ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《地に平穏/Tranquil Domain》/『極黒のブリュンヒルデ』第57話

(前回感想はこちら)
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真 夏 の 恋 愛 戦 線  発 動 篇

「ねぇ良太・・・私も浮き輪でいいから沖まで連れてって」
「……仕方ないな わかったよ」
「ホントに!? やったー!!」

「ふぅ・・・ なんとかごまかせましたかねぇ・・・」
「なんだろう・・・ このふわふわした気持ち・・・」
「私達 今・・・幸せですよね?」
『……間違いなく幸せよ でも 今日は湿っぽい話をしない約束でしょ 村上を心配させないように・・・』
「せやけど・・・感じずにはおれんのや ただ生きてるだけのことが こんなにも幸せなんやって・・・」
「そうか 私・・・今 すごく幸せなんだ・・・」


 巻頭カラー新連載、どうしようもなく生涯童貞の僕に天使が降りてきて子作りを要求されたりとか、センターカラーがデカぁぁぁぁいッ! 説明不要ッッッ!*1 だったりとかはさて置き。最近あまりにも平和平和過ぎて、どう考えても近い未来が不穏な事になりそうで胃がキリッ(MJP)とするぜ……平穏無事の継続こそが逆に予想外ではあるものの。今が推定第5章とかじゃなくて間章インターミッション中だとしても全然安心できる要素が無い。ある意味予想通り結花が魔法に巻き込まれ*2たり、どうにも満喫できない性質である。何もかもがフラグに見えてね……。


JCフタリ

「あなた どうして体が動かないの? 事故? 病気?」
『……どちらかと言えば事故みたいなもんね』
「変な声してるのね」
音声合成だから 自分で話すこともできないからキーボードで打ちこんでるの』
「学校は?」『行けるわけないでしょ?』
「……寂しいね」『別に 適当な同情される方が面倒だわ』ムカッ
「あなたいくつ?」
『14 もうすぐ15*3
「え? 私と同い年じゃない! だったらなんであんたが高校の部活に入ってるの?」『あっ……』
『私は部員じゃない マスコットなの』
「なにそれ」
「だったら私もマスコットになりたい」///

『ダメよあなたは 性格悪そうだからマスコット向きじゃない』「はぁ!?」
「何言ってんのあんた!? あんたも相当なもんよ!?」

『私はかわいいし清純だからマスコットにふさわしいの あんたは男目当てで海まで付いてくるビッチでしょ?』

『なにより私は マスコットだけに体も動かないし』
「……それ全然笑えないからやめて」

「いいな・・・高校生じゃなくてもいいなら・・・私も仲間に入れてほしい・・・」ド ク ン*4


 天文台のオカン()とお父さんの妹分(小姑?)の会話前哨戦は、それほど事情やら恋愛関係に突っ込んだ追求は行われず比較的穏当。佳奈の毒舌に結花が若干食ってかかったり引いたりはあるものの……思えば佳奈にとって実年齢同年代との会話って幾久しいのではなかろうか。奈波は幾つだったか現時点で不明。精神年齢は童女と魔女の混ざり合う感じであったが、佳奈については実年齢不相応の精神年齢、に見えるとはいえ……会話を楽しむ感性が擦り切れたわけでもなく。ただ後述中盤以降の一件が、二人に友情を育む上で深い溝となるのではないかと。もし育めたとしても良い事ばかりではない、というレベルでなく危険だという事実もある事だし。


予定調和のフラグ回収/予想以上の強情張り

『どうしよう・・・』「なにが?」

「いいか? 結花の前では絶対魔法を使うなよ」

『今 村上はどこにいる?』「良太?」
「……またずいぶん沖の方で泳いでるわ」
「ってなんなのあのメス猫!? 良太と一緒に・・・許せない」

『……ダメだ 今から呼びに行っても間に合わない・・・』「だから何がよ?」

「はぁ〜〜!! お腹が空きました!!」『小鳥!!』
「村上さんが何でも好きな物を食べていいって!! 私 沢山泳いだから沢山食べてもいいんですよ!! はぁああああぁん!」『小鳥それどころじゃない!!』

『見えた』「えっ?」
『今すぐ起こる』「……まさか誰かが・・・」


『小鳥と込み入った話があるから 少しここから離れてて欲しいんだけど』
「……なんなのさっきからひそひそ話して・・・なんで私をのけ者にするの?
気に入らない イヤよ ここにいる」

