ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

山田玲司『美大受験戦記 アリエネ』第6話――”時の最果て”にて死せる賢者の声を聴く。「かくあらねばならぬ」という枠を越えて進めと

水菜「デートだと思ったでしょ。甘いから。ユー甘いから」

(第5話の感想はこちら)
  第6話「回復魔法の館」(11月14日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。短くも美術観が濃密な回。企画展は”アンティーブ”とあったが……「グリマルディ城」という場所からの展示か。風光明媚そうな所にすごい美術館があったものである。
 ともかくも前回末尾の「森に逃げますか?」とはモチベーションを上げるというより、きつい練習にめげた気力を回復させる美術のリフレッシュ効果という意味合いだったと思われる。あくまで「逃げ場」というなら、再び写すデッサンに立ち向かわねばならないということか。

(あらすじ)デスケルのデッサンが描けなくて、囚人の様に死にそうだった有が夢に連れ出された先は上野公園。水菜と合流して向かうは国立西洋美術館の企画展。
ここで初めて油絵をじっくり見ることになった有。コルネリスの静物*1の精緻さに「これが……油絵というものなのか……こんな恐ろしいものを描かないといけないのか……」とまた落ち込んでしまう。
そんな彼に夢は二つの「海の絵」*2を見せ、画家の事を教え、その想いを伝え、感じさせる。美術館に満ちる先人の回復魔法を。
夢「君は大丈夫、頑張れって言ってくれてるんだよね……」
水菜「今、完全に恋に落ちたでしょ。バカだから」

……はたしてもう一つの「館」、「夢の好きな人」とは?(あらすじ終了)

 端的に主人公が、美術館で「絵の見え方を変える」キュレーターことガイド夢さんに導かれる話。美術を勉強してなかった初心者で、知識も先入観もあまりないというのが多分に上手く働いた。演出としても、教える側の夢としても。誰だって同好の士が増えるのは基本的には嬉しい。あれだけ素直に感動されたら喜びもひとしおというもの?

 今回の一押しアーティストは、扉絵でもモデルになったギュスターヴ・クールベ氏。「写実主義」という言葉を「自分の生きる現実世界」を写し取るという意味で実践し、
「オレにはこう見える…」「誰にも騙されない…」と世が世なら、舞台が舞台なら「固有結界保持者」でも「絶対能力者(レベル6)」でもおかしくないタイプの方。画壇の反逆児にして、世界で初めて個展を開いた人物でもあるとのこと。

――そんな人物が描いた”ただの海”、そしてピカソの自由な”海の物語”。コルネリスの静物画に……またそれ以前のデッサンに、そして受験について「型に嵌った範疇でどれだけ上手く描けるか」という難題に苦しんでいた有に*3その自由さ、芸術の広大さ寛容さが「進め」と希望を与える。鑑賞した対象からどんなものを受け取るかは個人の諸々によるけれど、今回の有はそうだった……。
 現実の問題をどう解決するかという具体性はさて置いて、落ち込んだ気持ちは明確に上昇した様子。

 そんなこんなで元気になった有だが、水菜が投げ込んだ爆弾「夢の好きな人」とは……そういえば、今回彼女が好きらしい「印象派」な絵は出てこなかったな。「森」から帰った後に有がどうデッサンに取り組むかという事も含め、はてさてどうなるか。

(後記付記:『アリエネ』第7話感想はこちら)

*1:コルネリス・デ・ヘーム『果物籠のある静物

*2:ギュスターヴ・クールベ『波』、ピカソユリシーズとセイレーンたち』

*3:推量するに、夢にも近しい問題がある、あったのかもしれない。