ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《信じ抜く心/Leap of Faith》/『極黒のブリュンヒルデ』第36話

(前回感想はこちら)
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「黒羽・・・ お前ホントに・・・ クロネコなのか?」

……といった問題はさておき()。二転三転四転した奈波相手になんとかかんとか生き延びた―――かと思ったら奈波の死亡フラグが再屹立した()。流石は岡本倫ドS、気が休まらない!
 推定第4章の展開を大雑把にまとめるとだ、


  • 鎮死剤の製造に目処が立たない状況で刺客が動き出してヤバイ
  • 小五郎に魔法を見せようとしたら魔女がアホの子でヤバイ
  • アホの子可愛い刺客の娘がまさかの速攻反逆でヤバイ
  • 良太が刺客の娘に赤ちゃんプレイさせられヤバイ
  • それでも奈波が天然アホ可愛過ぎてヤバイ
  • 感激する奈波が可哀想過ぎてヤバイ
  • 寧子が奈波に記憶操作されてヤバイ
  • 操られても寧子が天使でヤバイ
  • 奈波の反逆が悟られてヤバイ

―――端末の中身を確認する為に遠出しようとしてたとか、小五郎が近日中に今一度天文台を訪れる筈とか完璧に忘れてたな……ともかく全部ヤバかったのである。否、現在進行形で何もかもが危うくて儚くて、愛しく切なく、時に腹を抱えるのが極黒クオリティー。とりあえず、


「ひょっとしたら本当に・・・ サングラスで記憶操作が防げるのかも知れない」「ですよねー!!」
「私もサングラスをしてると見たものと入れ替わりが出来なくなる*1んですよー!!」
「は?」
「…………お前・・・」

「なんでそういう超重要なことを先に言わないんだ・・・?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「えっ・・・ え―――っ!?」


……保存食小鳥ってば本当に役立ったり役立たなかったり振れ幅が大きいな! 正確に言えば、役立つ能力・情報・発想を持ちながらも結果的に中途半端になりがちというか。そんな所も可愛い()。いや、写真による保険は小鳥の進言が無かったら成立しなかったかもしれないが、結局は寧子が全部持っていった感*2があるので。
 更に付け加えると―――微妙に胡散臭さ漂わす丸サングラス装備の小鳥を、待望の眼鏡っ娘とは認めぬぇーーーっ!!(だからなんだ)


“ひとりが辛いから ふたつの手をつないだ ふたりじゃ寂しいから 輪になって手をつないだ”

「黒羽さん その二人をそこに釘付けにしておいて いい?」
「……もちろん だって私たち友達だもの」「……」


「最後にあの監視員の記憶を戻さなくちゃいけない 今日はもう使わないようにしよう」
「心配しないで奈波ちゃん 何かあっても 私が奈波ちゃんを助ける」
「……別に私・・・ そんなこと書き込んでないのに・・・」


「違う!! 私は騙されてなんかいない!! 奈波ちゃんはそんなことしない!!」

「違う・・・記憶を変えられてなんかいない・・・
私はただ・・・忘れっぽいだけで・・・」
「知ってる だからそんなお前でも忘れないように・・・
お前のポケットには写真が1枚入っている」

「……私はいつも詰めが甘い」


「奈波ちゃんは私を騙したの?」「……」
「違うよね」「えっ?」
「奈波ちゃんは 私を騙したりしない」
「本当に悪い人ならそんな寂しそうな顔なんてしないもの」


「あなた いくらなんでもお人好しが過ぎるわ」「えっ?」
「そこまで私のことを信じ込ませるような記憶なんて書き込んでないのに」
「奈波ちゃん?」

「ただあなたの最近を消して その男をカタキにして*3
私のことをただ「知っている」ことにしただけよ」
「なのに…… どうしてそんなに私を疑わないの?」

「ごめん 私 あなたのこと騙してた」


―――つらつら思うに、天文部って実は村上ハーレムじゃなくて寧子のハーレムじゃなかろうか。子細不明ながら佳奈は寧子に恩を感じ、小鳥も疑われざるを得ない状況で唯一人信じてくれた寧子の為に犠牲になろうとした。良太にしても根底にはクロネコとの同一視が少なからずあろうけど、彼女の為に命を捨てる覚悟を疾うに決めている。カズミだけは寧子大好きという訳じゃなく、良太へのモーション動機も不詳ながら本気度合を強めているが……彼女と乳揉んだり揉まれたりしてないのは寧子だけだな。そして寧子の乳を揉んだのは良太だけ……何の話だっけ?

 要は、寧子の「魔法少女」らしい純粋さというか求心力というか。記憶を弄られようと変わらな文字通りの“懸命”さ。寿命の限られた境遇ゆえの死生観としても、寧子のそれが突出しているのは間違いない。その献身は必要最低限の記憶しか弄らなかった奈波の為にも等しく、彼女を困惑させ、ついには悔悟の言葉を口にしてしまう程に。まあ一人の女の子としての奈波が、「普通」と「友達」に憧れる優しい娘だったからこその結末だけども。
 魔法の代償に記憶が虫食いである黒羽寧子という少女にとり、たとい相手に関する記憶が曖昧で怪しかろうと、それは常態でさえあるかも知れず……「知っている」なら、「友達」ならばそれは信じ助けるべき相手なのだ。危なっかしい程の単純粋であろう。学校生活の中でも下手に騙されたらどうなるかと心配でならない。予知情報を握る佳奈*4、お父さん的世話役たる良太に続いて、“黒羽寧子を見守る会”に更に強力な魔法使いが加入となるかと思いきや……そうは問屋が卸さない。


