ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《今わの際/Last Breath》/『極黒のブリュンヒルデ』第47話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)


―――必ず なんとかする

―――同時掲載『きみだら』番外が素敵に愉快な倒錯御馬鹿ップルぶりを披露したのに対し暗澹たる展開が来ると思わせて、そうならないかもという希望的観測をあっさりと突き崩す、如何ともし難い真っ暗話だった!
……結局、第4巻(+『君は淫らな僕の女王』+『クズの本懐』)の発売前に脳内彼女奈波が再登場したりはしなかったね……orz


命の天秤

「あなたの世話なんてお手のもんよ!! 手足がないぶん分体も軽いし!!」
「……ありがとうございます!」ゼーッ ゼーッ
「……だからいいのよ すぐに 必要なくなるんだから」

 前回ラストに続いて研究所サイドでもトイレの世話描写。うんむ、推定第4章は単行本で直結する事も込みで視点を頻繁に切り替えつつ「筋」がズレない構成だなと。例えば『まおゆう』アニメ第1話みたく?
 はたして「漏らし」ネタが前回不発だったので、土屋女史が不慣れな為に瑞花が……という可能性もあるかと思っていたらそんな事は無かった*1。むしろお婆ちゃん子だった女史は寝たきりになった祖母の介護経験が豊富だった。その辺に関して人事部なりで調べはついてたのか否か……まあ極短期間の(それも多分に突発的な)世話を充てこんでスカウトしたとは流石に思えないか。それなら元から世話役が居た方が自然。となると調べ不足か配置ミス「だった」ということになるのかね。もし人事部の宅間氏が生きていたら、どうだったかな……。

「みぃちゃんにいつ予知をさせるんですか?」
「みぃちゃん? ああ スカジのことか  この一両日中だ」
「……もう 1日2日ってこと?  一体 彼女に何を予知させようって言うんですか?」
「だから 脱走者の捜索だと言ったろう」
「それは・・・彼女の命を使うほど重要なことですか?」
「当たり前だ 1107番を回収しなければ 計画に重大な支障が出るんだ」「1107番?」

「放っておいたら 地球上の生物が全て滅ぶ」

「……は? それはどういう・・・」
「お前のセクション外だ」
「ちょっ・・・!!」

「とにかく もう時間が無い 薬切れでドラシルが1107番ごと崩落する前に
なんとしても1107番を回収しないと甚大な損害が出るんだ
1107番を確保するためなら拷問だろうが何だろうが・・・手段は選ばない」

 事前の会話。当方のどうしたって抜けない先入観として、『エルフェンリート』クライマックスと本作第1話冒頭シーンの相似相関……1107番=寧子(ルーシー/楓の「中の人」)の破壊魔法(ベクター)が限界を超えて暴走した結果、世界に破滅が訪れるというのがある。そして今回、黒服の言い様は―――彼が知らされている情報が真実の全てでないという前提を置いても―――ディクロニウスが本能のまま人類をベクターウイルスに感染させる事で滅亡へ誘うという筋に近い印象を与えつつ、逆に違和感を感じさせもする。いやさ正直を言えば、情報の混沌ぶりに訳がわからない。

 かつてクロネコは「疾うに宇宙人に侵略されている」といい、処分されかけ脱走した寧子に「世界を破滅から救えるのはお前しかいない」と茜女史は言い遺した。彼女に託された端末は“魔女狩り”なる組織に繋がっていた。人類を何度も滅ぼす程の力を持つSランク魔女【ヴァルキュリア】を計画の核とするヴィンガルフの目的は“神を滅ぼすこと”であり、また彼らは地球外生命体の遺跡から宇宙人=ソーサリアンの再生を行っている。ヴィンガルフ上部組織である高千穂は1107番の生存を僥倖とし、グラーネの回収を命じた……。

 今回の話だけで憶測を述べれば、寧子と彼女に寄生するグラーネが直接的に破滅的未来の要因となることは無いとも取れる。魔女の命は完全に鎮死剤に依存した儚いものであり、擬死行動や「眼」を介した精神干渉の疑いこそあるが、寄生生物自体も宿主が死んでも活動可能とはいえ極めて脆弱な存在だからだ。となると……ヴィンガルフは「建前上」*2、地球上生命を危機から護るために百年前から計画を進めており、それには寧子のグラーネが不可欠……とまでかは判らないが―――そしてそう遠くない未来*3に本当の危機*4が訪れる―――?


