ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《ウルザの色眼鏡/Sunglasses of Urza》/『極黒のブリュンヒルデ』第41話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)

「研究所・・・魔女の宮殿(ヴィンガルフ)……そんなもん一体どこにあるんだよ・・・」

―――はたして2週間後の答え合わせ(アンサーチェック)。残念な事に、脳内彼女・奈波が降臨したりはせなんだが……良太の完全記憶と小五郎の教養が合わさりコンマ一秒未満で間に合った、という悪くない結果。思うに小五郎、冷静なのか信頼なのか、余裕ありすぎる上に目付きがヤバく感じる。もしかして不自然にならない程度に答えを誘導したか。柱谷小五郎という人格そのものがナニカサレタ訳ではなさそうだが、やはり小さくない不安が残るね。
 現状で不安の無い要素があるか? と言われればなんとも答え難いほどに五里霧中が極黒クオリティ岡本倫ドSクオリティ(約束)。パスワード解けたら薬の情報が得られるかと思ったら更に難題とか。


Uns wird in alten Erzählungen viel Wunderbares berichtet:
Von berühmten Helden, großer Mühsal,
von glücklichen Tagen und Festen, von Tränen und Klagen
und vom Kampf tapferer Männer könnt ihr jetzt Erstaunliches erfahren.

古い世の物語には数々のいみじきことが伝えられている。
ほまれ高い英雄や、容易ならぬ戦いの苦労が、
よろこび、饗宴、哀泣、悲嘆、また猛き勇士らのあらそいなど、
あまたのいみじき物語を、これからおん身たちに伝えよう。
(相良守峯訳『ニーベルンゲンの歌』前編、第一歌章、一)


「この単語・・・発信先の名前だろ? 一体誰なんだ・・・?」
「……ヘクセンヤクト 『魔女狩り』という意味だ」
「……ちょっと どうするか考えさせてくれ」
「ああ」

「この端末の先で待っているのは・・・とても仲間とは思えないな・・・」

(どうすれば鎮死剤をあと3週間で手に入れられるんだ・・・
寧子たちを救えるんだ・・・)


 「ジークフリート(Siegfried)」に「魔女狩り(Hexenjagd)」。『ブリュンヒルデ』というタイトルから連想されたり、第3話のサブタイトルに使われたりと、随分序盤から気にされていた単語がようやっと劇中に顔を出したものである。高千穂の目的が「神(宇宙人)殺し」と仮定された時もそうだが、なにやら錯誤だか逆さまな感じがしてならない。
 いやさ、研究所改めヴィンガルフが脱走魔女を捕殺するのとは別に、推定抵抗組織が魔女を殺す事を志向する理屈はつけられる。「人類を何度も滅ぼす程度の能力」を持つヴァルキュリア擁するヴィンガルフ/高千穂の大願成就はおよそ現生地球人類に碌な事にならない……第1話冒頭のアレもある事だし尚更そう思う。どういう経過でか推定「神父」達がそれを阻止しようとするなら、袈裟まで憎いほど怨み骨髄であるか、魔女を生かすべきでない合理的な理由があるのだろう。残る脱走魔女が自棄を起こした場合の危険性とか、彼女らが(厳密にはハーネストとその中身が?)回収される事の意味だとか。

 問題は、否、前提というべきか。良太は大義によって立つ「人類の味方」ではなく、人情と恋情に基づく「寧子達の保護者」であることだ。亡き茜女史が端末を託した意図や、彼女が端末を得た/用意した過程やらは不明だらけの過去において明らかになって欲しい上位に含まれるが……現在良太および読者の目線からは相容れない可能性を危惧せざるをえない訳で。しかしこれを無かった事にした場合、本当にお手上げと口にしたのは良太自身だった。
 つまるところ何時、何処で端末が示す通信相手に連絡をつけ、其処から発生する事態に誰がどのように対応するか―――ことこの件に関し、良太が魔女達に協力を求めるにあたり奈波の件に触れる必要が無いのに構成の妙を感じなくもない。ただ奈波の死を見せつけられて間も無いのに、寧子達を危険に晒す選択をそうそう急げやしない……そんな良太に今一度「思い出させる」役目は、誰になるやら。前回に増して顔出しすらなかったが……保存食さんか、脳内彼女か。


