ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《遺贈/Bequeathal》、《死後の生命/Afterlife》/『極黒のブリュンヒルデ』第38話

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――― Forget Me Not(ボクのこと 忘れてください).

―――第3巻に付されし章題「うち捨てられし記憶」の、それが真意か……岡本倫……ッ!!


「5210番・・・ 1107番を見つけろ」
「任務に成功すればご褒美をやる なにがいい?」

「……私は・・・」

友達が欲しい・・・

ずっと私を覚えてくれているような・・・
記憶を消さないで済むような・・・
そして 私が死んだ後も思い出してくれるような・・・
友達が欲しい・・・

ご褒美・・・もらえた・・・*1
みんな・・・友達になってくれてありがとう・・・
今日は・・・今までで一番・・・


……

…………

………………!?


「誰のことや 奈波って!?」*2「……は?」
「みんな 知ってるか?」
「……」「誰ですか? それ・・・」
「……なっ……」


(奈波・・・ひょっとして・・・あいつ・・・ 皆を悲しませないために・・・記憶を全部消したのか・・・?)

(なんで・・・ なんでそんなことしたんだ・・・!! 奈波・・・!!)


(悲しまなくていい)
(!? ……奈波・・・!?)

(ごめんね あなたの記憶に 私の人格を書き込んだ
だいぶ あなたの記憶の容量使っちゃったけど)*3
(……)
(私が知っている秘密 断片的なことしかないけど あなたの記憶に書き込んでおいたから役に立てて)
(あなたが・・・友達になれそうって言ってくれたの とても嬉しかった)

(たぶん・・・ また出てくるから)


「ははは・・・奈波がホントにおれの心の中で生きているなんて・・・」

「どうしてだろう・・・ 私また・・・忘れちゃいけないことを忘れてしまった気がする・・・
涙があふれて止まらないの・・・どうして・・・」

(奈波・・・お前の言うとおりだった お前は死なない・・・奈波・・・)


「奈波・・・おれはいつまでも 忘れないから・・・」

(……ありがと)


“それでも彼女はいなくならない”

―――答えは、『3番』。それ以上でもあり、それ以下でもあり。多く予期された通りの結末と言えれば、悪い予感が当たったとも言え、完全に予想の上を逝かれもした。奈波ぃ……ッ。

すべては変わりゆく だが恐れるな、友よ 何も失われていない

 そんな風に言葉を借りねば、到底受け止め切れやしない。あまりにも、あんまりで、感情を持て余す。
 理屈は、わかるんだ。そう「言葉通りに」受け取り、気遣った。小鳥は千絵姉さんの事があるし、寧子は味方だろうとなかろうと同胞の死を悼まずにいれないだろう。また佳奈カズミ含め全員が自らの身の儚さを突きつける「魔女の死」を見て平静ではいられないだろう。だからって、だからってな……お前、それでいいのかよ……。まったくもってロジカルならざる。
 「悔やんで悲しみ重ねる事を誰も望んでない」とは、自分で綴った言葉だ。けど、それは明日を一緒に迎えたいという願いから来るもので、取り返しのつかない過ちを無かった事にしたいなんて誰が願っただろう。それも私か。どちらにしろ、無かった事にはならない。そう、ならない。奈波の死も―――奈波の存在も。

あばよじゃねぇ。一緒だろ?

死んでも生きられます!

 イジェクトされ全身が融解する苦痛の中で、最期の力を振り絞ったが故の奇跡か。寧子たちから己に関する記憶を消し去った上で、良太の記憶に人格を間借り(ダウンロード)させた「奈波」。肉体は滅び、彼女は確かに死んだ。今の「彼女」がどこまで奈波と言えるのか……そんな哲学考証は今は投げ捨てよう。文字通り「心の中に」生きている。それだけで満、足、するしか、ないじゃないかぁ……嗚呼、畜生。


「革新/核心/確信」

―――ところで、唯一人完全に沈黙を守った小五郎はどうした? どうなった。

 天文台の近くに僅かな骸を葬り、彼女から受け取った機密情報から許されざる「敵」を明確に見定めた良太。その子細は先の話を待つとして、単独ではただ記憶力・判断力の優れた高校生でしかない良太が、魔法使いの少女達を平穏に過ごさせる事に専心してきた彼がそうと考えるのは、情報的に実力的に根拠がありえるか。寧子達の力を借りる前提でも、こちらが攻め手となればより戦闘向きの高ランク魔女と対するは必至。ましてや、今回の良太の憤りを、寧子達とは共有できない。意識に温度差が、連携に齟齬が生まれやしないか?
 そもそも第3章が始まって1ヶ月分と言った鎮死剤はどれだけ残ってる? 寿命と魔力量の両面で補給を確立せずに攻め手など夢のまた夢。どうにも忘れられがちだが、相手は「魔女を扱うプロ」なのだ。そういうわけで……前回の時点で「奈波の死を目にすれば魔女の存在を認めざるを得ない」とも考えられていた小五郎が薬の研究を再開……するだけでは間に合わないかもしれんが、知識を増した良太が補えば、更に端末の中身が加われば? という希望的観測の前にだ。

―――どう考えても死に逝く奈波と視線を合わせておらず、また彼女と友達になってもいない小五郎は、記憶操作を受けないまま奈波が融け崩れ、少女達の態度が不自然に一変したのを目撃した。まずその辺の認識を良太と擦り合わせる事が不可欠に思う。必要なら奈波の骸とハーネスト、及び今回は何故か露出しなかった推定「ドラシル」のサンプル採っての解析も考えなくてはなるまい。むしろ小五郎の立ち位置ではそれが当然に見える。
 「宇宙人の受精卵」が本物*4と知る小五郎に、更なる物証が渡るとして……彼は甥に隠している情報を話すだろうか? 奈波との接触期間は僅かで、受精卵に関する記憶を覗かれ研究所に目を付けられたら、という危惧は実現せずに済んだが、その先は? 秘密を知れば殺される可能性があるという話が、彼の中で真実味を帯びた上で。


 はたして奈波の死は少女達に傷を遺さず、男二人に行動を如何な行動を促すだろうか……嗚呼もう、限界だ。糖分が沢山必要です。
……良太、ケーキ食べよう。ブルーベリーソースがたっぷりかかったチーズケーキを。鯛焼きでもアイスでもいい、皆で。中の人でも憑依でも二心一体でも何でもいい。そうすればお前に伝わるか? 共感できるか? そう思い込むだけの行為かもしれない。それでもだ―――。

*1:素顔を出して以降の振る舞いから、研究所が与え、彼女が欲するものの程度を低く見積もり……やっと出来た友達を思い遣る気持を見誤っていた、な。

*2:彼女自身は全く悪くないが、前回のたった2頁と先日の3巻で寧子に劣らず上昇した株を躊躇なく切り下げる岡本倫のドSェ……。

*3:「ライトワンス」、「長生きできない」という奈波の言からするに、不可逆的に良太の寿命が縮んだということだろうか。これは。彼自身には「出力器官」がないから、「別の媒体」に奈波を「転写」するという展開も多分ないだろうし……?

*4:単行本3巻のラストでは「かもしれない」と台詞が修正されている。