『小鳥 1分後に波に巻かれて女の子が溺れ死ぬ』「えっ!? 1分!?」
『金髪のポニーテールの子 沖にいてライフセーバーも間に合わない
村上には使うなって言われたけど見殺しには出来ない あんたが入れ替わる所を見られなければいい もう小鳥にしか助けられない』
「……わかりました」

「1分後に人が溺れるって・・・なに訳わかんないこと言ってんの? 超能力者でもあるまいし」『……』
「行ってきます」「どこへ?」
『あんたはここにいて』
「だからイヤだって言ってるでしょ? 私をのけ者にしないで!!」ガッ「あいた!!」
「な・・・なにすんのよ!?」
「おかしいな・・・こうすれば気を失うんじゃ・・・」「はぁ!?」
「頭来た!? 絶対あんたから離れない!」
ダッ「待て!!」

『村上がいたら どうしてたんだろうか・・・』

「あなた・・・しつこいです・・・」
「だから 離れないって言ったでしょ?」
「私達の秘密を知ったら あなたも殺されます」「えっ?」
「村上さんはそのことを知って私達に協力してくれてるんです あなたは死ぬ覚悟がありますか?」
「……そもそも秘密を知ったら殺されるとか そんな与太話を信じない」
「本当に困るんです お願いだから私から離れてください」「イヤ」「……」

おい! 人が溺れてるぞ!!「えっ!?」
「金髪のポニーテールの女の子・・・? これって偶然?」

「時間がありません! 私から離れてどこかにいてください!」
「なんでよ 意味わかんない イヤ」
誰か! ライフセーバーを呼べ! 駄目だ! 沈んだ!!「……」
「結花さん泳げないんですよね?」グッ
「えっ?」

「悪い子はお仕置きです」*5パキン


―――思い返せば第1話の時もそうだが、魔女達は人命救助を旨としつつも、一般人への説明・説得下手にも程があるなと。それまでの経験上、慣れている訳もなかろうしヴィンガルフは凡そ実験台に対人で有効活用する訓練を施しているとは思われないし。他方、結花からすれば意地でも言う事を聞いてやるものかという体であったこともあろうが、まあ普通は信じない。小五郎だって奈波イジェクトを目の当たりにしない事には、良太も寧子の落石割りや鎮死剤切れで血塗れの姿を見ない事には彼女達を取り巻く事情の重さを実感するには至れなかった。なら今後、結花がそういったものを見ることはあるか……強いて薬が切れかけた惨状を見せようなんて事は良太がさせまい……ただ未だ瑞花の言葉の真意に至れず、鎮死剤が本当に残り少ない。あるいは遠からず刺客が送りこまれて、経緯はともかくその娘がイジェクト死する所を目撃してしまうか……。
 ひとえに良太恋しさが為に結花が切望する「仲間に入れてもらう」事。それは踏み込んでしまえば取り返しが付かない領域で死の危険があり、しかし踏み込まずして危険を理解させる事が出来ない。いかに相手を慮った上で危険から遠ざけようとしてもだ。近現代ファンタジーに大体よくある二律背反である。もしあの場に良太が居れば……上手いこと結花を他所に誘導できたか、それとも乙女心を読みきれず尚も反発させてしまったか。ただもしエロゲー版で結花√があるとすれば、それは彼女が引き返せない所まで事情に浸かるような展開が必須に思う予断。魔女と一蓮托生の良太への恋心と事情に無知無関係な安全*6が両立できないという意味で、また髪型的にも、そこはかとなく「さっちん」路地裏臭。

