ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《天才のひらめき/Stroke of Genius》/『極黒のブリュンヒルデ』第5話

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 「何で今まで気づかなかった!?
  なんでおれは あんなことを言ってしまったんだ!?」

―――状況も、真相もだいたい前回予想した通りだった。嬉しくない。やはり岡本倫ドS


 「魔女」の身体を支える「鎮死剤」……彼女たちの命そのもの。人間で言うなら劇的に早いアポトーシス(自死)を抑制……いやさ、薬を飲むだけであれだけの傷が直ぐ塞がるという事は、ますます肉体構造がヒトのものでなく……命とヒトの形を保つ為に薬が必要なのだと推量される。そして「イジェクト」は残り時間に関わらず身体を即座に融解させるコマンド、と。「崩れちゃう」……きっと佳奈は、また寧子も見た(見せ付けられた)ことがあるに違いない。皮膚が裂け、内臓が融けて死んでいく同胞の姿を。

……だから残り10錠、二人で五日分しかなかった薬が火事で焼失してしまった時、直ぐに自分を殺す事を願ってしまったのだろうと。元から諦観の性質があり、表情筋も麻痺して感情を顔に表すこともできない彼女にとっても、苦しみながら融け死ぬ事は恐怖なのだ。寧子に己を殺させてしまう、このままでは遺された寧子は苦しんで融け死ぬという現実を考慮してさえ。
 予知能力者といってもおそらくはそれほど万能自在ではない――自身の未来を予知できないという典型を鑑みても――ただ此処に至って完全に二人きりであるのなら、今更だが「パソコンが得意な友達」は佳奈かもしれぬ。目線すら動かない状態でキータッチに淀みなく、転向手続きを偽造という事は予知以外に異能知覚を備えている可能性はあるが……いずれにせよ代償にまったく見合わない。脱走の動機は今なお明らかでないが、研究所で生かされるより自ら寿命を確定してしまう方がマシな彼女のこれまで。薬が焼失する前の最後の願いは、毎日ケーキが食べたい、だった。


 「大丈夫だ」
 「10時間あるなら なんとかなる」


―――そしてついに、主人公が男を見せるときが来た。これまでは頭の回転は速いが微妙に鈍い、つまり演算速度は優れるが常時全速ではなく、加速に至る初動が遅い。遅かった。危機感、緊迫感が足りなかった。いつ自衛隊が動くか分からない状態で危ういにも程があった。官憲に襲われるよりヒロインに限界が来る方が早かった。自分が迂闊で残酷なことを言った所為だった……時間的猶予も消し飛び、今こそ主人公としての真価が試される。聞きたくない知りたくない耳を塞ぎたい、そんな絶望を希望に変える為に。

……しかしどうして「大丈夫だ」、「なんとかなる」という発言が出てくるのか。そこが解せない。彼が持っている情報、彼に与えられた情報の何処に希望を見る余地があったか? 情報、情報……ん?

  • ●(第1話)かつて「宇宙人が居る場所」へ向かう途上で落下した「ダム」
  • ●(第3話)魔女二人の隠れ家は「ダム」に沈む予定だった廃村にある
  • △(第4話)おそらく主人公は幼少期から変わらず同じ土地に住んでいる
  • ○(第5話)身体が別物だろうと記憶が無かろうと黒羽寧子はクロネコ、かも
  • ▲(第1話)ダムの近くを何度も探したが何も見つからなかった


 無いなら有るところから持ってくるか、持ってきてもらうしかない。後者ならトラックバック先の犬良氏が考えたように「魔女狩り部隊」を釣る方法しか思い当たらないし、前者にしても有るところ、研究所の場所を知らなければ策を練るにもどうにもならない……筈だった。良太は、知っている? 研究所がある場所に心当たりがある?
 しかしその通りだとしてもまだ不足がある。研究所を守るのはプロ、それも魔女を知り尽くしたプロである。命を握られ従っている魔女までも出てくるかもしれない。対して良太は二人の能力も把握していないし、動ける寧子の戦力を頼るだけではまとめて捕殺必至。おまけに10時間のタイムリミット付き。寧子は35時間弱だが……まだ何か見落としがあっただろうか?


 かくして次回、主人公が出す「答え」を――こう言うと高嶺清麿みたいだな――ともかく状況を打開する策を、想像を巡らせつつ待つ。