ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《無垢の血/Innocent Blood》/『極黒のブリュンヒルデ』第45話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)

「こ・・・こんにちは!!」
「……はい こんにちは」ゼーッ ゼーッ

……刊末後書で作者が「先生になりたかった」とか言うから……(´;ω;`)ブワッ


“神の胎児”

「スカジはAAA・・・現存する最高の予知能力者だ」

「意図しない状況を時々予知することは低ランクの魔女でも出来る
だが・・・こちらの指示した時間 指示した場所 指示した人間に起こる事を
100%予知出来るのは このスカジだけだ」


 なるほど……確かに「搬入」されるべき存在だ。生命維持装置付きの椅子に括られた、身動き取れない少女とは。寝巻きに隠れているものの四肢が左手以外、というのも天文台のマスコットを以て任じる彼女を彷彿とさせる。能力強度・精度と代償が比例して跳ね上がって、上位互換とはとても言えない。ましてやあと1度の能力行使で尽きる命とは……なんともエグく、キツい。それで寧子の、というかカズミの命が脅かされようとしているので、尚更に。
 特別な大型生体兵器かと思いきや重力魔女が登場しては速攻滅殺され、やはり兵器が搬入されたかと思いきや……まさかの予知。いやさ、先入観が過ぎていただけのことで……1巻2巻3巻と予知により危機を察知し難局を超えてきた側にしてみれば、また未だに脱走魔女の正確な位置がわかってない側にすれば、その有効性妥当性は得心行くところ。そこまで大規模大仰な(しかも残り一度しか使えない)力を使わずとも、同胞を探知感知できる能力者が居ればな……此処まできて登場しないってことは本当に存在しないのだろう。スカジの使用許可を出したのは高千穂丸眼鏡だし、イチジク所長が何かを仕組んだ様子は今のところ無い。よって、【グラーネ】がそれほど貴重な予知を使い切るに足る重要性を持つということか……ますます寧子達が脱走した事故が訝しく感じられる。処分自体は「器」を取り替える為だと仮定しても、イジェクト一発で融け死ぬ存在の「処分場」とか、また茜女史とか。

 また一方、最序盤からの「第1話冒頭のビジョンを佳奈が視ればそれは死亡フラグだろうな」という予断において、それに代わり得るAAAランク予知能力者が登場したとも取れる。しかも視たら本当に死ぬ状態にある。ただカズミが死ぬと視られた明後日に関わる、つまるところ脱走魔女の居所に関わる予知において、どうしたら世界荒廃&良太が寧子刺殺に辿り着くのか。そこが今回仄めかされたスカジの予知能力の子細に関わるのかどうか……今後暫くの作劇が気になるところである。


「そしてお前の当面の仕事は このスカジの世話だ」「は?」
「彼女は体が動かないからひとりじゃトイレにも行けないんだ
スカジはAAAだが予知以外のことは出来ない 素人でも危険はないよ」

「私は研究職・・・」
「生意気言うな まだ研修期間だろ 普通の会社でも電話番だ
それじゃ 頼んだ」

「ちょ・・・待ってください! そもそもこの『魔女』って一体何なんですか?」
「お前のセクション外だ」
「……もう・・・」


―――それにしても黒服、「セクションが違う」「セクション外だ」って言えば何でも通ると思っちゃいないか。実際にそうなのだろうし、もしかしなくても彼自身がそう言われて研修期間を過ごした可能性もあるが。ともあれ2年間外に出られない土屋女史が、スカジ(+生命維持装置)の「搬入」に帯同させられた理由はそういうことだった。はて、エルフェンのマリコに対する斎藤みたいな、元々の世話役とか居ないのか……ふうむ、何かに付けて当方、女史の処遇に関してイチジク所長が何か意図する所が無いかと考えているな。


Day After Tomorrow


「もうちょっと……生きてられると思ったんやけどな・・・」

「拷問されて死ぬなんて・・・そんなんイヤや・・・ 私・・・どうすればええんやろ・・・」

「勉強に決まってるだろ 試験はもう3日後だぞ」

「絶対にお前を死なせないから どんあことがあっても・・・なにをしてでもお前を助ける
大丈夫だ 今までだって予知を変えてきたんだから」

「村上・・・」
「まだあと2日もある 作戦を考えるには十分だ
さぁ 朝の勉強はおしまいにしよう もう学校に行く時間だぞ」

「……うん」
『……』


……しばらく前にも書いたような気がするが、村上良太の男ぶり天井知らずを前にしたらば、カズミの想いに関して「唐突にアプローチかけだして怪しい」とか「“夢”やら“生きる理由”やらの手段扱い」とか言う気は瞬く間に失せる主観。ロジックじゃない、惚れるだろうこれは……理由とか後回しだろうこれは……だからってその辺を明かさぬまま彼女が逝っていいことにも、明らかになれば逝っていいことにもならぬがっ。全 力 阻 止 。万一の際、手段を選ばぬ大逆転をば、きた……期待はしたくないが、信じ、切に祈り願う。


『……目ざといのね 動揺して言い方がきつくなってしまったかもしれない
今回の予知は 変えられないから』
「えっ?」
『相手は100%の予知が出来るAAAよ しかも予知の実現のために未来にまで干渉出来る』
「……未来に干渉? そんな・・・」
『だからもう カズミが死ぬのは救えない』