余すところ無く回収されてしまう伏線

「・・・そろそろ時間か」

「やれやれ・・・ 一体なんでおれは城を見守る仕事しているのか・・・ん?」
「なんだこれは? ……日誌?」パラ


「おいおい・・・ 洒落になんねぇぞ・・・」


 界隈で幾人かが指摘し、しかし彼の余りのギャグ待遇にさっぱり忘れかけていた伏線が此処に来て、奈波の運命を閉ざしかけている。黒服が、記憶操作される前に書いていた日誌を発見し、違和感を確定させてしまったのだ……ここから芋づる式に消された記憶(との接続)が戻る*5のか、あるいは記憶自体はそのままに、自分の主観記憶がおかしい自覚に基づいて確認……奈波にか、研究所にか。もし後者であれば、今しも奈波のビーコンに信号が送られイジェクト死となってもおかしくない。
 登場以来、正に無尽蔵の勢いで不特定多数の人間に【操憶】を使ってきた奈波だが、推定魔力を補う効果もある*6鎮死剤を飲む事無しに魔法を使い過ぎ、ハングアップ寸前という状況。最後に黒服の記憶を(都合の良いように)復帰させ研究所に戻って褒美を貰う予定だった彼女に、寧子の記憶を戻して更に黒服を記憶改竄する余裕は無い。魔力的にも、時間的にも。下手をすると寧子の記憶をそのままに奈波が還らぬ人となってしまい、天文部内の人間関係がおかしくなってしまう危惧*7
 ただでさえ黒服の記憶から「組織の大願」をはじめ重要機密をあらん限りに読み取っている奈波、AA+に相応のあまりに強力な【操憶】とそれを使い続けられる魔力容量……寧子に騙していたとを告白した事はいかにも天文台合流を早合点させてしまうが、彼女が身の振り方をどう決めるかは不確定。かつ味方となれば良太が活用法を悪巧みするだけで鬼に金棒となる上に、研究所側との情報アドバンテージをも埋めえる奈波の合流を易々と岡本倫ドSめが許してくれるのかとかねてから案じ……現在に至る。

 難儀なのは黒服の気づきが読者視点であり、奈波はその危機を知らない事。生存の為に最善最速を期すには致命的と言える。佳奈の予知が「短いと数秒先」の方で発動しカズミ経由で伝わった場合でも、奈波を電波の届かない場所に匿うには猶予が足りないのではとも。まして外そうとするとセンサーが感知してイジェクトさせてしまうビーコンを銃で排除する、という案は最早使えない……ところで、ハーネストは魔法で干渉できないとしても、ビーコンならどうか? 刺客の脱走防止を確実にするなら同じ物質で最低外側を覆われていて然るべきとは思うのだが……沙織戦直後は検証どころでなかったし。


―――祈り、願う。また奈波がケーキを食べられる明日を、今度は「友達」と一緒に。そんなことが当たり前にできる未来を、切に。

*1:旧版ソード・ワールドRPGにおいて《ダークネス》の魔法で視線を遮る事で魔法の照準を妨害したり、《シースルー》&《ライトニング・バインド》でダンジョン外部からボスへ一方的に攻撃したりという事を想起する。寧子の【破撃】も視界内を対象とするが、良太救出時は小鳥共々バイザーを着けたまま魔法を使っていた。転じて奈波の【操憶】をバイザーでは防げなかったという事になるのか。沙織やキカコは視線関係なく攻撃自体は可能と見受けるが、ハイブリッド魔女で先述したような千里眼透視と攻撃を兼ね備えるタイプが居るかもしれないと一考。

*2:騒ぎを聞きつけてきた客と店員に奈波が記憶操作をかけた際、サングラスの男だけが影響を受けなかったのを見逃さなかったり、入れ替わった際に奈波が落とした拳銃を使ってのビーコン破壊(匿名掲示板スレで看破していた人が居たらしい。すげえ先読み……だが小鳥が無防備に提示して寧子にあっさり破壊される残念)を考案したりと頭を働かせたが―――ロジックでない部分で奈波を翻意させたのは寧子だった。その寸前でもう自分に出来る事は無いと認めていたが、まあこれもひとつの「結束の力」だろう。一人で全部解決しなくて良いんだよ。良太の誘いも一因となったろうし。

*3:直後に【操憶】を受けた一般人二人の「良太」を殺した「村上」という発言からするに、奈波が意図して「クロネコ」時代の友人「良太」の仇を提示した訳ではないように取れるが、たとい記憶操作はそれで済んでも、再燃したクロネコ疑惑が良太の中で消えるわけでは無さそうに思う。

*4:前回の出番無しに続き、今回1コマきり。しかも写真。

*5:寧子が天文部一同を映した写真を見た時の反応からして、一発で記憶回復とはいかないかもしれない。

*6:と、いうことはイジェクト一発で融け崩れる魔女の肉体は魔力によって維持されている?

*7:更に付け加えると、良太を殺人者だと誤認させたままの一般人二人に修正を施す始末と、他ならぬ自分が良太に美少女を紹介した事に不可解を覚えた結花の問題が残ってる。勿論今すぐなんとかできやしないが。