ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《グラクシプロン/Graxiplon》/『極黒のブリュンヒルデ』第44話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)

「でも・・・変なの 地球生まれなのに宇宙人なんて・・・それ もう地球人よね」

……うん。鎮死剤が残り3週分を切り、来週に期末試験を控えテスト勉強で、「寿命問題が一時的にでも解決するとしたらギリギリだろうな」とか……大甘にも程があったよ(愕然)。


がん【龕】:石窟や家屋の壁面に、仏像・仏具などを納める為に設けたくぼみ。厨子

「本当に宇宙人がいるんですか?」
「ああ この奥の部屋にいる」
「宇宙人はイケメンですか?」
「……そうだな」

「……これがイケメン・・・?」
「A008 初期のソーサリアンだ」

「セクションによって開示される情報のレベルは違う お前が知る必要はないし おれも全てを知っているわけじゃない」
「それじゃこれが・・・地球外の生命体だってどうやって証明出来るんですか?」
「そんなのは簡単だ まず DNAの塩基がATGCじゃない」
「え?」


―――【ソーサリアン】。劇中にその単語が表れてより、長く実体を掴ませずにいたモノ。それが遂に像を成し、土屋邑貴の眼を通して読者に明らかに。その姿は……ある種EVAリリンじみた、異形のヒトガタ。上半身に翅と腕を備えるが非対称不全、下半身無く内臓剥き出し、頭部は辛うじて片目が確認できる程度。遺跡の痕跡より20年前に組成された出来損ないながら、未だ生きて、成長しているという体躯は確実に人間を逸脱し、地球上生物にありえざる物質*1をも含む。
 イコール、宇宙人。ドラシル・グラーネ及び魔女との関係はまだ不鮮明だが、ヴィンガルフにおいて組成される両者が何らかの相関を持つ事は確実と見られる。魔女達が実験で会ったという合成に失敗した内臓と筋肉だけのヒトガタの肉塊がA008と同一かはさておき……脳波と反射はあるが、意思疎通の手段無く意識は確認されていない、そんな存在をして「滅ぼす」必要が、そもそも再生する必要*2が何処にあるのか? それとも未成熟から進歩した技術で再生された「より完成形に近いソーサリアン」とは意思疎通が可能となったのか……セクション*3が変わればまた違うものが見えてくるとすれば、今回の情報をも煙に巻く機密が深奥に秘されている可能性もある。殊に【彼ら】の由来やら遺跡の所在やら、それを発見した者達が「大願」と言って活動を開始した経緯とか。

 要は、少なくない情報が明らかになったが、すっきりするどころか判らない事(疑わしい点)が増えたという平常運転。


「……おかしなものですね ついさっき目の前で人が殺されて
自分も死にかけたのに・・・私今 自分がすごくラッキーだと思ってる・・・」

「……やっぱり お前にはこの仕事は向いてないのかもしれないな」
「はぁ? それって一体どういうことですか?」
「知的好奇心だけで乗り切れるほど ここでの研究は甘くない
意識も自我も 人格もある魔女を これから切り刻むことになるんだ」
「!?」
「まずはスカジを使い・・・1107番をイジェクトする」


 はたしてイチジク所長の特別な計らい*4で、本来新人に開龕されない【A008】を見せられ、魅せられた様子の邑貴女史。より深層に触れたければ2年で実力を見せろと言われモチベーションも向上……二人の死が彼女の与えた波紋・疑念も、一時は知的好奇心に押し流されてしまうかという所で、しかし水を差すのは黒服。亡くなったばかりの宅間氏と同じように適性を欠くと見る。彼は彼で新人を育て鍛える上司向きには見えぬが……はて、今回ラストからするに、当分邑貴は黒服の直属ということになったのだろうか。んん? でも彼女は「2年間外に出られない試用期間中」で、だのに【スカジ】搬入に帯同させられてる。どういうこった。

―――今回に示された情報を統合するとだ……凄い嫌なイメージ、極めて残忍な通過儀礼を想像してしまうわけだが。それが実現してしまった日には、眼鏡(の復帰した)腐女史の精神が後戻りできない所まで逝ってしまう前に当方の心魂ががガガガガ(エラーエラーエラー)


“長くても二日先、短いと数秒先”

 閑話、休題。てっきりもう、良太の中で黒羽寧子=クロネコが確信されているものと思ったら、そんなことはなかった。前回の抱擁は……寧子に面影重ねる事で薄れていたクロネコの喪失感が、彼女の記憶磨耗に直面する事で蘇り思い余ってのことだったらしい。無意識ではどうかは置いておくとして、あくまで別人と認識しているようだ。どうにも当方、「そのくらい最初から気付いてたよ」に予断があるが、良太と寧子に関してはそれをやる気は当分無いと見た。まあ事実が事実*5なので、何時再燃するかもしれない訳だが。「……黒羽・・・柔らかかったな・・・おっぱい・・・」むっつり巨乳好きが、不意に胸のホクロを見てしまったりな!


