ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《形勢逆転/Turn the Tables》/『極黒のブリュンヒルデ』第18話

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 「本当はあんな奴 余裕で倒せる」
 人間兵器を前に、我らが軍師に策あり―――

―――岡本倫ドS(挨拶)先生ファンの皆々様、暑さ増す日々をいかがお過ごしでしょうか。つい先頃、『エルフェンリート』連載開始より十周年となっていたそうです。首が飛んで腕脚がもげて、泣き濡れて血に染まり、エログロギャグSFシリアスの混交する物語は強烈な印象を焼きつけていきましたが、思い返すに時の流れは早いものですね。

 閑話休題。結果から言えば、キカコに追い詰められた寧子を、小鳥の魔法と良太の機転の合わせ技で助け、キカコをハングアップさせることに成功したということである。ただそれは全て良太の作戦通り、という訳ではない。あれだけ見得切ってナンだが、そのままいけば良太は死んでいたようである。


 前回見た二度の砲撃から看破したキカコの2つの弱点。発射前にタイムラグが数秒あり、動体目標に当てるのが難しい事と、口から発射する以上当然の事ながら前にしか撃てない*1事。故に前後から襲えば、必ずどちらかが背後を取ってガラ空きのハーネストを押すことができる……3m以内*2なら前後左右問わず切り裂く沙織より破壊力・射程は上だが、無力化は比較的容易だという分析。
 予知を気にする佳奈は、良太が自分が撃たれた隙に寧子にボタンを押させようというのではと危惧し、良太は「死にたくないから頑張って避けるよ」と答えた。しかし、結局の所その作戦は実行されなかったのだ。キカコの砲撃を寧子が懸命に避けている間に後ろに回って仕掛けるべき良太が、腕をリボンで電灯の鉄柱に縛りつける小鳥を見つけてしまったから。

「どうせ私……明日には死んでしまいますから・・・」

 登場以来、読者にも良太達にもずっと正体を疑われてきた彼女の意思は、自分と寧子の「入れ替え」によりキカコの攻撃から寧子を助けることだった。必然、小鳥は代わりに砲撃を受けて死に、入れ替わりに腕を縛られた寧子は小鳥を助けに来れず、良太はキカコに視認されない内に寧子を連れて逃げられる筈だと……。
 手持ちの鎮死剤が切れて口元から血を流す彼女は、もう他人の命を使って生きていきたくないと薬の提供を拒み、己の命を他人を生かす為に使う機会を求めていた。佳奈は転位魔法の攻撃的運用として「崖から飛び降りて」入れ替わる事を思いついたが、彼女は危地にある人を自分に置き換えることを考えていたのだ。この魔法はそれくらいしかできないのだと。
……これらの情報から考えられるのは、つまるところ小鳥が「魔法使い」であるということだ。己の寿命を知り、その命の限りに生き、人を助けて命の価値を意味を増やすことを願う者。寧子と、同じように?

「でも・・・寧子さんだけは・・・わたしを・・・信じてくれたから・・・」

 天体観測の折、また天文台での会話においても刺客と疑われる中、唯一人寧子だけが小鳥を疑うことをしなかった。それは単に無防備か、「人を疑うのは良くない」という理想を疑わず、疑った記憶さえも無くしているからかも知れなかったが……小鳥は憧れの学校生活を、部活動を体験する事ができたのだ。
 だから最早心残りは無く、この命を寧子の為に犠牲にすることに迷いも無い。折しも、砲撃を避けきれなくなってきた寧子が一か八か、至近距離でギリギリ避けて後ろに回ろうとした所にキカコの奥の手……袖口から射出されたワイヤーアンカー的な隠し武器が寧子の腕に絡みつき、振り回され倒れたところにキカコが押しかかった。その口元には砲撃の予兆たる光球が発生し、零距離砲撃を避ける術なく絶体絶命―――!
 そして寧子と入れ替わるから彼女を連れて逃げてくれという小鳥に、良太は言ってのけるのだ。

「お前ホントにバカだな」
「お前の魔法はお前が考えている以上に強力なんだ ひとつだけ言うことを聞いてくれ」

「もう おれたちの勝ちだ」

―――はたして、転位魔法により小鳥は入れ替わった。ただし寧子とでなく、キカコとだ。
 湖の岸辺に仰向けな寧子の上に、小鳥が乗る体勢*3。他方、入れ替わったキカコは突然鉄柱に両手を拘束され驚愕、その隙を逃さず後ろに立った良太がハーネストのボタンを押してハングアップ。かくして一先ず危地は去ったのだった……多分。

