ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

山田玲司『美大受験戦記 アリエネ』第7話――”バベルの塔”の頂を目指す”イカロス”の翼

有「歌ってた……」
光河「俺たちは何だ? 受験生だ…」

(第6話の感想はこちら)
  第7話「好きな人」(11月21日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。美大予備校生が目指す頂点こと芸大を見学する話。そこで出会う絵、出逢う人とは。「ともかく大学に合格しなければ」という事情が出発点である有に、「受験戦争を戦う先達」と「受験の先にある存在」が立ち塞がる……?


(あらすじ)有、夢、水菜の三人は「もう1つの館」へ向かう途上で特待生・東山光河と出会う。お前もアンティーブ展のピカソを見たのかと問われ、有は彼なりの語彙で前回体験した絵のすごさを伝え、光河も見るよう勧める。しかし受験生たらんとする彼は、後期ピカソの絵は見る意味が無いと一蹴。
「浮かれて「歌ってる」絵なんて試験で描いたら…落ちるだけだぞ……」そのクールさに夢の「好きな人」とは光河の事ではと内心焦る有。一行は光河を加え、もう1つの館……「美大の東大」こと芸大へ。
 そこで有は一見自分たちと変わらない人々が創作に取り組む姿に「この人たちは……本気だ……」と圧倒される。そして一枚の不思議な絵*1を見つけ……絵の具が乾いてなかったそれに触れてしまい絵を崩してしまう! 近くに居た芸大生二人が呟いた。「あの速水遼平の絵を勝手にいじってるぞ…」「殺されるぞありゃ…」(あらすじ終了)


 少しぶりに新キャラ(まだ顔は出てない)。サブタイからするに夢の好きな人かもしれない「速水遼平」……速水……「速水御舟」(日本画家)? 芸大生たちが恐れるその性質は如何なるものか、有は窮地を脱することが出来るのか? そもそも速水某はどう応対するのか? 推測するにも情報が足りぬ。

――あとは東山光河が、存外に誰も寄せつけないタイプの人間ではないことか。実に先入観の偏見!
 腹に一物、というより心の奥底に「自分が描きたい絵」への熱が滾っているのを、受験のために必死に抑えてつけている印象。才能を重視し学校嫌いな月岡弥生の、一歩先を歩んでいる位置かもと。彼は芸大をして、斯く言う。

「とにかく……そこに入っちまえば……どんな絵を描こうが…誰にも馬鹿にされない……そういう所だ……」

 後期で「歌ってる」自由な絵を描くピカソも、子供の頃はリアルで気持ち悪い絵を描いており、写実主義を通り過ぎていると有に教えた光河。心のままに自由に絵筆を振るう為には、技術的にも立場的にも礎となるものが不可欠で、合格するまでは我慢して「上手い絵」を描く……。それが正解なのか、それだけが正解かもわからないが、それが彼の美大受験道であるのだろう。

 目的の為に我慢する過程、目的の先にある動機に基づく情熱。今の有は大学に合格しなければならないという目的を持ち、ARTに親しむ人々と共に学ぶ環境の幸福*2を知ったが、合格して後へのビジョンは未だ無い。いや、「みんなを幸せにする絵を描く」という想いを祖父と共に育んできたか。
 ともかくも芸大生たち、そして件の「速水遼平」と出逢うことで、有に受験の先を考える機会が生まれるだろうか。よしんば何かしらの動機が生まれたのなら、基礎デッサンの壁を超える為のモチベーションを高められるかもと推量する。夢への恋慕と「好きな人」への嫉妬がパワーに変わるかも、というのは憶測の域を出ない。なにもかも次回次第。

(後記付記:『アリエネ』第8話感想はこちら)

*1:幾つもの絵を重ねて、最後に白く塗り潰している。ただ不勉強な知識を引っ繰り返すに、油絵の塗り重ねであるとか、既に描かれた絵の上に別の絵を描くという行為自体は珍しい事ではないような? まあそうだとして、有の失敗を補償できるものではないが。

*2:加えて一目惚れた夢への恋慕。