(そんな・・・思い出作りみたいなこと・・・でも……薬がなくなってからじゃ 思い出も作れない………)
「それじゃ 試験が終わったら みんなで泳ぎにいくか」

「やった!!」


 はてさて翌日。態度に変化無い寧子を良太が気にしたり、今日も落書きに余念が無い小鳥が弄られ係()だったり……そして出し抜けに試験明けの海水浴を提案するカズミ。そういえば2巻の合宿で海行ったのは良太寧子だけだな。
 村上良太には寧子達を生き永らえさせよう、平穏な日々を送らせようという強い決意があるが、彼女等にも限りある命を彼女等なりに有意義に使おうとする意思がある。人助けだったり人助けだったり人助けだったり*6エロいことだったり。その意思により救われた一人である良太はそれを苦く思いつつも、完全には止め立て出来ない。手がかりの繋がる先が危険に過ぎ、鎮死剤の当てが無い現状、急いた生き方を阻めやしない。海が楽しみだというカズミの表情が何処か空々しく感じてしまっても、いつものように貧乳disって蹴りを受けるくらいしか出来ることは無いのだ―――そんな「いつも」の空気を、否応無しに打ち砕く、戦慄


『ちょっと なにこれ・・・』
「……まさか・・・予知が見えたのか?」
「え!? また誰か死ぬんか!?」
『……カズミ』「は!?」

『あんた 研究所に捕まる・・・』

『捕まって ひどい拷問をされて・・・
バラバラにされて・・・イジェクトされて殺される・・・』


……つくづく、佳奈の【予知】とは重い能力だと思う。非業の死という要所“のみ”を抑え、発動には必ず人命が関わる。また未来のビジョンが変わるまで、常時確認できる/せざるを得ないかは未描写ながら死を視続けることになる上、彼女自身は基本的に未来に直接干渉し難いときてる。例えば1〜2巻の間、命の恩人にして親友である寧子が死ぬビジョンが最後まで変わらずにいた時、そして死を巻き戻して寧子が生還した時の彼女の感情や如何ばかりだったろうか。更には今回、カズミの惨死を口にする時も。

 “長くても二日先、短いと数秒先”。試験明けどころか、試験以前にそれはやってくるのだろうか。今しも黒服と邑貴女史の前に搬入される【スカジ】が。魔女でも、ソーサリアン=宇宙人でもないのなら、やはりベクタークラフトと経緯(グロ)の似る大型生体兵器かと予想するが、その形態に関わらずその威力が驚異的であろう事は間違いない。
 目標は【グラーネ】擁する1107番、黒羽寧子。だが、その襲撃に居合わせた他の魔女が見逃されるなんてことはありえない。もしも目標を取り逃がし、あるいは作戦の途上で仲間を捕らえたならば……あらゆる手段にそれを活用し、最後にはイジェクトして殺すだろう―――カズミが そうなって しまう かも しれない ?

 未来は、変えられる。予知された死を、防ぐ事が、出来る。 出 来 る よ な ?

*1:原子核の陽子の数から定義される126番元素、172番元素というのは現在の周期表には確認されていない。小五郎が「受精卵」、更にはドラシル遺骸から確認するであろう塩基配列も多分にこれだろうが……依頼先と、彼自身の安全がますます危ぶまれる。

*2:最初は単に知的好奇心からの接触・探求であったのか、遺跡発見段階あるいは発見以前からそれと期する者が存在したのか、ともヴィンガルフ・高千穂の設立経緯が気になるところ。

*3:専門部署というより、機密に触れられるランクの度合を指しているように思われる。

*4:組織の長として進退窮まっている状態の彼が、そこに何らかの意図、理由を含み持っている可能性への予断(希望的観測)は止まない。けど登場頻度少ない上にあの鉄面皮から察せるところはまるでない始末。ましてやこれから始まる作戦に手心が加えられるようには、全く見えぬぇ!

*5:ただし黒羽寧子がクロネコの記憶転写クローン体・別人でない場合に限る。

*6:一般人命救助に同胞の為の自己犠牲に、およそ自分の身命・寿命を賭しての利他行為。