「反省すべきだな 研究所ばかりにいると
全てを科学で証明出切るなどと思い込んでしまう」
「『科学』は単に『今わかっていること』でしかないのに・・・こうして目の前に突きつけられないとなかなか認められない」


 そんな一方で、自分の顔面に張り付いたりナニカサレタ疑いのあるドラシルの死骸というか液体をサンプル採りする小五郎。「にも」地球上の生物にない塩基配列が含まれている筈、というのは件の受精卵からそういう解析結果が出ていたのか。依頼先の身元か身の安全も気になるところではあるな。結局良太には話さずじまいだったし……必要な情報が得られれば魔女延命に協力してくれる事は知的好奇心と感情の両面から間違いないと見てよいだろうが、それだけでは終わらないぞという臭いがプンプン。


ガネっ娘! 眼鏡っ娘キタ! これで勝つる!!

 寧子達を助ける為の手がかりを求める村上良太がようやく得た連絡先、秘密を知る相手が敵性である可能性を危ぶんでいた頃……推定前々話からの同日を終えて翌日だか数日後だか……多分に過去に飛んだりはしてない筈。「彼女」が配属を命じられるに至った理由が定期的な人員確保ではなく、奈波の監督に失敗した城ウォッチャー黒服が処分された穴埋めにあった場合は、尚更に。


土屋邑貴(つちやゆき)くん」
「はい」
「高次生命機構研究所 ヴィンガルフへの配属を命ずる」
「はい?」


 この辺の形式やら建造物やらには明るくないが、推定公的研究組織に属する人々が辞令を受けるの図。そうして同じようにまた一人……ひっつめ黒髪に眼鏡をかけた若い女性、組織図にも載っていないキラキラネーム部署への配属を命じられるのこと。
 日の丸を掲げる建物を出たところに黒塗り公用車と、迎えの黒服男性(New!)―――顔面に張り付いたようなデザインのサングラスらしきものは、先人の失敗を基に改良が施されたのかね。


「土屋邑貴・・・理科大を主席に次ぐ成績で卒業 政府系研究機関に配属を希望」「……」
「お前は友達が少ないだろう?」
「……なんですか? いきなり」


 事前準備も無しに配属決定当日から2年は外に出られないのが不自然でなく心配されない人材て……秘密組織参加のハードルは逆の意味で高い、いや寧ろ低いのか?
 ところで通信記録の没交渉ぶり、ネットの接続・閲覧履歴(性的嗜好)を洗いざらい調べるにあたっては【操網】魔女を使ったように取れるが……たとえ生死が握られているにしても、この情報化社会で最も野放しに出来ない魔法の一つであろう【操網】を外界と接続させる危険性を鑑みると、その娘はよほど組織に忠実に育てられているか、はたまた恐怖で縛られているか。Aクラスだからといって処分される筈だったBクラスより優遇されていたかどうかもわからない(これから判る可能性が少し出てきた)が、これまでの刺客は表面的にも潜在的にも忠誠心とは無縁……キカコはどうなのか今ひとつ判断要素が薄いが、力を振るっての壊し潰しに酔ってたきらいはある。閑話休題


「お前に質問がある」
「ちょっと待ってください 聞きたいことがあるのはこっちなんですが」
「お前は・・・魔法の存在を信じるか?」「……」
「これはまだ 何かの試験なんですか?」

「違う 純粋にお前の考えを問うているだけだ」
「……信じるわけがないでしょう?」

「でも あればいいなとは思いますけど」
「悪くない答えだ」

「なら これから魔法を見せてやろう」


―――待望、研究所パート掘り下げのため我々の「眼」となるべき荒川系コミュ下手女性がログインしました、ってな按配。今週は合併号につき次週は無く、次号は1月4日(金)。ひとまず早々に、良い新年を迎えられますようにと。
 悩める良太はひとまず置いて……魔女の宮殿(ヴィンガルフ)の入り口を、日々を、奥深くを。不安要素はそのままに、より楽しみになってきたぞ……?