ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

『美大受験戦記 アリエネ』第32話――《消し去りの才覚/Banishing Knack》


彼は突然、何もかもが見えない糸でつながっているのに気がついた。
引っ張ることのできる ――― そして、切り捨てることのできる糸に。

(第31話の感想はこちら)
 第32話「ストーリーボード」(6月18日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。コンクール二日目にして最終日。遂にやってきた男との勝負が、始まる?


 はたして、二日目でようやく予備校アトリエに現れた特待生・東山光河。初日不在だった理由は、トップ3に入れなければ予備校を去らねばならない夢に気を遣ったわけでもなく、敢えて一日で全てを仕上げようと自分を追い込んだわけでもなく……家庭の事情。母と共に、父を待っていた。ロスに家庭を持ち、自分達を捨てていった父を。
 光河が会ったのは5歳の時の一度きり。しかし今の彼は会わないほうがよかったと思っていた。自分の絵を褒め、見た事も無い映画のストーリーボードを見せてくれた“おじさん”こそが父だった。

「パパはいつかまた会いに来るから……それまで…ママを頼んだぞ…」

 そう言い残して父は去り……約束の時間に大分遅れて男は現れた。男は映画監督で、日本に居られる時間は短かった。今日遅れた侘びに、明日色々と話そうと息子に言った。予備校に行くより大切な話だと。今の自分なら、光河の才能を活かす、世界を舞台にした仕事も用意できると。母は、己を捨てた男に会うのは息子の為だと言った。光河は身勝手な男に怒りを募らせたが、何も言えなくなった。

「俺は…君の力になりたいだけだ…」


 一方、そんな事情を知る由も無い歌川有。常とは逆のバッドエンド悪夢で目覚め……それを振り払おうと極めて楽天的に、思い込もうとする。戸谷隼人が1位としても、自分が2位に入ればそれに引っ張られて夢が3位。そうすればずっと一緒に絵が描ける、と。

「そうだよ、僕ら以上に真剣に戦ってる人は、予備校にはいないもんな!!」

―――なんて、能天気で楽観的な。かくしてコンクール二日目が始まり、一時間で夢は3位に上がった。あとは例の悪癖が出なければ、という青木先生に有は彼女の為に気炎をあげ……そして男は現れた。顔に怪我と思しき姿で、約束は守る主義だと言って。


「さぁて…と……あと5時間…勝負といくか…」


 「遅れてきた男」の事情を有は知らない。自分で勝負を挑んでおきながら、夢の順位がとか考えてる。また「減っていく絵の具」が何を意味しているのかも。ただ後者は、弥生が何かをどうにかしてくれるのではないかと推測するが。
 はたして次号は休載で、次話は再来週か。集中し、檄を受け、モチベーションは上がったが―――そもそも勝負に、なるのか? やる気と不安が混在し、何かを盛大に思い違いしているような気もする。

 核心と芯ばかりで実は結ばない。第2巻辺りからのヒントを集めて解を得ても、それを実現できるや否や。ただこの物語、30話も過ぎて日数は驚くほど経過していない。第10話の年間スケジュールからするに、まだ最序盤もいいところ。「これから」の時間はそれなりにある……スタートの圧倒的不利や浪人生へのディスアドバンテージも厳然とあるが……歌川有の恋にとって極めて重要なのは「今」なのだが。
 このコンクールを終えて、その辺りはどうなるやら。そして本作は一体何話で完結できる話なのやら。

(後日付記:33話感想はこちら