ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

山田玲司『美大受験戦記 アリエネ』第21話――《せし郎の娘、さ千/Sachi, Daughter of Seshiro》


第2巻は4月27日発売予定!

(第20話の感想はこちら)
 第21話「幸福な王女」(3月19日発売ビッグコミックスピリッツ掲載)。描き切った! 第二部完!

―――とはいかず、ようやく大ゴマ登場の月岡父が現れて有ビビる。説明するだけすると限界に達して逃走。しかし追いつかれ、おでん屋台に連れ込まれる。そして絵の代金として500円を受け取らされ、また彼の使う面相筆を譲り受けるのだった。歌川有、微妙で珍妙な画家デビューの夜のことである。

 さて肝心の絵だが、すごく……ピーチ姫(^o^)です……(違)

 そりゃあ、未だ行き詰ってる所からこんな短期間で技術の飛躍的向上があるわけがないのだが。まあ、あの場で描くべきは技術的に優れた絵ではなく当事者“二人”に届く絵なのだろうが。

―――にしても、弥生が下着姿になってまで講義した技法を殆ど使ってないってどういうことなの……有が彼女の「感じ」を「掴む」には、その過程が必要だったろうとはいえ。まるで成長していない……わけでもないが、これまで学び教わり習った事の何が生きてるのか、首を傾げたくはなる。

 つまりは、今回も最終的になんとかしたのは歌川有の「素」、「才能」(のようなもの)だった。月岡弥生と出会い、交流し、彼女に信用された彼の。
 懸念続く技術面、血ヘドを吐かんばかりの「努力」を以って実を結ぶ展開はまだ先、ということなのだとしたら……講習で成果だして評価されて夢に告白するぞ、という話はどうなるんだろう。いっそ一度は当たって砕けたり? 向こうも父親*1の言葉で余裕が無くなっていく様相であるし。


「笑ってんのか? オレの娘は・・・」


「でも・・・月岡さん・・・大好きでしょ?
「絵」と・・・「お父さん」が・・・」


「「辛くて面白い」、それが「芸術」だ・・・」


―――月岡父から筆と共に与えられたヒント。「面相筆」、「セルリアンブルー」、「ヴァーミリオン」。後は自分で悩んでどうにかしろ、と先達からの課題。これを解くことで何かがどうにかする、もしくは解こうとすること自体が何かの意味を持つ、のかね。


「……それにしても……ホント ヘタな絵………

やさしい絵……」


 はたして、「フラグが立った」という言い方はこの物語にはそぐわないが、許容限界を超える4色目の色となるのか否か。何が起ころうと何をしようとも変わらない受験という現実を鑑みるに、成長への糸口を掴むと同時に少女一人の鍵に触れてしまった危うさ。
 第1巻もこういう面があった覚えが。前へ進んで、深みに嵌るような。あと第2巻はもしかすると、話数的に今回まで収録されないんじゃなかろうか。そんなこんなで「歌川有の一番長い夜」、閉幕。

(後日付記:第22話感想はこちら)

*1:日本で三指に数えられる人物画家をして、描くには「技量が足りてない」と言うほどに想うということ。何かを書きたい描きたい作りたいと思いついた折、技術が足りず想うとおりに表現できない、そんな初心的な懊悩を抱えるほどの想い。父としての愛。そういうものを葛飾父だって持っているのなら……なんだというのか。