「全く・・・魔法使いたちのお守りは・・・本当に疲れる・・・」


 カズミが操網魔法を使って公園周辺の交通を規制し、無線を止めているとはいえ、人間サイズの怪獣*4が大暴れした跡に人は集まるだろうし早急で警察の目に付かない撤退が必要。またハングアップ且つ拘束状態のキカコを放置していって良いものかどうか。彼女が本当に単独行動*5なのか不明だが、警察にハーネストを見られたら公権力を制する研究所側の刺客でありながら公僕に銃殺される可能性……否、普通の警察官は動けもせず武器も持たない(砲撃もできない)少女を撃ったりしない筈……普通じゃない警察官が出てくる可能性はゼロでないように思うが。坂東さん的な。
 ともかく三人で帰るのだ。シノと他二名は助けられなかったが、佳奈の予知した寧子か良太が死ぬ未来は回避された*6。沙織との戦闘後や天体観測の翌日のように何事も無く帰還できれば、佳奈が予知について何を「勘違い」していたか良太が答え合わせをしてくれるだろう。

 まあ死因がキカコの砲撃であったことは間違いないが……小鳥が傍に居た(キカコが居なかった?)というのは何を意味するのか。良太に言われるまでもなくキカコと入れ替わったとすれば、寧子が撃たれた後にキカコと入れ替わった? 何故? また作戦通りやって良太が死ぬ場合、自分を縛って寧子と入れ替わった筈なのだが……?

良太 ←(砲撃)キカコ 寧子 | 小鳥(拘束)

↓(小鳥、転位魔法を使用)

良太(死) キカコ 小鳥(入替)| 寧子(拘束)

↓(小鳥、キカコをイジェクト?)

良太(死) キカコ(融) 小鳥 | 寧子(拘束)

―――なるほど、意味がわからん()。それに天体観測の時の、また予知における謎の笑顔の説明もつかない。となると「感情表現が壊れてしまっている」説か?
 加えて、天体観測を通じてどうして死ぬのが寧子から良太に変わるかが判らない。今回からして、小鳥は自分の魔法の有用性応用性を自覚できていない(訓練させられていない?)ようでもあるが……だいたいにして、刺客としてシロ*7ならば良太達と同じ高校へ転入し天文部を訪れたのは完全に偶然、手続きした千絵*8が何も知らず/知らせず送り出したという事になる。そんなことがありえるのだろうか? 当方は何かを読み違えているのだろうか?

 鷹取小鳥という少女は完全に良い娘だった。重ねがさね疑った事をジャンピング焼き土下座で詫びたい程に。しかし何かが何処か、どうにも解せないのだった。「時をかける少女」説に「抵抗組織の派遣」説は棄却、足を引っ張り薬の消耗を早める「埋伏の毒」説も凍結……多重人格、精神操作系の魔女が出たらヤバイかもしれんが、小鳥はもうなんともない、裏の裏は表でいいだろコレ……? 二代目アホの子でも抜けてても良い娘だろ……!?


―――嗚呼もう! 良太、あと任せた!(投げ飛ばし) お前が合理的かつ感情的にも納得いく推理を提示して、小鳥がちゃんと事情を話して補填すればそれで「第二章完」だろ!? 『氷菓』的な意味で! 「優しさの理由」が知りたいっ!!(熱暴走)

*1:発射・照射しながら照準をずらして焼き払う可能性も考えてはいたが、そこまでの応用性は無かった模様。

*2:単行本1巻には「射程は6m」とあるが、これは「直径6m」ということだろう。寧子との戦闘描写からするに、半径6mで斬撃できるのならば限定空間でギリギリ避けることなど不可能だったように思う。

*3:キマシタワー?

*4:瞳孔は縦に裂け、目元には鱗状の物体、歯は牙のようにギザギザ。例の寄生生物の影響か、AA+というランクの高さ、「んちゃ砲」の桁外れ火力(前回から見た限り5発+1発以上撃ってハングアップしない持続力込みで)の代償としての変貌か。「魔女」というより蜥蜴、竜のようであり……エイリアン的である。「人の皮を被った」。

*5:よしんんば明らかに向ける先を間違えた攻撃力を試験運用する目的の派遣だとしても、サポート要員くらい居てもいいはず。負けても構わない? AA+でそれなりに希少である筈の魔砲使いが? やはりクローンを作る当てでもあるのか……“脱走魔女の生き残りに「経験値」を提供”している? んん?

*6:タイミングとしては小鳥との会話中、良太が多分に転位の魔法の使い方に思い至ったタイミングで佳奈は予知の変化を知覚している。彼女視点の詳細不明。

*7:また前回妄想したような、研究所とは別の組織的背景が無いのなら。

*8:今回の小鳥の言に一片の嘘も無い、少なくとも「彼女という人格」に何の裏も無いと仮定した場合、薬の節約に失敗で死亡というのは本当ではなくても全部嘘でもないと思われる。「他人の命で生きたくない」と思ってしまう程度には。