミと離れやしないとね。でもお前、それ聞いた時のカズミの顔見たか? 信じてはいる、目を逸らしたりはしなかったとね。

 だからさ……有力な手がかりも得られたようだしさ、頼むぜ、本当に。切実に。


「夢の中へ」

「スカジのバイザーを閉めてくれ」

「土屋は もういい 退室しろ」「えっ?」
「研修はここまでだ」

「この部屋を 監視していないとでも思ったのか
お前はスカジに嬢を移しすぎて 余計なことを話しすぎだ」
「……これが 研修ですって?
人の命を・・・ドッグセラピーの犬みたいに・・・」ギリッ
「つまみだせ」


「みいちゃん!! 予知なんかしちゃダメ!! あなた死んじゃうから!!
もうあと1回予知したら死んじゃうの!! 聞いてる!?」

「聞こえないよ」
「みい・・・」バシュ

「全く・・・昔の自分を見ているようで気持ち悪い」

キィイィイィイィイィイ

「……瑞花・・・ ちゃんと 戻ってこいよ」


 そりゃあまあ、そうもなるよな……とある意味順当で、当然の展開。でも土屋女史が瑞花の運命を変えられるかもと期待したっていいじゃない。最後は声も届かせられなかったけど……“夢中”の瑞花が女史から受け取った影響で、あるいは瑞花の交流から女史が何かを選択するとか、二人の時間が無為でなくなれば救いになるか……誰にとって、どういう風に? 

 他方、黒服の野郎は……やっぱりこいつも友達居なくてスカウトされた口か……じゃなくて、元は常識的な倫理観を持っていたが、ヴィンガルフでの日々の中で心を凍らせたか、魔女を人間としてみる事を止めたのか。その癖、死を確定させる【予知夢】を発動させた瑞花に……「名前」で呼びかけたな。コードネームでなく。『エルフェン』の蔵間室長の過去編の如く、ヴィンガルフの過去編回想が早く描かれてほしいと思っているが……ある意味で黒服の過去編とはまんま現在の女史の姿だったのだろうか。彼の言葉通りに。奈波に記憶操作された時のフェチ変態ぶりが元の性格だったとか嫌な伏線だな。

 また黒服の心情面とは別個に、「ちゃんと戻ってこい」という言葉には意味があるのではという憶測。「戻ってこない」場合とは……【予知夢】から目覚めて後、情報を聞き出す*1まで瑞花の心臓が止まってしまわないかという危惧なのか、それとも……? 【予知夢】を開始してから終えるまでの時間は“未来”に居る時間そのままなのか、“未来”にはどれだけいられるものなのか、現在の肉体が保つまでなのか。もしも現実の肉体が能力行使で限界を迎えた時、“未来”に在る彼女はどうなるのか……何処に「戻る」のか。
―――遂に発動してしまったという悲しみはある。しかし同時に、その正体子細への妄想欲求もまた確実に存在する。この業深さは下手すると研究所のMADより性質が悪いかもわからんね。南無。


時を飛び越える夢/翌日・深夜2時・小鳥と千絵姉さんの隠れ家 山荘「どんべぇ」

バンッ
ガッシャァン

目標を発見!! 確保!! 確保!!
やぁああ!!
小鳥!!

ダ ン ダ ン
ドサッ

パキン
カズミさん!! カズミさん!!
いやぁ!! 離してぇ!! カズミさん!!