 はたしてカッサンドラ役の常として、予知能力者には相互信任信頼ある相談役が欠かせないという今更であり……普段が良太相手だという事もあり、察し悪いというか「常識的」に考え耳を貸さない結花に辟易する佳奈の図は「良太と対等に話せる佳奈」と照応する「佳奈に対等で接する良太」という頼れる存在重要性がいつしか大きくなっているのではという話。それは天文台合流以前は全部自分一人で考えて生き抜いてきたというカズミの独白*7に似る。
 村上良太は最早天文台に集った魔女達の生存延命にとって不可欠と言ってよい。彼も彼女達と一蓮托生のつもりであり、また叔父の小五郎も知的好奇心やら謎伏線やらで協力はそう惜しむまい。しかして、彼らの世界・関係性は天文台だけで完結してはいない。今後は小五郎の財布も頼る機会もあろうが、寧子達の食費等は他ならぬ結花の家庭教師で稼いでいるのだしな―――薬が残り少ないとはいえ危険が見えない平穏において、当然日常的要素に話は振れる。元より戦闘向きな面子でもなければ戦いを求めている訳でもないが、生存の為の静かな闘争と余暇を繰り返してきて、今だって寿命の限りが見えている……それでもゆっくりと、本当にゆっくりと変わっていく何かがある。
 見方によってはそれは弱さかもしれない。しかし元より、誰しもが一人で生き残ることは叶わない。理解ある仲間は大切、しかし他者をみだりに巻き込む事は彼女達の方針上、また足手纏いになる危惧からも望ましくない。ただ、役に立つ立たないで仲間を選び捨てていたのなら、不要として切り捨てられた脱走魔女が此処まで生きてこれもしなかっただろう。果てしも無く水掛け論で堂々巡り。これまでの奏功が正しさの証明足りえず、今後あるかもしれない失敗をして間違いだと言い切れもせず。徒然。


 ともあれかくまれ、今回で海水浴話は終了の由。視点が違うこともあり前回のポロリが尾を引いたり水着を回収できずとかいった展開はなく、また日帰りにつきカズミに夜這いのチャンスが訪れる事も無く。発案者なのに全然オイシイ目を見られなかった絶望的Aカップェ……前章までで裏ヒロイン株を上げすぎたから、ブレーキをかけられたのかね。反面メインヒロイン様がイチャついたり保存食さんが海を満喫したり……そういえば昼食食い倒れ描写もカットなのか。『花のズボラ飯』だとか『くーねるまるた』だとか『幸腹グラフィティ』とかいったメシウマ愉悦描写を『きみだら』じみたアヘ面で描いてもよかったのよ?(著しく脱線)

*1:あと第50話カラー表紙の際は栗色だったのに金髪になっている? 佳奈と混同してしまったたのか、設定変更か。

*2:見られたら殺される危険がる、よって目撃さえさせなければ良いという理屈で一緒に【転位】する、というのはフラグを回避できたのかどうか判然としない。今回強情さがより現れた彼女の性質から見れば、水難事故が無くとも(良太と親しい)魔女達と接触した時点で……まあそれ以前に登場時点から未来は危ぶまれざるを得ないポジションではあるのだが。

*3:誕生日イベント伏線入った? しかし無事に済んでもケーキもイチゴもミキサーされる定めよ……何事も変わりなければの話だが。いつかの想定では、薬の生産で量が確保されれば魔力的問題が解決して動けるようになるかもと考えたものだが、「動いたら寧子が死ぬ」というのが引っかかったままで微妙。

*4:何気に【予知】のビジョン描写は久しい。何故だか、これまでの「死亡の瞬間のみ」とは違って段階的でもある。至近のカズミ拷問→イジェクトという予知にもそういう面があり……沙織戦、キカコ戦の際、観測可能時間が一瞬か数秒であった頃とは差異が、もしくは「能力の成長」がある? およそ佳奈が只の脱走魔女ではない事は明らかで、しかしコードネーム【グラーネ】ではない。低級から中級への上昇が上級からそれ以上へのそれより難しいと仮定した場合、彼女が真実Bランクか実はAランク以上なのか、小鳥ショックを経て尚不明な身内情報への疑問である。

*5:見た目激した感じでなく静かにだが、思えば小鳥が「怒った」のは初じゃあなかろか。ケーキ云々で良太に喰ってかかったことはあるが。「人の命を救う事で己が存在した証とする」魔法使いの理念が脱走魔女達の中でどのように生まれどれだけ普及しているか(カズミの場合良太の子供を其処に据えている)、そもそも天文台以外で生き残りはいるのかも不明ながら、今回余りに邪魔となり続けた結花に命の重さを教えようと……? かといってカナヅチを海に連れ込むのも大概危ないが。

*6:ただし例によって1話冒頭、およびヴィンガルフが小鳥と【グラーネ】を探す理由(地球上生命滅亡)の真偽如何によっては「何処にも逃げ場は無い」とも言える。

*7:瑞花に監視されている前提の演技の上ではあったが、本音でもあっただろう。