 ただ、極めて難題であることも事実。佳奈がどうしてスカジの存在を知り、また今回スカジが関わっている事を察知できるのか。前者は彼女またカズミ固有の情報としても、後者は他の予知能力者のビジョンにさえ現れ得るスカジの「特性」による所が大と見る。ただ後述された【予知夢】において「未来に干渉」すらできるというのが、具体的にSF的にどういった代物であるか。作劇として如何に描かれるのかという疑問もある。それにどうやって対抗するかという点についても。そもそも、寧子をイジェクトせんとするヴィンガルフ戦術室が最も効果的な質問を作成し100%の精度で予知がなされ、それで死ぬのがカズミというのはどういうことだ?
 佳奈の情報から良太の頭脳が策を弾き出すか、はたまた奈波の時みたく、策とか関係無い心情面から打開されてくれやしないか……此処まで無理ゲーと強調されると、何処かに隙があって逆に大丈夫じゃないかと思えてくる不可思議心情―――けれど今回、カズミを救えるか否かに関わらず、良太の手が絶対届かない部分で零れ落ちる命が確定しているのだった……。


「傷つくる者」の夢現

「あなた・・・未来が見えるんでしょ」
「あ はい あの・・・見えるというか・・・行くことが出来るんです 未来の世界に」「はぁ?」
「もちろん本当に行くわけじゃなくて・・・私が夢に見る未来の世界なんですけども・・・」
「……予知と言うより予知夢なのか・・・」
「現実の世界だと 私 病気で体が動かなくなって・・・息をするのも苦しいのに・・・
でも その夢の中では自由に動くことが出来るんです 他の人たちとも自由にお話が出来て・・・
とても楽しいんです」

「あんたバカじゃないの? それ病気なんかじゃないわよ
その予知夢を見るから体が崩れるの しかもあと1回予知したらあなたは死んでしまう」

「あの・・・ごめんなさい・・・よく聞こえないです・・・」
「聞こえないから言ってるのよ それでもあなたに予知をさせようとしているの
みんな あんたの命より あんたの能力の方が大事なのよ
そんなことにも気づかないでまだ予知をするなんて・・・」

「あの・・・よく聞こえませんけど・・・でも・・・
きっと 体が崩れるのに どうして予知なんかするのかってこと言ってるんですよね」
「!?」

「でも私・・・もう一人じゃ生きられない体だから・・・
だから誰かの役に立って生かしてもらうしかないんです たとえそれで体が崩れても・・・
でもそれでみんな私に優しくしてくれるし・・・私 結構幸せですよ」

「……やっぱり あんたわかってないわ」

「それにもちろんわかってますよ

みんな 私の命より 私の能力の方が大切だってこと

でも 私はそれでも幸せなんです 使い道がないからって殺された友達は沢山いますから・・・
私があと何回予知出切るか わかりませんが がんばらないと私も殺されてしまいますから・・・」

「……やっぱり わかってない がんばったって殺されるのよ」

「あの・・・あの・・・ どうして泣いているんですか?」

「結局私も・・・他の人と同じように この子を見殺しにするわけだ・・・」

「本当だ・・・私・・・全然この仕事に向いてない・・・」


……

…………

………………;;


 スカジ。北欧神話に由来するコードネームを冠された本名未詳の少女の「夢見る未来」と現実の相関とか、彼女が体験する時間において彼女はどういった姿で存在するのかとか、彼女が未来に干渉するように現実の側から彼女に干渉は不可能なのかとか、「行って、戻る」という意味では沙織の【転時】と似ているなとか……

 土屋邑貴。ソーサリアン【A008】に魅せられたワクワクもぶっ飛ぶ魔女の現実に直面し、1巻の良太並に涙腺決壊。己の境遇に自覚的でない呑気と見えたスカジの笑顔に苛立ったか、耳が不自由な彼女の前で陰口を漏らすが、少女が大体を承知した上で本心から笑っている事を……命儚い魔女の中で自分が幸せな方だと本気で思っている事を知り……

―――なんという救い難さ、救いの無さ。そして救いがあろうと無かろうと、どうしようもなく死は避けられない。新人である邑貴に、否、ヴィンガルフの誰であろうと少女の命を永らえさせる事は出来ないし、しない。邑貴にできる事は、言われた通りに「最期の日」までスカジの世話をすることしかないのだ。

 不意に、想起する。

「わたしはね、本当はこんな研究者になんてなりたくなかったの」

「学校の先生になりたかった。教師とか教授とかお堅い役職ではなく、優しい先生になりたかった。生徒の顔を一人一人覚えていって、困った事があったら何でも相談を受けて、たった一人の子供のために奔走して、見返りを求めず力強く笑って、卒業式で泣いている姿を見てからかわれるような、そんな優しい先生になりたかった。もちろん、こんな甘いだけで優しくない人格の持ち主が何かを教えるような立場に立ってはいけないと、自ら断念したけれどね」

「きっと、まだ未練が残っていたのでしょうね。わたしは一度でいいから甘いのではなく優しい事をしてみたかった。たった一人の子供のために奔走する先生のような、そんな行動を示してみたかった」

 想起する。

「あんな悲劇 二度と繰り返させはしない そのためなら私はなんだってする

この街の全てを敵に回しても 止まる訳にはいかないんだっ!!!」


 だからどうしたってことはまだ無い。これから先も無いかもしれない……いつもの、ただの予断。