展望、未だ開けず

「ただいま帰りました!!」ド ン ヨ リ「……おりょ?」
「どどどどうかしたんですか?」

『……』「なんでもないよ」

「……なんや ひょっとして・・・ 動けんのをいいことに 佳奈のパンツ脱がしたりしたんとちゃうか?」ドキッ
「!?」「脱がしたんか!?」
「村上くんまさか・・・動けない佳奈ちゃんをいじめて・・・」ゴ ゴ ゴ
「ばばばばばバカ言うな!! そんなわけないだろ!!」
「心配せんでも 村上にそんな度胸あるわけないわ 私は散々思い知っとる」「……」


 天文台サイドは天文台サイドで学校帰り組も留守組も(トイレ事件が尾を引いて)鬱々……とはいえ抑えるべき()ネタは抑えるカズミ。ムードメーカー健在なり。後の事を見れば空元気とも取れるが……また保存食さん小鳥が普通に清涼剤。カズミが追い詰められてる現状で、自覚的にか無意識的にか暗くならないさせまいとする陽気放散娘……まあ今回成功してないが。


「カズミ イヤな話になるけど いいか?」
「ええよ  助けてくれんのやろ?」
「……もちろんだ」

「カズミちゃん もしカズミちゃんが捕まったら 私は前に住んでた廃村へ行く
だから他の魔法使いの居場所を聞かれたら あの場所を言って
それを交換条件に何とか生き延びて 拷問なんて 我慢することない」

「……せやな そん時は 遠慮なくそうさせてもらうわ」

(予知は変わらない・・・カズミは仲間を売るつもりはないってことか もしくは・・・売っても殺される・・・)
「……わかった 作戦を考えたい 小五郎の所へ行ってくる」


……極黒における経験則。【張られた伏線は早々に回収されない】、【新情報は逆に謎を深める】。これに【明言されない要素への過剰な予測憶測は大体外れる】を加えたいと思う。奈波=良太妹説とか、重力魔女=良太親類説とか、イチジク所長の意図的行動説とか……ある意味当たり前の事だが。
 何の事かと言えば、佳奈が予知ヴィジョンが「カズミが拷問されてる所」と「カズミがイジェクトされた所」*5だけだという話。100%予知を当てる為に未来に干渉する【スカジ】こと瑞花の存在を佳奈がどう察知したのかという疑問が未解決ということである。予知に瑞花が、そうでなくても彼女の魔法と相互干渉した際特有の前兆とかが観測されないとおかしくないか? ―――いや、“良太以外の”面子にAAA予知魔法使いの介在/カズミが救えない可能性が高い事を黙っている為に口にしなかったのか? それはそれで、良太にだけは必要な情報を与えておいてほしいが……前回ラストから三人が帰ってくるまで双方ダンマリだったとしたら……小五郎と相談する際、聞き出した情報を回想してくれないものか。嗚呼でもカズミが同道してるんだよな……表面上平静を装って、でも良太の手を握る手が震えるほど不安な彼女を相談に同席させたら……でも大学構内に独りになんて出来ないだろ……?

 相手は強大な存在だ。だけど絶対に大丈夫だ、って良太が言えればまだマシなのだが……今現在の良太にはちと苦しい。前回佳奈を励ましたのは何だったのか、あるいは一度張り詰めた糸が(トイレの件で)切れた所為で、頼れる主人公的な顔面力()が一時減衰しているのかな。村上良太は実に良くやっている男だが一介の高校生に過ぎず、当然一人に出来ることは限りがある。だから仲間との協力も小五郎に知恵を借りることも、使える手は何でも使おうとはしている……それでも、何やら。カズミ存命のため気張ってもらわねばならんのに……ぐぬぬぬ。


