ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

山田玲司『美大受験戦記 アリエネ』第15話――《嵐景学院の師匠/Stormscape Master》


予備校名物・「恋に落ちると受験に落ちるの法則」

(第14話の感想はこちら)

 第15話「恋に落ちると」(2月6日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。しばらくぶりに普通にやろうかと。

(あらすじ)前回同日、夢が帰宅すると久しぶりに帰っていた父と顔を合わせ、夢追い人に厳しい現実と課題を突きつけられる。翌朝の予備校屋上で、有は青木先生に講習の終わりに自分の評価を頼む。講師として恋と受験の板挟みを熟知する先生はどちらか選ぶよう勧めるが、有の意思は固く、自分を鍛えてくれと願い出る。かつて自身も予備校で恋をし、敗れた青木先生との、痛い男同盟が結成された……?(あらすじ終了)

 
――はたして今回は、対比的な組み合わせが幾つもある。

  • 第1話以来出番の無い歌川有の父と、前回に続き今回初顔出しの葛飾夢の父


 歌川父は有を育てた歌川家の人間らしくも厳しく、「絵で喰っていく準備は出来たか?」と高卒の時点で家を出るように言う。葛飾父は昨今の不況の煽りを受けている勤め人らしく、喰える見込みの少ない絵に傾倒する娘の翻意を促す。歌川父は努力すれば簡単だ、と大学に受かれば援助すると言う。葛飾父は好きな事を仕事に出来るのは一握りだけだ、と春期講習で成果を出すよう言う。

「君が死ぬほど努力して…彼女より常に上のレベルにいることだよ…」


 上記の親を持つ子供たち。予備校における5段階評価*1で、初心者クラスのレベル1である有と、合格ボーダーラインであるレベル4下位にある夢。言わずもがな惚れてる男と惚れられてる女。男はとにかく美大に入らなければ→芸大に入りたい、という目標設定。女は(好きな男が其処の助教である事もあり)芸大を目指し、またキュレーターとして芸術の面白さを伝えたいという志を持つ。此度の講習で、ヒロインに告白する為に自身に課題を出した主人公と、親に課題を出されたヒロイン。

「あー俺はね…話にならないレベルの子にはやさしいんだよ……」

  • 歌川有と青木先生


 美大予備校の生徒と講師。今恋をしている男と、かつて二浪の末に恋にも破れた男。予備校でよくあるパターンにはまった者と、幾度となく繰り返されるそれを見てきた者。大学も彼女も、血ヘド吐いても両方あきらめたくない後輩と、今なら両方失わないための方法を知っていると嘯く先輩OB。此処に師弟関係が成立……していいんだろうか?

「ついて来られるか? 俺は厳しいぞ…」キリッ


――美術館での振る舞いを鑑み、速水遼平に影響を受けているヒロインがキュレーター志望というのは実に得心がいく。今回は有が師匠を得たという終わり方ゆえ、どのように親を納得させるかというベクトルの違う難題に彼女がどう挑むのか注視。
 有はそこら辺が最初から解決していなくもないという稀有な環境に育ったが、その一方でかつて小磯が忠告したように「やさしくされて」しまっていた事を突きつけられる。小さな進歩に安堵していた為か、東山光河に続く痛打、というよりむしろ不足ばかりという事実を再認識させただけとも言う。
 そして未だその顔を完全に顕してはいないが、いずれ来る講習最後の講評会における毒舌3トップ、鬼の俵屋・悪魔の狩野*2に並ぶ三人目たる青木先生、これまで「普通」の奥に隠されていたものがこれからの有を厳しく激しく鍛え、導くことになるのかと。
 その教えはいかなるものか、仕事上他の生徒も見なければならない人がどうやるのか。作者の著書『資本主義卒業試験』で不可欠な3つの内1つに挙げた“師”を、どう描くのか。まあ気になるのはそんなところとして、今回はお仕舞い。思うに、“師”だって悩める人間で、“師”にだって“師”が居るはずだが、はたして。

(後日付記;第16話感想はこちら)

*1:合格確実たるレベル5は東山光河のみで、レベル4との間に深い河があってその中位に月岡弥生。合否はこれからの伸び次第というレベル3上位に小磯一郎と池田水菜。

*2:ちょっとぶりの新規ネームド。俵屋宗達と、狩野正信を祖とする狩野派が由来と見て間違いなかろう。