バタン

「「山荘どんべぇ」・・・この場所をあの人に教えればいいのかな」
「この人は・・・別に死ななくても良かったのに・・・あっ!?」

ス―――ッ

「消えた・・・なんだろ この不安定な感じ・・・」

「ひょっとして・・・私の他にも 予知能力者がいるの?」


―――という夢を見ているのさ(安堵)。界隈で予想された類型の一つ、“精神体の瑞花”(セーラー服*2姿で、五体満足)が山荘襲撃現場に出現。襲撃時に乱暴に開かれた戸口の裏に居たということは、まず実体ではなく、多分にカズミ小鳥にも認識されていなかったものと。「お話できる」と言うからには(肉)声だかテレパスだか伝達手段もあるのかもしれないが……やはり【予知】には違いない、という範疇に留まる能力ではないように思える。良太小五郎の予想を大きく逸脱しているのかも、現時点ではわからないが……基本的には他の予知能力者の介在を想定してないのは確かな模様。

……鍵は佳奈の存在と、今回予知が変わる寸前に良太が寧子カズミ小鳥に渡した三通の手紙か。奈波の時に使った写真を想起させるが、午後6時〜9時の間に任意開封というのが気にかかる。予知を狂わす為の「変数」だというのは間違いないだろうが……それによって予知が如何に変動し得るかというのは今ひとつ想像できない。“現実”に「射殺されたカズミの死体」という可能性が成り、そして消失*3したという不可思議を見て、なお。一体全体がどうなっているか判るまで、やきもきさせられそうだ……なんだ、いつものことか()。

 また更なる問題がある。もしも今回カズミが助かったとしても、小鳥が捕まればイジェクト死確定であることだ。前回感想の時点で界隈に挙がった「狙われている小鳥と入れ替わってカズミが死ぬ」、「カズミが狙われた所を小鳥が入れ替わり捕まる」という二つの危惧。今回は危うく「カズミが殺されて小鳥が捕まる」という尚悪い結果が固定しかけたが……カズミの死体が消えても小鳥が捕まったのには違いない。あるいは攫われた小鳥も何処かで消える→別の可能性に派生するのかもしれないが。
 1107番ハーネストの中の人【グラーネ】の扱いには慎重を要し、然るべき場所でなければイジェクト出来ないと仮定した場合、まだ救出の目があると言えなくもないが……今回は魔女でなく銃器で武装した部隊が相手だし、坂東さんが対ベクターに用いたタングステン弾みたく7620番(寧子)を想定した装備が用意されてるかもしれん。今度の今度こそ「魔女を扱うプロ」の真価が……発揮されんでいい! 良太も狙われているのが小鳥とは知らずともカズミだけが危険なわけでないことはわかっているだろうし……はてさて、彼と小五郎の企てた作戦は【予知夢】に対抗しうるのか、瑞花が夢に見る“未来”がどう推移し、そして現実の未来はそれを実現するのか。


―――うむ。ちょっとやそっと新情報や不明点が明らかになろうと、疑問符の数は減らないね。むしろ増えるね! そんな極黒クオリティ岡本倫ドSクオリティ。明日はどっちだ、と投げ放つようにどっとはらい。とても落ち着いて俯瞰できる展開じゃねェ……(言い訳)。

(界隈周回後追記:いささか大雑把やっつけで読後感がよろしからん。故に、小鳥へのS度前向き度二重丸記事に匙をブン投げ渡し候。)

*1:生命維持装置兼能力補助装置でもある車椅子の上部バイザーを被せられ女史の声が聞こえない状態になったということは、以前想像したような【予知夢】を見ながらその場で聴き取りに応じる事ができないという事か。もしくは【予知夢】中に見聞きした情報を、そのまま未来の黒服に伝達するということなのか。その時点で肉体は死を迎えているかもしれないのに?

*2:学齢としては中学生の佳奈がいつ魔女に改造されどれだけの期間で現在の状態になったか不明だから参考にならんが、もし瑞花の「前歴」が中学生までだったとしたら……はて。今彼女は何歳だ? 予知の強力さ故に急速に神経が破壊され死ぬ寸前までになったとして、その期間内に黒服とも接触があったことになるが……いかにも所内で重要な位置に立ち、それでいて若年といって良い彼はスカウトされて何年になるのだろう。脱線。

*3:つまり小鳥が襲われる際にカズミは別の場所に居た事になる。手紙を受け取った時点で死因が射殺に変わり、更にそこで殺されずに済む切欠が何時の時点かで発生した事になる?