「Agony」


「私のおばあちゃんはね ガンで死んだの」
「あの・・・もう少し大きな声で・・・」
「いいのよ 独り言だから」

「高価な薬も全然効かなくなって・・・内臓が破れて・・・息をする度に痛がって・・・苦しんで・・・
そんなおばあちゃんを見てるのが辛かったの
だって 病気なんて苦しくても我慢できるのは 今を耐えればいつか元気になると信じるからでしょ?
でも おばあちゃんは余命を宣告されてたの いくら苦しみに耐えても治らないのよ
どんなに苦しんでも どうせ死ぬから無駄だし意味が無いの 死ぬためだけに苦しんでるの
だからもう安楽死させて楽にしてあげたかった でも日本の法律じゃ無理だから・・・
私が殺してあげようと本気で考えたわ」

「でも すごいのよ私のおばあちゃん
生きても苦しむだけなのに・・・それでも「まだ生きていたい」って言ったの
おばあちゃんの世界には意味の無い苦しみしか残ってないのに・・・それでもいいから生きていたいって言ったの
それから1ヵ月後 結局 苦しみ抜いて死んだわ」

「たとえ生きていても辛いことだけだったとしても・・・
それでも生きていたい
きっと あなたも同じよね?」

「……死ぬのは・・・怖いです・・・
死にたくないです・・・生きてたいです・・・」

「……このまま 予知なんてしなければいいのに・・・なんとか出来ないの・・・?」

「スカジへの質問が決まった  予知を始めてもらう」


―――Cパートは半ば以上、土屋女史の独り語り、独り言。ただ境遇上そうならざるを得なかった瑞花の洞察力、境遇からすれば奇跡的なほどの純真さは女史の想いを、耳元で囁かれた言葉の意を正しく受け止め、心情を吐露。されど黒服が戦術室と思しき男達*6を引き連れて……最後の、最期の【予知夢】の発動を止める術は無いのか……次回や如何にと。

 界隈でも色々と推測が重ねられたものの、具体的な子細は語られる事無く。結局一度きりの発動を以て、【予知夢】なる魔法の何たるかが語られることになるだろうか。同時に【スカジ】という魔女の、瑞花という少女の死を確定させて。第4巻の収録されるだろう範囲と相俟って、悲嘆に暮れるエピソードが連続で気がめげるぜ……それとも奈波が良太の心に“生きている”ように、瑞花が“存在”を永らえることができはしまいか……「未来」へ? 密やかに、ささやかに。


 カズミと瑞花。状況的に配置的に、どちらを、どちらが、という問題ではない。良太が女史がどうしようとも両方死ぬ可能性が一番高いのは確か……だがしかし、だからといって諦め見切るようで極黒の感想書きなんぞやっておれるかぁっ!! 逆に考えるんだ、岡本倫ドSがあの娘らを早々、死んで楽にするなんてことがあるわけないと考えるんだ……(暴投)。

*1:残る可能性は、ヴィンガルフなりヘクセンヤクトなりに捕まりかけたカズミが恐怖の余り失禁とか、はたまた犬良氏(S)イチオシの小鳥失禁か……。

*2:知的好奇心のみならず研究所の人間に非道外道を行わせるための正当化・動機付けという意味で。別個に裏の真実があるという疑惑前提。

*3:多分に、それはカズミを拷問にかけてしまう焦りを生むほどに近い未来?

*4:ややもすると、犬良氏の「かつてソーサリアン種族を滅ぼした別の宇宙人相手の宇宙戦争」説が現実となるか? ブラウザが応答しなくて書き直してる間に、何やらロシアで隕石が落ちたと報じられてたり。

*5:魔女のイジェクトを前提とした「調理場みたいな部屋」とは言いえて妙な表現。キカコ遭遇戦前にシノ達三人の居所を密告した魔女がそのままイジェクトされたと思しき場所と同一だと思われる。

*6:【視憶】【操憶】を使う魔女を帯同したりはしていない、ということは……発動中に質問がなされ、瑞花は発動しながら受け答えが可能ということか? となると発動阻止は不可能でも、発動終了までに有効な情報を得ることの妨害は出来るかもしれない。ただ女史に「瑞花が死なないように予知をさせない」動機はあっても、「瑞花の予知で脱走者が死なないようにする」理由はないな……。