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山田玲司『美大受験戦記 アリエネ』第24話――《グレイブディガー/Gravedigger》

夢「不忍池のカメのエサにしてやる!」

(第23話の感想はこちら)
 第24話「月末ゾンビ」(4月16日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。劇画の激情と、揺るがぬ信念。疾うに始まっている『受験戦記』の、改めて宣戦布告。


―――誰しも、これと決めた道を最善最短最速で走れやしない。人には時機や巡り合わせがあるから。だが受験戦争の戦士として苦しみ耐えてきた東山光河にとって、有は純度の低い半端者に映ってしまう。しかしその歌川有が、かつては光河よりも先を往く挑戦者であったかもしれない、また落伍して後も再起する道を選んだという話。


 現実から逃げて何もしなかった、動こうとしてこなかった者を厭う特待生に、稲葉は「月末ゾンビ」と渾名された者のことを語る。誰も頼んじゃいないのに、勝手に月末を〆切と決めて、寝ずにボロボロになって描いた漫画をクラスメイトに読ませる男。いくらボロクソに言われても毎月描き続けた鬱陶しい男。中3の時には連載の準備をして出版社に乗り込んだ男。自信と、努力と、希望を持っていた過去の歌川有。


「こんなに本気で現実と戦ってきたやつは、
地元じゃこいつだけなんだよ!!
ふざけたこと言ってっと・・・バラバラにして不忍池のコイのエサにすんぞ、モジャモジャー!!」

「どれだけ漫画を描いたって・・・デビューできなかったら負けじゃねーか・・・」


 どんなに努力しても。負けたら、挫折したら終わりだと東山光河は思ってる。受験道で圧倒的に遅れる有は、その意味では先を歩いているともいえる。そして今、彼は諦めてはいない。中3のときは失敗した。しかしプロになるために美大へ行くことを始めた……ただ家を出されて老いて死ぬ事を恐れてではなく、その先の夢を再び見つめなおした。おそらくはこの場で再認識して、初めて口に出した決意。


「今まではダメだったけど新しくまた始めた(・・・)んだ!!
先に始めてた人のことは認めるけど・・・「始めた人間」をバカにすんじゃねえ・・・」


 既に芸大生レベルの技術を持ち合格を確実視されている特待生に、油絵初心者がコンクールで勝つという無謀な挑戦。しかし夢もその感情に乗り、話にならないと光河は去る。勝負は受け、手加減はしないと残して。


「漫画はダメだったんだろ? それで慌てて美大に逃げようとしてんだろ?」


 東山光河の言葉は有の痛い所を突いていた。そういう面は確かにあった。持ち込んだ出版社で編集長に一刀両断にされてから、漫画を描いても一度の投稿もしなかった。怖かった。家を出されると言われ、慌てて美大への道に足を踏み入れたのは事実だった。そんな有に帰途、稲葉は言った。


「あんなやつに・・・負けんなよ・・・」
「……ああ・・・見てな、ゾンビは死なね―――」


 奇跡を起こしてやる。ゾンビの奇跡を。どんなにうざがられようと……諦められない夢があるのだから。
 夢を見て、それを追うことが時間制限回数制限つきだと思い込んでる優等生に、何を見せられるだろうか。そもそも勝ち目など存在するのだろうか。技術も知識もおぼつかない素人が、「奇跡」などという言葉で差を埋められるものだろうか。勝ちとは、負けとは。
 「まずは知るんだ。何が現実か、何が自分か」それからどうすればいいか考えても、期間はたったの二日。まず短期目標設定がやはり急き過ぎてるとしか思えないが、はたして。

(後日付記:第25話感想はこちら)