ALORC-Bottle-Craft-512-Logbook(Ⅱ)

AよりRへ。記録を継続する。(二冊目)

《命運の転送/Fate Transfer》/『極黒のブリュンヒルデ』第15話

(前回感想はこちら)
(第1〜3話の無料閲覧はこちら)

「だって私 宇宙人見たことありますから」
魔女狩りの刺客がついに正体を顕し―――?


……ええと、結局どういうことなんだ、と。情報ゼロでは対処しようもなく、命を賭して眼前に立ち塞がるしかなかったが、本人から予知から得られた情報からもどう判断していいのかさっぱり。村上良太、ここはお前の灰色の脳細胞(氷菓違う)が頼りだ。次回巻頭カラーを待て!
―――とはいかんので、多少なり情報は整理しておく。


「そそそそそんなことって・・・すっごい偶然です!!」

【問1:転校生にして新入部員・鷹鳥小鳥は刺客か?】【回答2:「限りなく黒に近い灰色」】

 前回ラストからの怖笑顔は一体なんだったんだ、という程にゆるりと時間の流れた今回。鷹鳥小鳥は良太が魔法の事を知っている事も、寧子達が魔法使いである事も知らずに天文部へ入った単なる脱走魔女の一人である、と本人の言からすればそうなる。非情に胡散臭いのは確かだ。同道していた魔女*1が死んだという話もすっきりしないものがあるというか、潜入工作員にしては事情説明(カバーストーリー)が拙すぎるというか。彼女の涙を慮った寧子の性質を見抜いてのことだったらお手上げだが。
 しかしながら、天文台でも山の中でもいつでも寧子たちを害し得たにも関わらずそうしていない。あまつさえ刺客であれば読者情報ではハイブリッドでない単能Aランク魔女で、寧子達にとり未知の相手だのに自分の魔法*2をあっさりと開陳してみせ、しかもそれで誰一人傷つけずハングアップという有り様。

 状況的に刺客でなければおかしいが、刺客ならば解せない事も多い。ただ佳奈の予知は、小鳥がどういう手段か不明とはいえ寧子を殺すと告げており、いずれにせよ警戒を解くわけにはいかない……のに天体観測を続行しちゃうあたり男だな、村上良太。ひとえに、小鳥を含めた全ての魔女の為に。前回でもう日常は終わったかと思いきや、ワイワイと望遠鏡で星を眺める時間を作るとは。
 女の子を泣かすことにかけて岡本倫は明白にドSだが、しかしそれだけではない。


「……夢みたい・・・学校へ行って部活をして
こんな思い出を作れるなんて・・・」

【問2:小鳥は何故、どのように寧子を殺すのか?】【回答2:「さっぱりわからない」】

……で、これを聞いた佳奈に衝撃走る。寧子にはなんでもないと装い、帰り道で良太に「己の命と寧子の命のどちらが大事か」と問うた上で、それを宣告する。

『さっき予知が変わったの 寧子は死なない
その代わり 小鳥に殺されるのはあんたよ』

「……は?」

 再開前にカズミが尋ねて佳奈が答えたことには、小鳥に殺されると予知されたのは寧子だけである。その場合他三名は何故か殺されず済んだのか逃げおおせたのかは定かでないが、刺客であろうとなかろうと小鳥が良太だけを殺す状況がどうして発生するのだろうか? 刺客であれば魔女とその協力者を捕殺するのは当然の筈なのだが……。
 それにはまず刺客のようでいて刺客として振舞わない小鳥がなにかの切欠*3反転、刺客として機能しなければならない。一度戦闘状態に入りさえすれば、今回そうであったように寧子達を助ける為に良太がその身で小鳥の攻撃を受けて死ぬ可能性は普通にある。寧子はそれを望んでいないだろうが、彼にはその覚悟が既に完了している。

……その可能性が発現した切欠が小鳥の発言であり、それを言わせることになった良太の配慮であるというのが奇妙である。そのままならば寧子が100%殺されており、また予知が変わった時点では良太が死ぬ可能性も100%だった。会話の文脈からすれば、佳奈は良太に寧子の代わりに死ねと言っているのだが、しかしそれなら何も言わずに捨て置けばいいのだ。佳奈の忠告に基づき良太が頭を働かせ行動した結果、未来は良い方にも悪い方にも変わりうると他ならぬ予知能力者は知っているのだから。

 佳奈の言行は、行動しない(体を動かさない、予知した情報を教えない)ことを含めて寧子の為にされるものと推量される。その彼女がイザと言う時は寧子の代わりに死ねと言い、同時にそのまま死なないように予知情報を伝える。寧子が無自覚にしろ良太を如何思い出しているのかはさておいても、魔女の為に普通の人間が死ぬ事を寧子は厭い悲しむだろう。理由はそれだけか、佳奈にとって良太は死んでもよい存在か、というのはまあフラグ的発想である。


 はたして演技か否か、他に比して目の特徴的な小鳥嬢がワタワタどもりながら驚いていた一方、また目の描写では佳奈もどことなくこれまでと違うように思う。良太が死ぬ可能性を直視した上で彼に背負われているからか。他方で生きる目的についてやはりシビアな考えがあるのか、小鳥の問題を先送りすると決めた折にカズミの表情が厳しかったり、当事者なのにさりげに半ば蚊帳の外だった寧子が安定のアホの子かつ人の善さを発揮したりと……いつもどおりの濃密さでありましたとさ。

 どうなる次回、どうする良太! そして明日発売の第1巻の中身はどうなっているのか!?
 何話まで収録だ、裏表紙は、カバーの中は? 明日よ、早く来い……ッ!!

*1:名前は千絵。死因は鎮死剤の節約というありがち()そうな話。カズミと同種のハッキング魔法「操網」を持ち、顔見知り。能力が近しい者は研究所内でもよく顔を合わせていた可能性が示唆される。また情報化社会の電子的セキュリティを無効化できるという恐るべき能力がBクラス扱いで処分ということは、カズミ以上のハッキング能力者が存在しえるということか。

*2:時間移動ならぬ瞬間移動かつ位置交換。原型短編『きみとこうかん』ヒロインの能力に酷似している。また「転位」という呼称や一度使うだけでハングアップという仕様は沙織の「転時」に近い。移動や転送に関わる魔法は消耗が激しいものなのかもしれない。ただ彼女、ハングアップしたにも関わらず普通に動けている……? やりようによっては殺傷行為に使えそうあるし、地味呼ばわりされた有効射程や効果範囲についても三味線を弾いている可能性も。

*3:単に演技をやめるのか、予想したように二重人格者でなんらかのキーがあるのか、これから登場する研究所の誰ぞがそのスイッチを押すのか……ビーコンはついてないが……魔法的なものか? Aランクの小鳥とは別に、彼女の人格を操作できる/している魔女が用意されている? あの言葉が彼女の本心であることは疑いたくないが……