ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

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『美大受験戦記 アリエネ』第35話――《墨流しのネフィリム/Ink-Treader Nephilim》


「くっそー、こうなったら黒無しで・・・コントラストを作るしかない!!」

(第34話の感想はこちら)

 第35話「WITHOUT BLACK」(7月16日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。東山の圧倒的な画力に対抗すべく、得意な黒を使ってコントラストを出そうとしたらば絵の具が無い!? 弥生さんマジ内助の功加えて、扉絵の「名画オマージュシリーズ」は結構久しぶり。


「歌川・・・お前・・・良くなったな……」
「色が良くなった・・・特に、黒を使わなくなったのは正解だ。
よく気づいたな……」


 ただ、コンクールの不利に好転の兆しが見えたのは良いが……それは有が意図した事でも、有だけの実力で出せた答えでもないのだ。彼が多くの人間に気にかけられているという人徳の表れとも言えるが、青木先生に成長を認められたにも関わらず、微妙に残念に思わざるを得ない。先生は初心者で知識の無い有が、自分で「泳ぎ方」を見つける事に意義があると考えていたようだから。


「どうしてもデッサンでは劣るし・・・歌川有(あいつ)が勝つためには、色しかないじゃん。
それなのにあのバカ、使えもしない色を画箱に入れてるし、単純に黒を混ぜて色を暗くするし」

「月岡さん……歌川有が好きなんじゃ」


 反面「3位以内に入れなければ有も予備校を辞める」が誤報と知らぬまま、「有の未来がかかっている」と手助けに動いた弥生の行動を批難もしたくない。実際このコンクールには「有と夢の未来」がかかっているのだが。それと知らずに、想い人の自分でない相手への恋を応援した形になる弥生さんマジ不憫。しかも戸谷に指摘されるまで自分の感情を自覚してなかったとか……動揺の余り転んで猫柄をパンモロするわと踏んだり蹴ったり。
 また絵の具を抜いた弥生を問い詰め「嫌がらせなら俺が貸す」と友誼に篤い戸谷。弥生の説明に納得がいったものの、有を、有の絵を実に良く見た物言いというか愚痴にツッコんだ結果―――眼福? 彼にとっても大事なコンクールの最中に、目がグルグルする程動揺させられてしまったのは不運かな。

 そして自分のあずかり知らぬ所で手助けを受け、それを手助けとは判らず、その状況でも何とかしようと描いた絵に成長を認められるという、正に「わけがわからないよ」状態の有。前半の回想、12歳の頃に近所の“ネコ耳兄さん”とやらに受けたアドバイスがあまり活きなかった……というより、油画と漫画では適切な作法技法が違う事を示すエピソードだったのかもしれない。
 ずっと漫画を描いてきた主人公に、その前歴を否定するような事態は些か痛恨のように思うが、下手故にコントラストで迫力を出すというなら技術の向上でコントラストに頼らぬ表現の幅も増えるかもしれんし……「有が漫画家を目指し漫画を描いてきた事がこれからの受験戦記の中でなんら意味を持たない」なんて物語を山田玲司が描くとはとても思えない。前歴は大事だがそれにとらわれるな、という伏線ではないかと憶測。


―――はたしてコンクール終了まで残るは、二時間三十分。

(後日付記:36話感想はこちら